2009'03.05.Thu
2009'03.03.Tue
2009'03.02.Mon
2009'02.23.Mon
ユーリの鋭い一撃に倒れる奴の心臓には見慣れた魔導器が蠢いていて、それを見た瞬間、足元が崩れていく様な気がした。彼が生き返らせたのは俺だけでは無かったのだ、と浮かんだのは場違いなそんな感情だった。また、ざわざわと胸の魔導器が嫌な音を立てる。それを誤魔化す様に、無理に立ち上がる奴に向かって矢を放ち続けた。
「何で、だよ」
奴は、あの戦争を生き残り、それでいてあのギルドという道を選んだのだと思っていた。俺とは違う道を、選んだのだと思っていたのに。
「ミーもユーとセイムと言うことですヨ」
手元の矢を全て使い果たし、仕方なく持ち変えた変形弓で奴の元へと走る。振り下ろした剣が奴の大鎌長銃に当たり、嫌な金属音が大きく響いた。その音に紛れる様に呟かれたその台詞に、驚きを隠せなかった。
「何、を」
「おっさんっ」
青年の叫ぶ声に我に返れば、奴の構えた長銃の先が俺に向いていて、目の前で閃光が弾けた。体に衝撃が走る。けれど思いの外痛みは感じずに済んだようで、咄嗟に閉じてしまった眼を開く。
目の前では黒い塊がうずくまっていた。
「……ッ、ユーリっ」
名を呼んでも反応は無い。その様に血の気が引く様な気さえしたが、無情にも奴の腕の動きは止まる事は無く、駆け寄る事など出来はしない。嬢ちゃんの回復術の詠唱が聞こえて、意識を目の前の奴に集中する。後悔は今するべきでは、無い。
「余所見するからですヨ」
軽口と共に振り降ろされた大鎌を寸での所で避けて、強く握り締めた短剣を振り上げる。それは顔に一筋の傷を付けるに過ぎなかったが、その時出来た隙を逃しはしない。
左手の変形弓で手薄となった脇腹目掛けて斬り付けた。
「……、ぐッ……」
瞬間浮かぶ苦悶の表情。鈍った動きに更に大きく斬り付ければ、血を噴き出して膝を着いた。
裂けた服の隙間から魔導器が妖しく輝いている。
「………終わりだぜ、イエガー。ドンの仇を取らせて貰うわ」
その輝きを睨み付けながら言い放てば、奴は薄く笑う。それはまるでこの結果を見越して居た様な、顔で。
「……、まさか」
「…………言ったでしょう、ユーと同じ、だと」
ごぽり、と嫌な音を立てて血が吐き出される。立てていた膝を支える力さえも残っていないのか、そのまま血溜まりの中に倒れ込んだ。
留めを刺そうと構えていた短剣は奴の頭上で止まったままだ。こんな物を使わなくても、この男は、もう直ぐ終わる。俺が留めを刺さなくとも。
「……は、相変わらず、甘い、な…シュヴァーン、」
そう最期に呟いて、奴は眼を閉じる。
胸の魔導器の輝きは、静かに消えていった。
「……、おっさん」
奴の命が消えていく様を只眺めていれば、後ろから掠れては居るけれど聞き慣れた声が聞こえた。振り向けば青年が嬢ちゃんに咎められながらも起き上がっている。腹に手を当て、苦悶の表情を浮かべながら、だけれど。
「青年、……ごめんね、おっさんのせいで」
「いいって、それより、良かったのか」
そう言う青年の目線は奴に向いている。未だ握られたままの短剣はあまり汚れてはいない。
「やっこさん、死にたがってたみたいだからねぇ、そこで留め刺したら逆効果でしょ」
それを鞘に仕舞い開いた手を振りながら言葉を返せば、明らかに納得していない顔を見せながらも敢えてそれ以上言いはしない。青年のその素振りには胸が痛む気がしたけれど、それが逆に嬉しかった。
「後は、あいつだけか」
「この状態で挑んでも勝たせてくれる様な人じゃないわよ。焦っても仕方無いし、取り敢えずここで体勢立て直そうや」
幸いにも此処には他の敵が来る気配はない。唯一の扉にさえ気を掛けていれば、ある意味隔離された空間だ。奴の事が気にならない訳では無いが、それを言っては居られないのが現状。
「………意外と結構、冷静なんだな」
俺の言葉に同調するように、皆は痛めた身体を床に休めて各々回復術やアイテムを使い始める。呆気に取られる青年にもグミを投げつけて、軽く笑いながら散らばった矢を拾い集める。
「何か、おっさんも自分で不思議なんだけどねぇ」
折れて無い物を大方拾い終えて、青年の横に腰を降ろす。未だ痛んでいるであろう腹に回復術を掛けてやりながら、そう苦笑した。
本当に不思議だった。此処に来るまでは冷静では居られないだろうと自分でも思っていた。いや、寧ろ奴と戦う前まで思っていたのだ。彼がまた自分を欲してくれたら、自分は本当に彼の元に戻ったりしないだろうかと。幾ら彼が歪んでしまっていても、それに今まで自分は付いて行っていたのだから、と。
彼らの前では決して言えないそんな事をずっと考えていたのに。
奴の最期を見たら、気付いてしまった。いや、思い知らされたという方が正しいか。分かっては居たけれど、改めて現実を突きつけられたのだ。
彼はやはり、もう道具を必要としていないのだと。
そう悟ればそれまでで、思考は急激に冷めていって今に至る。結局は道具としてまだ彼に縋りたかったのかと自分を笑いたくもなったけれど、それさえも馬鹿らしいと思ってしまった。
「………漸く、目が覚めたって所かね」
青年の傷が大方塞がるのを見て、掛けていた回復術を止める。軽く自身にも掛けてから周りを見れば、準備は出来ている様だった。ゆっくりと立ち上がり先に進むために扉に向かう。
遠くで眠る奴の顔を再度見ることは、無かった。
開いた扉の先には彼が背を向けて立っていて、演技掛かった仕草でゆっくりと振り返る。彼の視線は決して自分を見る事は無く、青年に鋭く突き刺さるばかりだ。
「その分ではイエガーは役には立たなかったようだな」
「……死んだよ」
「最後くらいはと思ったが、とんだ見込み違いだったか」
そう吐き捨てる彼の顔には微塵の感情も浮かんでいない。続けられる言葉は彼が求めていた望みを示したものだけ。何度聞いたか分からないそれは、今や只の音と化してしまった。
「なぁ大将、どうあってもやめる気はねぇの」
それでもそう発してしまったのは、最後の望みを捨てられずに居るからだろうか。彼が用無しの道具の言葉を聞く筈が無いのに。返ってくる言葉など、無いに等しいに決まっている。
「………お前までがそんなことを言うのか」
けれど返ってきたのはそんな寂しげな言葉だった。
何故、貴方はそんな顔でそんな台詞を自分に向かって言うのか。自分は用無しになったのでしょう。貴方の理想に自分は必要無くなったのでしょう。
貴方の本心は、一体何処にあると言うのか。
結構長めの10のお題2より
配布元:Abandon
取り敢えずこれで一つ目が終わりです。長い(苦笑
連作全部でどれだけになるのか考えると笑えてくるんですが。
終わるかなぁ、この連作。
取り敢えず忘れ去られる前には完成したいです(苦笑
次からは過去話に進みます。
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