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日記兼短文落書置場..........。

日記だったり短文や絵を載せたり等々何でも賄えなノリで。

2024'05.17.Fri
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2008'06.19.Thu
長いし、少し暴力表現有りです。



彼らに従事すると決めてから俺の生活は変わった。それまでは屋敷中心だったのに、今はデリスカーラーンとテセアラを行ったり来たりだ。とはいっても実質的にはメルトキオ内で屋敷と教会の行き来に過ぎなかったけれど。
神子の座を譲ると言っても簡単には行かなかった。一度決まってしまったものを変えるのは難しいのだという。でも赤の他人に譲るのとは違って妹であるセレスに譲るんだからそこまで難しいのかと聞いてみたら誤魔化されてしまった。
そこで疑問が湧き上がってしまったけれど、固有マナが違うのだから今は仕方がないと、今後お前にはそれを賄うべく訓練を受けてもらうのだと言われれば、従わない訳にはいかなかった。これは全てセレスの為。神子を棄てる為。何だってやってやると決めたんだから。
「魔導、注入……」
「そうだ、これをしなければ何も始まらない」
「……なんでそんなこと」
意気込んで臨んだ部屋にはなにやら物々しい装置が沢山あって、何がなんだか分からずにいればそう言われた。何故そんなことを俺がしないといけないのか、その時は全く分からなかった。後々、その訳を彼から聞くことになったのだけれど。
「神子の座を、譲りたいのだろう」
有無を言わさぬその響きに息を飲んで、仕方無く渡された粉末を口に含んだ。
「……にが、っ」
突如歪んだ視界、崩れる体。毒だったのかと思ったのも束の間、為す術もなく重力に従い倒れていく中で、俺の意識は途絶えた。


目覚めたのは無機質なベッドの上。冷たい温度を背中に感じて覚醒した。辺りを見渡せばそこは先程の部屋と変わりなくて、しかし、先程とは違い見知らぬ少年が横に立っていた。
「漸く目が覚めたね。全く、僕は待たされるのが嫌いなんだけど」
「…あ、てんしさま、は」
その姿とは裏腹に、背筋が凍るかと思うぐらいの威圧に満ちた台詞を吐いた少年に、戸惑いと恐怖が隠せなかった。とっさに出した声は、震えていた。それが起き抜けのせいか別の原因かなんて考えたくもない。
「何それ、クラトスの事?生意気だなって思ってたけど、可愛い所もあるんじゃない」
「………お前は、一体、」
高らかと嘲笑われるが、逆に思考は急速に落ち着いて来て、先程までとは違いしっかりとした口調で問いかけた。しかしその問いも途中で、
「やっぱり生意気だよ」
「がっ、く……」
思い切り首を締められた。
余りの事に俺の思考は停止し掛けるけれど、そうしたらここで終わると、ぎりぎり繋ぎ止めた。
「まだ死にたくないなら、足掻いてみなよ」
力の限り睨み付けた俺を見て、奴は笑いながら腕の力を抜いた。無様に崩れ落ちる俺の耳元で、奴は小さく呟く。
「僕が憎い。なら殺してみればいい」
聞こえてきた物騒な言葉に耳を疑うが、奴は薄く笑ったままだ。
「じゃないと殺しちゃうかもね。此処には護ってくれる騎士もいないものね、ゼロス」
何故奴が俺の名前を知っているのかとか、考える余裕も無かった。ただ、このままでは殺されると、それだけを思った。
奴が再び俺の首へ腕を伸ばしてくる。俺の体は麻痺してしまったかのようにびくともしなかった。もう駄目か、と目を瞑って身構えて居れば、不意に。
突風が巻き起こり、奴の腕を引き離していた。
「………ぇ、…な、に」
「うーん。まあまあ、かな。取り敢えず成功だね」
何が何だか分からずぽかん、と間抜けな顔をしていた俺に、奴は先程とは打って変わって優しい笑みを投げ掛けた。更に訳が分からなくなっている俺の腕を引き上げて立たせると、手を伸ばして、奴は言った。
「おめでとう。これで君は僕達の仲間になったんだよ」

