2008'06.19.Thu
長いし、少し暴力表現有りです。
彼らに従事すると決めてから俺の生活は変わった。それまでは屋敷中心だったのに、今はデリスカーラーンとテセアラを行ったり来たりだ。とはいっても実質的にはメルトキオ内で屋敷と教会の行き来に過ぎなかったけれど。
神子の座を譲ると言っても簡単には行かなかった。一度決まってしまったものを変えるのは難しいのだという。でも赤の他人に譲るのとは違って妹であるセレスに譲るんだからそこまで難しいのかと聞いてみたら誤魔化されてしまった。
そこで疑問が湧き上がってしまったけれど、固有マナが違うのだから今は仕方がないと、今後お前にはそれを賄うべく訓練を受けてもらうのだと言われれば、従わない訳にはいかなかった。これは全てセレスの為。神子を棄てる為。何だってやってやると決めたんだから。
「魔導、注入……」
「そうだ、これをしなければ何も始まらない」
「……なんでそんなこと」
意気込んで臨んだ部屋にはなにやら物々しい装置が沢山あって、何がなんだか分からずにいればそう言われた。何故そんなことを俺がしないといけないのか、その時は全く分からなかった。後々、その訳を彼から聞くことになったのだけれど。
「神子の座を、譲りたいのだろう」
有無を言わさぬその響きに息を飲んで、仕方無く渡された粉末を口に含んだ。
「……にが、っ」
突如歪んだ視界、崩れる体。毒だったのかと思ったのも束の間、為す術もなく重力に従い倒れていく中で、俺の意識は途絶えた。
目覚めたのは無機質なベッドの上。冷たい温度を背中に感じて覚醒した。辺りを見渡せばそこは先程の部屋と変わりなくて、しかし、先程とは違い見知らぬ少年が横に立っていた。
「漸く目が覚めたね。全く、僕は待たされるのが嫌いなんだけど」
「…あ、てんしさま、は」
その姿とは裏腹に、背筋が凍るかと思うぐらいの威圧に満ちた台詞を吐いた少年に、戸惑いと恐怖が隠せなかった。とっさに出した声は、震えていた。それが起き抜けのせいか別の原因かなんて考えたくもない。
「何それ、クラトスの事?生意気だなって思ってたけど、可愛い所もあるんじゃない」
「………お前は、一体、」
高らかと嘲笑われるが、逆に思考は急速に落ち着いて来て、先程までとは違いしっかりとした口調で問いかけた。しかしその問いも途中で、
「やっぱり生意気だよ」
「がっ、く……」
思い切り首を締められた。
余りの事に俺の思考は停止し掛けるけれど、そうしたらここで終わると、ぎりぎり繋ぎ止めた。
「まだ死にたくないなら、足掻いてみなよ」
力の限り睨み付けた俺を見て、奴は笑いながら腕の力を抜いた。無様に崩れ落ちる俺の耳元で、奴は小さく呟く。
「僕が憎い。なら殺してみればいい」
聞こえてきた物騒な言葉に耳を疑うが、奴は薄く笑ったままだ。
「じゃないと殺しちゃうかもね。此処には護ってくれる騎士もいないものね、ゼロス」
何故奴が俺の名前を知っているのかとか、考える余裕も無かった。ただ、このままでは殺されると、それだけを思った。
奴が再び俺の首へ腕を伸ばしてくる。俺の体は麻痺してしまったかのようにびくともしなかった。もう駄目か、と目を瞑って身構えて居れば、不意に。
突風が巻き起こり、奴の腕を引き離していた。
「………ぇ、…な、に」
「うーん。まあまあ、かな。取り敢えず成功だね」
何が何だか分からずぽかん、と間抜けな顔をしていた俺に、奴は先程とは打って変わって優しい笑みを投げ掛けた。更に訳が分からなくなっている俺の腕を引き上げて立たせると、手を伸ばして、奴は言った。
「おめでとう。これで君は僕達の仲間になったんだよ」
これが、彼との出逢い。
案内された部屋は先程までとは違って、綺麗に整えられた客室のような部屋だった。
「何ぼーっとしてるの。ほら、早く座りなよ」
その部屋の中心にこれまた綺麗なテーブルと椅子があった。まるで屋敷のティールームのようだった。ご丁寧に、ティーセットまで置いてある。