これが、彼との出逢い。


案内された部屋は先程までとは違って、綺麗に整えられた客室のような部屋だった。
「何ぼーっとしてるの。ほら、早く座りなよ」
その部屋の中心にこれまた綺麗なテーブルと椅子があった。まるで屋敷のティールームのようだった。ご丁寧に、ティーセットまで置いてある。
戸惑いながらも勧められた椅子に座れば、正面に彼が座った。優雅な仕草で紅茶を注ぎながら、静かに笑う。
「それで、何から聞きたいかな」
彼が紅茶を飲んだのを確認してから渡された紅茶を一啜りして、その香りを味わっていれば不意に問い掛けられた一言。彼の顔を見れば、まるで先程の仕打ちが嘘のような、優しい笑みを浮かべていた。
本当の所、聞きたいことは沢山あったのだけれど、先程までとのギャップと非現実的な今の状況に混乱していて、どうしていいか分からずにいた。
そんな困り果てた俺の様子を見てか、彼は苦笑して仕方無くといった感じに話を始めた。
「取り敢えず、自己紹介だよね。……僕はミトス、ミトス・ユグドラシルだよ。あぁ、君の名前は知っているからね、ゼロス」
何気なく言った彼とは裏腹に、俺は随分と驚いていた事だろう。ミトス、とは勇者ミトスの事だろうか、いやミトスは名前としては有りがちだ。寧ろそれ以上に驚いたのは。
「……ユグド、ラシル…」
脳裏に浮かんだのはあの日のあの支配者の顔。圧倒的な力を思い出すだけで身震いした。なぜ目の前の彼がその名を語っているのか。いや、先程の彼の力、威圧感を考えればその答えは自ずと分かる。
「……な、んで」
目の前の彼は、見る限り俺と年がそんなに変わるようには思えない。良くて14か15あたりだ。前に見たあの支配者は少なくとも20は越えていたと思ったのに。
「聡い子供は嫌いじゃないよ」
ふんわりと笑いながら返されたその言葉は肯定の意を含んでいた。それに更に狼狽える俺を見て、彼は更に笑った。
「僕が恐ろしいかい」
問い掛ける声色は優しい少年そのもので、しかし突き刺す視線は冷たかった。硬直する俺を尻目に彼は続ける。
「まぁ仕方ないとは、思うけどね。正しい時間を生きているものなら、それが正しい反応だ」
そう言った瞬間、ほんの一瞬だけ彼は表情を曇らせた。しかし苦々しい顔をしたかと思えばすぐに冷笑が張り付いている。何故かそれが寂しく感じた。
「正しい、時間…」
「お前の選択次第ではお前もそこから外れてしまうかも知れないけどね」
不意に伸ばされた彼の腕に身は強張る。先程の仕打ちが頭に甦って、無意識に首を守ろうと腕が動いた。しかし伸びた腕が触れたのは首より少し下、鎖骨の中心にある輝石を装着するための要の紋。中には今はエクスフィアが入っている。そこをとても優しい仕草で撫でられて、力の籠もっていた腕がゆるゆると落ちた。
「……あなた、は俺に何をさせたいんですか」
呟いた言葉は無意識に敬語になっていた。この子供があの支配者だと考えるよりも先に、そうさせる圧力が彼にはあった。絶対に覆せない何かが。
「さっきも言っただろう、お前は僕達の仲間になったんだ。もう只の人間じゃ無くなったんだよ」
笑いながら彼が言い放った言葉は、あまりにも大きな衝撃を俺に与えた。ただでさえ周りとは違うのに、また俺は一人外れて。
「………っ、もしかしてさっきのは」
「……お前は本当に聡い子だね。そうだよ、マナだ。お前はマナを扱えるようになったんだよ。まだまた未熟だけれど、ね」
マナ、それはエルフの血を引く者にしか使えない、不思議で不気味な力。ハーフエルフが迫害されるのはこの力が使えるからだ。人間には決して使えない、使えるはずもない、使いたくもない力だ。使えると言うことはエルフの血が少なからず入っている証拠。汚らしい、エルフの血が。
一瞬にして悪寒が走った。あれほど嫌っているハーフエルフと同じに成ってしまった。母様を殺した、あの忌々しい、ハーフエルフと同じに。
「そんなにハーフエルフが憎いかい。ふふ、可笑しな話だ」
茫然としている俺を嘲笑いながら、彼は楽しそうに言う。憎悪を込めた顔で彼を睨めば、さも滑稽だとでも言うように手を叩きながら更に笑って。
「お前が救いたいと言ったあの妹だってハーフエルフじゃないか」
心臓が止まったと思う位の残酷な事実を突き付けた。


「な、んだって…」
「お前が神子の座を譲りたいと言った、お前の腹違いの妹セレスは、エルフの母とお前の父の間に生まれたハーフエルフなんだよ」
唖然としたままの俺を尻目に彼は楽しそうに言葉を続ける。しかしそれは今の俺には呪文か何かのようにしか聞こえなくて、何も頭に入ってこない。
「だからこそ早期に魔導注入を行ったって言うのに、お前はそれを拒むんだもの。これじゃあ神子の座は譲れないよね」
残念そうな彼の声とがたりと揺れる椅子の音が聞こえてはっと気付けば、彼は部屋を後にしようとしていた。このまま彼を行かせてしまえばセレスは一生神子にはなれないかもしれない。そう思った瞬間、俺は彼を必死に引き留めた。
「俺の身体がハーフエルフと同じになっても、良い。それであいつに神子の座を譲れるなら…」
そう言った瞬間、彼はふわりと優しく抱き締めて来る。予想もしていなかったその行動に驚き、どうして良いか分からずただされるがままに突っ立っていた。
「……えっと、あの……」
「お前は、可哀想な子だね」
耳元で小さく呟かれた言葉はとても寂しげなもので、とても悲しみを含んでいた。彼にこんな部分があるとは思っていなかったから、その様子に戸惑う。
「あの……、ユグドラシル、様」
「ミトス、で良いよお前は。ゼロス……神子を譲りたいのなら、精一杯頑張ってマナを使いこなせるように成らないといけない。それこそハーフエルフ並みに」
「…………、はい」
漸く腕の力が抜かれ自由になったかと思えば、しっかりと視線は外されないまま見つめ合うことになる。
「だから、僕が直接教えてあげよう。他の者よりは確実に良いだろう」
「え、良いんですか……」
「次回からは僕の所に直接連れてくるよう伝えておく。覚悟しておいてね、僕は厳しいよ」
微笑みながらそう言った彼に深々と礼をして、時間だからと呼びに来たクラトスと部屋を後にした。何故かクラトスが複雑な表情をしていたけれど、見なかった事にした。




「姉さま……、あれは妹の為なら種族を越えることを厭わなかったんだよ。僕達の希望は、まだ残ってるって事なのかな……」

孤独な支配者に応える声は、無い。







長い。
クラゼロお題の繁栄世界の神子の続きに当たります。
どうやってミトスとゼロスの馴れ合いを表現しようかと思いながら書いていたらこんなになってしまいました(苦笑
最初のあたりは拍手に一時期載せていたものになります。ちょっと書き直してありますが。
セレスの流れはどこかでそう聞いたので、出来るだけ公式重視と言うことで。なんだっけ魔術が使えるからだっけ。
取り敢えず至る所に趣味の入ったミトス様が居ます(笑
この後にゼロス君は魔術や天使術を覚えていくんでしょう。それもいつか書きたいな。

ここまで読んで下さって有難うございます。

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2006'01.26.Thu
つい先日、親父がこの世からいなくなった。
つまり死んだってことなんだけど。もともと、俺の前に現れたことは殆どなかったから、あんまり実感は沸かない。
それでも、俺が神子の位に就くことになるわけで。セレスじゃなく、俺が。
それでもって教会で堅苦しい神託の儀式なんてものを行う羽目になるわけで。