戸惑いながらも勧められた椅子に座れば、正面に彼が座った。優雅な仕草で紅茶を注ぎながら、静かに笑う。
「それで、何から聞きたいかな」
彼が紅茶を飲んだのを確認してから渡された紅茶を一啜りして、その香りを味わっていれば不意に問い掛けられた一言。彼の顔を見れば、まるで先程の仕打ちが嘘のような、優しい笑みを浮かべていた。
本当の所、聞きたいことは沢山あったのだけれど、先程までとのギャップと非現実的な今の状況に混乱していて、どうしていいか分からずにいた。
そんな困り果てた俺の様子を見てか、彼は苦笑して仕方無くといった感じに話を始めた。
「取り敢えず、自己紹介だよね。……僕はミトス、ミトス・ユグドラシルだよ。あぁ、君の名前は知っているからね、ゼロス」
何気なく言った彼とは裏腹に、俺は随分と驚いていた事だろう。ミトス、とは勇者ミトスの事だろうか、いやミトスは名前としては有りがちだ。寧ろそれ以上に驚いたのは。
「……ユグド、ラシル…」
脳裏に浮かんだのはあの日のあの支配者の顔。圧倒的な力を思い出すだけで身震いした。なぜ目の前の彼がその名を語っているのか。いや、先程の彼の力、威圧感を考えればその答えは自ずと分かる。
「……な、んで」
目の前の彼は、見る限り俺と年がそんなに変わるようには思えない。良くて14か15あたりだ。前に見たあの支配者は少なくとも20は越えていたと思ったのに。
「聡い子供は嫌いじゃないよ」
ふんわりと笑いながら返されたその言葉は肯定の意を含んでいた。それに更に狼狽える俺を見て、彼は更に笑った。
「僕が恐ろしいかい」
問い掛ける声色は優しい少年そのもので、しかし突き刺す視線は冷たかった。硬直する俺を尻目に彼は続ける。
「まぁ仕方ないとは、思うけどね。正しい時間を生きているものなら、それが正しい反応だ」
そう言った瞬間、ほんの一瞬だけ彼は表情を曇らせた。しかし苦々しい顔をしたかと思えばすぐに冷笑が張り付いている。何故かそれが寂しく感じた。
「正しい、時間…」
「お前の選択次第ではお前もそこから外れてしまうかも知れないけどね」
不意に伸ばされた彼の腕に身は強張る。先程の仕打ちが頭に甦って、無意識に首を守ろうと腕が動いた。しかし伸びた腕が触れたのは首より少し下、鎖骨の中心にある輝石を装着するための要の紋。中には今はエクスフィアが入っている。そこをとても優しい仕草で撫でられて、力の籠もっていた腕がゆるゆると落ちた。
「……あなた、は俺に何をさせたいんですか」
呟いた言葉は無意識に敬語になっていた。この子供があの支配者だと考えるよりも先に、そうさせる圧力が彼にはあった。絶対に覆せない何かが。
「さっきも言っただろう、お前は僕達の仲間になったんだ。もう只の人間じゃ無くなったんだよ」
笑いながら彼が言い放った言葉は、あまりにも大きな衝撃を俺に与えた。ただでさえ周りとは違うのに、また俺は一人外れて。
「………っ、もしかしてさっきのは」
「……お前は本当に聡い子だね。そうだよ、マナだ。お前はマナを扱えるようになったんだよ。まだまた未熟だけれど、ね」
マナ、それはエルフの血を引く者にしか使えない、不思議で不気味な力。ハーフエルフが迫害されるのはこの力が使えるからだ。人間には決して使えない、使えるはずもない、使いたくもない力だ。使えると言うことはエルフの血が少なからず入っている証拠。汚らしい、エルフの血が。
一瞬にして悪寒が走った。あれほど嫌っているハーフエルフと同じに成ってしまった。母様を殺した、あの忌々しい、ハーフエルフと同じに。
「そんなにハーフエルフが憎いかい。ふふ、可笑しな話だ」
茫然としている俺を嘲笑いながら、彼は楽しそうに言う。憎悪を込めた顔で彼を睨めば、さも滑稽だとでも言うように手を叩きながら更に笑って。
「お前が救いたいと言ったあの妹だってハーフエルフじゃないか」
心臓が止まったと思う位の残酷な事実を突き付けた。
「な、んだって…」
「お前が神子の座を譲りたいと言った、お前の腹違いの妹セレスは、エルフの母とお前の父の間に生まれたハーフエルフなんだよ」