神託の儀式といっても衰退世界で行われてるものとは違うらしくて、形式めいたものでしかないんだけど。
クルシスから直々に天使様が来て下さるそうで。
こんなただの見世物になるだけの場所に、わざわざ来て下さるなんて天使様も暇なんだなぁ、なんてそんな風に考えてた。
「どうなされました、神子?天使様の御前でございますよ?」
だから、そんな教皇の言葉も耳には入らなくて。
目の前にいる、見たことのある顔を見たら、続く祝詞なんて頭から消えうせてしまった。
青羽の天使が、ふっと笑う。
「新たなる神子ゼロスよ、私がこの場にいることが不思議か?」
その台詞を言われた瞬間、俺は今置かれている状況を思い出した。
違和感が無いように、でも急いで言葉を紡ぎだす。
「そのようなことはございません。そのお姿の神々しさに、目を奪われてしまいました・・・天使様」
周りの人間はその通りだ、と俺の言葉を肯定することで満足して、さっきの俺の行動にもう疑問はないらしい。
代わりに、目の前にいる天使様は俺の言葉に驚いていたけど。
「そうか・・・ならばゼロスよ、お前は我がクルシスに忠誠を誓い、神子としてこのテセアラのために尽くすと誓うか?」
すぐに何事もなかったように台詞を進める様は、あんたらしいと思った。
何となく少し寂しいなんて、思ったりもしたけど。
はい・・なんて静かに返事をして、そこでは神子らしく振る舞う。それが今俺がすべき事だし。
「クルシスはゼロス・ワイルダーを新たな神子として認めよう・・・」
その台詞で儀式も終了。人もぞろぞろと教会から出ていく。
俺は、あぁ、そういえばあんたにフルネームで呼ばれた事なかったな、なんて思いながら、人がいなくなるのを見ていた。

この後は神子と天使様だけの時間。
他の誰も近づいてはいけない時間。
本当は神子がクルシスから力を与えられる時間らしいけど、俺には関係なかった。
二人だけになった空間でここぞとばかりに口を開く。
「なぜ、貴方がここにいるんです?てっきり俺に失望してクルシスに帰ったんだと思ってましたよ」
昔とは違う、皮肉を含んだ口調で言う。
前にいる天使様は、その口調に顔をしかめたみたいだった。
まあそうですよね、昔はもっと可愛いげありましたもんね、俺。
でも6年っていうのは人を変えるのには十分なんですよ?元々俺マセてたほうだし?
失望しました?今の俺に。大人の酸いも甘いも知っちゃったもんで。
そんなことをへらへら笑いながら言っていたら、無愛想な天使様はちょっと怒ったみたいだった。
やり過ぎたかな?なんて思ってたら、今度は悲しそうな顔をされた。何となく胸が痛い。
その理由はわかってはいるんだ。
「お前はそれで良いと思っているのか?」
唐突に言われた言葉。もちろんそれは、今の俺に対しての。
んなわけないじゃん。俺はそこまで落ちぶれてなんてない。決してそう声には出さないけど。
「もちろん。何を今更な事をお聞きになるんです?俺は神子なんですから」
ほら、この口は平気で思ってもないことを言う。
昔もそうだったといえばそうなんだけど。余計にひどくなった、そう思う。
あぁ、こんな自分に吐き気がする。

込み上げてくる吐き気で、しだいにこの場にいることさえも辛くなってきた。
それを悟られないようにしながらも、待ち切れなくなって用件を催促する。
「・・お前にはクルシスの本部に来てもらおう」
「は・・・?」
神子が再生の旅なしにクルシスに向かい入れられるなど、聞いたこともない。
ましてやここは繁栄世界だ、神子はあってないようなものなのに。
「・・それはどういうことなのでしょう?俺は天使様に呼び出されるようなことした覚えはないんですけど」
「うむ・・・クルシスの統括者、ユグドラシル様がお前に会いたがっているのだ」
何故?その言葉がまず浮かんで来た。
自分は神子になったばかりだし、目を付けられる理由など何もない。
何で俺が?と思わずにはいられない。
「どうして・・・」
「それはお前には関係のないことだ、・・・もういいだろう?相手は待っているのだ。今すぐ行くぞ」
言いかけた疑問はばっさりと切り捨てられ、天使様は今すぐに行こうとするところだった。
「えっ・・今から!?ちょっと・・どうやって!?」
俺の腕を掴んで飛び立とうとする天使様の様子に、慌てて叫ぶ。
ここは広くても部屋の中だ、飛んでいけるはずがない。
外に出たところで、俺が空を飛んでたら大変なことになる。というか恥ずかしいからやめてくれ。
「私がここにどうやって来たと思っている?ここの上部に空間転移装置があるのだ。それを使っていく」
そういうと天使様は俺を引っ張って天井に向かって飛んでいく。
ぶつかる、そう思って目を閉じるけれど何も起こらず、恐る恐る目を開けるとそこには。

天使ばかりの世界があった。


「よく来たな、ゼロス・ワイルダーよ。私がこの地を統べるユグドラシルだ」
案内され連れられたのは、俺を呼び出した張本人の前だった。
もっと老けたじじいを想像していた俺は、そのあまりの若さと美しさに言葉が出なかった。
「そう堅くなるな。今のお前には何もしない」
「は・・あの、それじゃあ何で俺は呼ばれたんでしょうか・・?」
遠慮がちにそう言うと、彼は間を置いて言った。
「・・・お前は神子制度をどう思っている?正直に答えていい」
「俺は・・」
素晴らしいと思っています。そう言おうとして、止まった。
彼と目が合って、その見透かされているような目に、何故か恐怖心を感じ、いつもの様に偽った言葉を吐くことが出来なかった。
「俺は・・・・なかったらよかった・・って思って・・ます」
冷汗が流れた。
どんな罵倒を受けるのだろう、もしかしたら殺されるかもしれない、そう思った。
けれど彼の顔に浮かんだのは笑みだった。
「そうか・・・ならばもし神子から開放してやるといったら、・・・どうする?」
「え・・・・」
さっきこの男は何と言った?神子から開放すると・・?
それが本当ならセレスは・・・。
「お前の妹に神子の座を譲ることもできる・・・」
それを聞いた瞬間、俺は身を乗り出して叫んでいた。
「本当に・・!?本当にセレスに神子の座を譲れるんですか!?」
もしそうなればセレスをあの修道院から出してやれる。あの狭い部屋から。
「ああ。だが、そのかわりにこちらの手助けをして貰いたいのだ」
手助けとは・・何をしろというのだろう。でも、俺がそれをすることでセレスを出してやれるなら・・・。
「・・やります。何でもやりますから、俺を神子から解放してください。そして、セレスに神子の座を・・」
「わかった。ではこれから当分の間、定期的に我々の所に来て貰う。することが全て済んだら、その時、神子の座をお前から妹に移してやろう」
はい!とそう答えた俺は、ただ喜びに浮かれていて、その美しい天使達の長が、妖しく笑っていることに気付いていなかった。




「・・・なぁ」
天使達の街を歩きながら、横で仏頂面している天使様に声をかける。自然と口調は素に戻っていた。
「・・・あんたは、ここに俺を連れてくる為に俺に近付いたのか?」
この街に連れてこられてからずっと考えていた。
おかしいぐらいに事が進む。
まるで俺がここに来るのが当たり前の様に。
元から決まっていたかのように。
「・・・なぁ」
「私の意志だ」
「え」
いきなりそう言い切られて、逆に何も言えなくなる。
でも、そうならば本当に…
「あんたは…」
「…と、こう言えば満足するのか?」
フッと鼻で笑われれば期待をしていた自分が馬鹿らしく思えた。
「あーそうですかそうですよね期待した俺が馬鹿ですよ」
合わせていた歩調を速めて、後ろを向かずに先へ進む。我ながらにガキっぽい拗ね方だ。
後ろで呆れ果てたような溜息が聞こえる。
「先に行ってどうするつもりだ?」
「……戻るに決まってるんですけど」
「ほう、お前にあの場所から降りる手段があるとは知らなかったな」
そう言われて俺達がここに来た時のことを思い出す。
何となく凄くむかついた。