唖然としたままの俺を尻目に彼は楽しそうに言葉を続ける。しかしそれは今の俺には呪文か何かのようにしか聞こえなくて、何も頭に入ってこない。
「だからこそ早期に魔導注入を行ったって言うのに、お前はそれを拒むんだもの。これじゃあ神子の座は譲れないよね」
残念そうな彼の声とがたりと揺れる椅子の音が聞こえてはっと気付けば、彼は部屋を後にしようとしていた。このまま彼を行かせてしまえばセレスは一生神子にはなれないかもしれない。そう思った瞬間、俺は彼を必死に引き留めた。
「俺の身体がハーフエルフと同じになっても、良い。それであいつに神子の座を譲れるなら…」
そう言った瞬間、彼はふわりと優しく抱き締めて来る。予想もしていなかったその行動に驚き、どうして良いか分からずただされるがままに突っ立っていた。
「……えっと、あの……」
「お前は、可哀想な子だね」
耳元で小さく呟かれた言葉はとても寂しげなもので、とても悲しみを含んでいた。彼にこんな部分があるとは思っていなかったから、その様子に戸惑う。
「あの……、ユグドラシル、様」
「ミトス、で良いよお前は。ゼロス……神子を譲りたいのなら、精一杯頑張ってマナを使いこなせるように成らないといけない。それこそハーフエルフ並みに」
「…………、はい」
漸く腕の力が抜かれ自由になったかと思えば、しっかりと視線は外されないまま見つめ合うことになる。
「だから、僕が直接教えてあげよう。他の者よりは確実に良いだろう」
「え、良いんですか……」
「次回からは僕の所に直接連れてくるよう伝えておく。覚悟しておいてね、僕は厳しいよ」
微笑みながらそう言った彼に深々と礼をして、時間だからと呼びに来たクラトスと部屋を後にした。何故かクラトスが複雑な表情をしていたけれど、見なかった事にした。
「姉さま……、あれは妹の為なら種族を越えることを厭わなかったんだよ。僕達の希望は、まだ残ってるって事なのかな……」
孤独な支配者に応える声は、無い。
長い。
クラゼロお題の繁栄世界の神子の続きに当たります。
どうやってミトスとゼロスの馴れ合いを表現しようかと思いながら書いていたらこんなになってしまいました(苦笑
最初のあたりは拍手に一時期載せていたものになります。ちょっと書き直してありますが。
セレスの流れはどこかでそう聞いたので、出来るだけ公式重視と言うことで。なんだっけ魔術が使えるからだっけ。
取り敢えず至る所に趣味の入ったミトス様が居ます(笑
この後にゼロス君は魔術や天使術を覚えていくんでしょう。それもいつか書きたいな。
ここまで読んで下さって有難うございます。
彼らに従事すると決めてから俺の生活は変わった。それまでは屋敷中心だったのに、今はデリスカーラーンとテセアラを行ったり来たりだ。とはいっても実質的にはメルトキオ内で屋敷と教会の行き来に過ぎなかったけれど。
神子の座を譲ると言っても簡単には行かなかった。一度決まってしまったものを変えるのは難しいのだという。でも赤の他人に譲るのとは違って妹であるセレスに譲るんだからそこまで難しいのかと聞いてみたら誤魔化されてしまった。
そこで疑問が湧き上がってしまったけれど、固有マナが違うのだから今は仕方がないと、今後お前にはそれを賄うべく訓練を受けてもらうのだと言われれば、従わない訳にはいかなかった。これは全てセレスの為。神子を棄てる為。何だってやってやると決めたんだから。
「魔導、注入……」
「そうだ、これをしなければ何も始まらない」
「……なんでそんなこと」
意気込んで臨んだ部屋にはなにやら物々しい装置が沢山あって、何がなんだか分からずにいればそう言われた。何故そんなことを俺がしないといけないのか、その時は全く分からなかった。後々、その訳を彼から聞くことになったのだけれど。
「神子の座を、譲りたいのだろう」
有無を言わさぬその響きに息を飲んで、仕方無く渡された粉末を口に含んだ。
「……にが、っ」