「今後クルシスから呼び出しがある時は、代わりの者が来るはずだ」
あの後教会に戻って来たが、儀式後に入って来た人間はいないようで。
しんと静まり返った空間に、悲しいかな男二人で立っていた。
「あんたは来ないんだ…?」
「生憎忙しい身なのでな」
「…そっか」
「…」
「……なぁ」
「…何だ」
「今日の話、嘘じゃねぇよな…?」
「……何故嘘を付く必要があると?用は済んだのだ。私は帰らせてもらうぞ」
そういうとクラトスは羽を広げて天井のほうに昇って、消えた。
ふっと肩の力を抜き、教会の椅子に腰掛けた。今日は一段と疲れた気がする。
神子を譲る…ねぇ。そうしたら俺はどうなるんだろう。
そんな事を考えながら、教会の扉を開ける。
開けた先にいるだろう、『神子』 を期待している人間達に貼付けた笑みを浮かべながら。
その時まで、『神子』を演じ切ってやろうじゃないか。

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2006'01.26.Thu
今日、新しい護衛の人がきた。
十数人目の人だと思う。正確な数なんてもう数えるのが面倒になってしまった。ころころ変わる、護衛だという人は皆、会った瞬間から僕の前で膝をついて頭を下げてくる。自分の半分の身長もないような僕を下から見上げながら、貴方の事を命を懸けて守ります、なんて本心か建前か疑わしい言葉を吐くんだ。
いや、僕には分かっていたんだけどね、それは建前でしかないってことに。それなりのお金が貰えるからって、こんな小さな僕のために、命を捨てるやつなんていないんだから。
でもね、みんなその通りに死んでいった。当たり前って言えば、当たり前何だけど。僕を狙うのは国を狙ってる奴らばっかりだし、生半端な奴らじゃないんだと思う。実質の彼らの役目は、僕の盾になることだから、死んだって構わないんだ。その証拠に、護衛が死んだ何時間後には、新しい護衛が来るんだから。今日も、4時間前に護衛が死んだばっかりだ。
だからかもしれない。僕はその言葉が嫌いだった。守るって言いながら、すぐ消えていくんだから。顔には絶対出さないように、心がけていた。顔に出してしまった時は、その場でその護衛は消えていたけれど。
だからその時も、僕は表情を変えないように、張り詰めていたんだ。
でも、その護衛の口から出た言葉は、僕の表情をまた違う意味で変えてしまったんだ。
「お前が次代の神子なのだな。まだこんな子供ではないか」
膝をつくどころか礼さえもしなくて、小さな子供を見下ろすように。尊敬も礼儀も全くないような言葉を、普通の子供に言うみたいに僕に向かって言ったんだ。
今まで、こんなふうに子供扱いされたことはなかった。表面上は。本当はいつだって、僕がまだ子供だと甘く見られてるのは知ってる。だからって、そんなこと言う度胸のある人はいなかった。一歩間違えれば僕の怒りを買って、教会に目を付けられたり、生きてることさえないかもしれないのに。
だから逆に、僕はなんか嬉しかったんだ。いつもはそのまま頷いて終わりなのに、その護衛を見上げて、言葉をかけたくなった。
「・・・貴方は僕のそばにいてくれますか?」
その護衛は、当たり前だというふうに僕の頭をそっと撫でてくれた。その掌の温もりは、なんとなく、父様みたいな感じがした。父様にそんなことをされた覚えはなかったのだけれど。


その護衛が天使さまだって知ったのは、母様が死んだ次の日だった。

その護衛は、クラトスといって、遠い街から来たのだといった。彼はそれまでの護衛とは比べ物にならないくらいに強くって、一年以上たった今でも、僕の護衛をしてくれていた。
「クラトスは、家族とかいないの?」
クラトスは他の護衛とは違って、僕が出かける時以外でも、いつも近くにいてくれた。それまでの護衛は、外に出るって時しか近くには来なかったから、今までは、護衛が近くにいない時は、外に出ることさえできなかった。
だから、彼が近くにいることで、僕は前より多く外に出ることができたし、彼とよく話すようになった。今も屋敷内のソファーに座って、彼と話をしている所だった。
「・・・妻と息子一人がいた」
彼は、若く見える。30歳にはいってないと思うけど、声が結構渋いし、本人が年齢を口に出したことはないから、本当は分からない。でも、子供がいるようには見えなかった。
「子供がいるの!?そのこ何歳?僕と一緒?」
僕は同じ年頃の子供と遊んだことがない。みんなが外で遊んでいる時、僕はマーテル教のお勉強をしていたから。だから余計に、クラトスの子供っていうのがどんな子なのか気になった。
「最後に見たときは3歳だった。言葉を喋れるように、・・・なったばかりだった」
クラトスの顔がどことなく曇った感じがした。変な感じがして、さっきの言葉の語意を探ってみる。
「最後って・・・もう全然会ってないの・・?」
僕の父様も、全然会ってくれないから、と。そう続けたら、彼は苦笑して、僕の頭を撫でてくれた。その温もりが、気持ちいい。
「会いに行けたらどれほど好いか・・・・」
彼の小さな呟きは、僕に届いてはいなかった。

その年の冬はいつもよりもずいぶん寒かった。毎年雪なんかぱらつく程度のメルトキオで、フラノール並に積もったくらいだったから。
街が一面白くなる様は、いつもとは全然違う街のようで、とても幻想的で綺麗だった。
だから、クラトスはその時、偶然にも遠くに出かけていて、本当なら外に出ることは出来なかったんだけれど、無理やりセバスチャンに頼んで、外に出る許可をもらった。
あまり長くは出ないと約束して、外に出る。初めて見る大粒の雪は空から落ちてくる綿あめみたいで、僕は夢中になって空を眺めていた。だから、後ろの気配に気付かなかった。
「そのままでは風邪を引きますよ・・・」
そう母様の声がして、後ろから上着をかけられた。母様と外に出るのは久しぶりで、なんだか余計にはしゃいでいた。
「母様!僕今から雪だるま作るね!とってもとっても大きいやつ!」
そういって僕は興奮しながら雪だまを作る。近くには来てくれなかったけれど、母様が遠くで見てくれているのがわかった。
何分経ったか分からない頃、転がしていた雪だまも大きくなって、転がすのをやめて形を整えていた時、不意に後ろから足音が聞こえてきた。
母様が来てくれたんだ。そう思って後ろを向こうとした瞬間、雪だるまが赤く染まった。
頭の上に、黒い影が出来る。恐る恐る後ろを向けば、母様が胸を押さえて倒れてくる所だった。
「母様!」
大きく叫んで、母様を支えようとした。まだ小さい僕にはその体重は支えきれなくて、そのまま後ろに倒れこむ。母様の重みを感じながら、頭の中では混乱していた。
何が起こったの?どうして母様が倒れてるの?この母様の胸から出てくるものは?なにが?なんで?どうして?どうして?どうして!
「・・か・ぁさま・・?」
どくどくと、母様から溢れてくる血が、僕の身体を真っ赤に染める。その生温さも今は分からない。ただ母様が生きていると信じて、弱々しく呼びかける。
ぴくん、と母様が動いたのが分かった。よかった、とただ思って、もう一度呼びかけようと口を開きかけた瞬間。
「・・ゼロ・・ス、お前なんか・・・お前なんか生まなければ・・よかっ・・た・・・」
苦しげなその言葉を残して、母様が息絶えたのが分かった。身体にかかっている重みが、生き物のものから、ただの塊になっていく。
何も考えられなかった。ただ、呆然と目の前にあった母様であったものを眺めていて。誰かが僕の手を引っ張って、屋敷の中に連れて行くまで、何も分からなかった。