突如歪んだ視界、崩れる体。毒だったのかと思ったのも束の間、為す術もなく重力に従い倒れていく中で、俺の意識は途絶えた。
目覚めたのは無機質なベッドの上。冷たい温度を背中に感じて覚醒した。辺りを見渡せばそこは先程の部屋と変わりなくて、しかし、先程とは違い見知らぬ少年が横に立っていた。
「漸く目が覚めたね。全く、僕は待たされるのが嫌いなんだけど」
「…あ、てんしさま、は」
その姿とは裏腹に、背筋が凍るかと思うぐらいの威圧に満ちた台詞を吐いた少年に、戸惑いと恐怖が隠せなかった。とっさに出した声は、震えていた。それが起き抜けのせいか別の原因かなんて考えたくもない。
「何それ、クラトスの事?生意気だなって思ってたけど、可愛い所もあるんじゃない」
「………お前は、一体、」
高らかと嘲笑われるが、逆に思考は急速に落ち着いて来て、先程までとは違いしっかりとした口調で問いかけた。しかしその問いも途中で、
「やっぱり生意気だよ」
「がっ、く……」
思い切り首を締められた。
余りの事に俺の思考は停止し掛けるけれど、そうしたらここで終わると、ぎりぎり繋ぎ止めた。
「まだ死にたくないなら、足掻いてみなよ」
力の限り睨み付けた俺を見て、奴は笑いながら腕の力を抜いた。無様に崩れ落ちる俺の耳元で、奴は小さく呟く。
「僕が憎い。なら殺してみればいい」
聞こえてきた物騒な言葉に耳を疑うが、奴は薄く笑ったままだ。
「じゃないと殺しちゃうかもね。此処には護ってくれる騎士もいないものね、ゼロス」
何故奴が俺の名前を知っているのかとか、考える余裕も無かった。ただ、このままでは殺されると、それだけを思った。
奴が再び俺の首へ腕を伸ばしてくる。俺の体は麻痺してしまったかのようにびくともしなかった。もう駄目か、と目を瞑って身構えて居れば、不意に。
突風が巻き起こり、奴の腕を引き離していた。
「………ぇ、…な、に」
「うーん。まあまあ、かな。取り敢えず成功だね」
何が何だか分からずぽかん、と間抜けな顔をしていた俺に、奴は先程とは打って変わって優しい笑みを投げ掛けた。更に訳が分からなくなっている俺の腕を引き上げて立たせると、手を伸ばして、奴は言った。
「おめでとう。これで君は僕達の仲間になったんだよ」
これが、彼との出逢い。
案内された部屋は先程までとは違って、綺麗に整えられた客室のような部屋だった。
「何ぼーっとしてるの。ほら、早く座りなよ」
その部屋の中心にこれまた綺麗なテーブルと椅子があった。まるで屋敷のティールームのようだった。ご丁寧に、ティーセットまで置いてある。
戸惑いながらも勧められた椅子に座れば、正面に彼が座った。優雅な仕草で紅茶を注ぎながら、静かに笑う。
「それで、何から聞きたいかな」
彼が紅茶を飲んだのを確認してから渡された紅茶を一啜りして、その香りを味わっていれば不意に問い掛けられた一言。彼の顔を見れば、まるで先程の仕打ちが嘘のような、優しい笑みを浮かべていた。
本当の所、聞きたいことは沢山あったのだけれど、先程までとのギャップと非現実的な今の状況に混乱していて、どうしていいか分からずにいた。
そんな困り果てた俺の様子を見てか、彼は苦笑して仕方無くといった感じに話を始めた。
「取り敢えず、自己紹介だよね。……僕はミトス、ミトス・ユグドラシルだよ。あぁ、君の名前は知っているからね、ゼロス」
何気なく言った彼とは裏腹に、俺は随分と驚いていた事だろう。ミトス、とは勇者ミトスの事だろうか、いやミトスは名前としては有りがちだ。寧ろそれ以上に驚いたのは。
「……ユグド、ラシル…」
脳裏に浮かんだのはあの日のあの支配者の顔。圧倒的な力を思い出すだけで身震いした。なぜ目の前の彼がその名を語っているのか。いや、先程の彼の力、威圧感を考えればその答えは自ずと分かる。
「……な、んで」
目の前の彼は、見る限り俺と年がそんなに変わるようには思えない。良くて14か15あたりだ。前に見たあの支配者は少なくとも20は越えていたと思ったのに。