手を引っ張ってきたのがクラトスだって分かったのは、屋敷についた後で。セバスチャンやほかの屋敷の人間は、とても慌てた様子で『母様の死体の処理』に当たっていた。
僕たちがいたのは建物の後ろの一角で、クラトスが僕の異常に気付くまで、何が起こったか分からなかったらしい。夢中になりすぎて少し遠くまで行き過ぎたんだ。
後で、ハーフエルフが捕まったって言われて。僕を狙ってた暗殺者が母様を殺したんだって、今までの経験からなんとなく分かった。それがセレスの母様が仕向けたものだとは、分からなかったけれど。
なぜか、いつも以上に冷静になっていた。全てに現実味がなくて、劇か何かを見ているようで。きっとこれは後で、いつも通りに戻るんだって、母様がいてセバスチャンがいてクラトスがいる、いつもに。
それが現実だって思い知らされたのは、葬儀は明日行われます、とセバスチャンが言ってからで。
葬儀。母様の葬儀。死んだ母様の葬儀。僕のせいで死んだ母様の葬儀。僕の怠慢で殺された母様の、葬儀。
頭の中で、死んでいく母様が何度も言う台詞が繰り返されて。何度も、何度も。僕がいなければ、よかったんだって。そうすれば母様は死ななかったんだって。頭の中で繰り返しながら、僕はそのまま気を失った。

次の日の葬儀は、何も無く終わった。セレスの母様が捕まったこと以外。
僕は葬儀の間、ただ母様が焼かれる様を見ていた。これが明日は屋敷の後ろの十字架の下に埋もれるんだ、なんてぼんやりと考えていながら。
父様も葬儀には参加していたけれど、僕に声をかけてくれることはなくて。クラトスは、参加していなかった。
屋敷の戻ったら、クラトスはいつものとは違う、白い服を着ていて。背中には青く光る羽根があった。
僕がその羽根に驚いていると、クラトスはさも当然のように言った。私はクルシスから使わされた神子を守る為の天使だ、と。
それを聞いた瞬間、ある感情が体の中から溢れてきた。
「な・・んで?なんで、母様が殺された時、あなたは側に居てくれなかったの!?天使さまなら・・なんでも知ってるはずなのに!母様が死ぬって知ってたはずなのに!!あなたが居れば、母様は死ななかったかもしれないのに!!」
ぼろぼろ泣きながら、無言で立ち尽くしている青羽の天使にこぶしを振るう。なさけない、ただの八つ当たりでしかなかったのだけれど。溢れた感情は止まらなくて。
「・・・出てけ、出てけよ!お前の顔なんか・・見たくない!もう僕に近づかないでよ!」
そういって部屋に駆け出し、ベッドの上でただ泣き続けた。気がついたら、もうクラトスは屋敷の中にはいなかった。
もうこれで、クラトスに会うことはなくなったんだと、その後悔と悲しみで、一杯だった。

生憎、神子の信託の時にまた会う羽目になったのだが。


「思えばあの頃って俺様も餓鬼だったよなぁ~ほんと。それにしてもよ?何であのタイミングで天使だって明かしたのよ、天使サマ?未だに俺様わかんないんだけど」
とある町の一角で、二人の男が話をしていた。一人は赤い髪にピンクの服と、とてつもなく目立つ格好で。一人はとび色の髪に濃紺の服と、影に消えそうな格好で。
「・・別に今は関係なかろう」
そう言って濃紺の男は顔をしかめる。それを見計らったように、ピンクの男が、なんでよ~?と続ける。
「俺様すっっごく気になってるんだよねぇ。いいじゃん、もう昔のことなんだし、話してくれたって良いでしょうよ?俺様とあんたの仲なんだし?」
「・・・・・・たからな」
「ん?」と先程聞きそびれた言葉をもう一回催促する。濃紺の男が少し照れたように繰り返す。
「神子があまりにも寂しそうな顔をしていたからな・・・その・・希望を持たせようと・・思ったのだ」
神子という立場上、天使がいれば喜ぶと思ったのだ、と。あんなに泣くとは思わなかった、と、そう言われて。
「~っあの頃は俺様も餓鬼だったの!も~、んなことぶり返すんじゃねぇっつうの!」
「先に聞いてきたのは神子だろう?」
「・・うるせぇ!」
ゼロスは顔を真っ赤にさせながら、目の前にいたクラトスに殴りかかった。
その拳は緩やかに避けられてしまったけれど。

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