「聡い子供は嫌いじゃないよ」
ふんわりと笑いながら返されたその言葉は肯定の意を含んでいた。それに更に狼狽える俺を見て、彼は更に笑った。
「僕が恐ろしいかい」
問い掛ける声色は優しい少年そのもので、しかし突き刺す視線は冷たかった。硬直する俺を尻目に彼は続ける。
「まぁ仕方ないとは、思うけどね。正しい時間を生きているものなら、それが正しい反応だ」
そう言った瞬間、ほんの一瞬だけ彼は表情を曇らせた。しかし苦々しい顔をしたかと思えばすぐに冷笑が張り付いている。何故かそれが寂しく感じた。
「正しい、時間…」
「お前の選択次第ではお前もそこから外れてしまうかも知れないけどね」
不意に伸ばされた彼の腕に身は強張る。先程の仕打ちが頭に甦って、無意識に首を守ろうと腕が動いた。しかし伸びた腕が触れたのは首より少し下、鎖骨の中心にある輝石を装着するための要の紋。中には今はエクスフィアが入っている。そこをとても優しい仕草で撫でられて、力の籠もっていた腕がゆるゆると落ちた。
「……あなた、は俺に何をさせたいんですか」
呟いた言葉は無意識に敬語になっていた。この子供があの支配者だと考えるよりも先に、そうさせる圧力が彼にはあった。絶対に覆せない何かが。
「さっきも言っただろう、お前は僕達の仲間になったんだ。もう只の人間じゃ無くなったんだよ」
笑いながら彼が言い放った言葉は、あまりにも大きな衝撃を俺に与えた。ただでさえ周りとは違うのに、また俺は一人外れて。
「………っ、もしかしてさっきのは」
「……お前は本当に聡い子だね。そうだよ、マナだ。お前はマナを扱えるようになったんだよ。まだまた未熟だけれど、ね」
マナ、それはエルフの血を引く者にしか使えない、不思議で不気味な力。ハーフエルフが迫害されるのはこの力が使えるからだ。人間には決して使えない、使えるはずもない、使いたくもない力だ。使えると言うことはエルフの血が少なからず入っている証拠。汚らしい、エルフの血が。
一瞬にして悪寒が走った。あれほど嫌っているハーフエルフと同じに成ってしまった。母様を殺した、あの忌々しい、ハーフエルフと同じに。
「そんなにハーフエルフが憎いかい。ふふ、可笑しな話だ」
茫然としている俺を嘲笑いながら、彼は楽しそうに言う。憎悪を込めた顔で彼を睨めば、さも滑稽だとでも言うように手を叩きながら更に笑って。
「お前が救いたいと言ったあの妹だってハーフエルフじゃないか」
心臓が止まったと思う位の残酷な事実を突き付けた。
「な、んだって…」
「お前が神子の座を譲りたいと言った、お前の腹違いの妹セレスは、エルフの母とお前の父の間に生まれたハーフエルフなんだよ」
唖然としたままの俺を尻目に彼は楽しそうに言葉を続ける。しかしそれは今の俺には呪文か何かのようにしか聞こえなくて、何も頭に入ってこない。
「だからこそ早期に魔導注入を行ったって言うのに、お前はそれを拒むんだもの。これじゃあ神子の座は譲れないよね」
残念そうな彼の声とがたりと揺れる椅子の音が聞こえてはっと気付けば、彼は部屋を後にしようとしていた。このまま彼を行かせてしまえばセレスは一生神子にはなれないかもしれない。そう思った瞬間、俺は彼を必死に引き留めた。
「俺の身体がハーフエルフと同じになっても、良い。それであいつに神子の座を譲れるなら…」
そう言った瞬間、彼はふわりと優しく抱き締めて来る。予想もしていなかったその行動に驚き、どうして良いか分からずただされるがままに突っ立っていた。
「……えっと、あの……」
「お前は、可哀想な子だね」
耳元で小さく呟かれた言葉はとても寂しげなもので、とても悲しみを含んでいた。彼にこんな部分があるとは思っていなかったから、その様子に戸惑う。
「あの……、ユグドラシル、様」
「ミトス、で良いよお前は。ゼロス……神子を譲りたいのなら、精一杯頑張ってマナを使いこなせるように成らないといけない。それこそハーフエルフ並みに」
「…………、はい」
漸く腕の力が抜かれ自由になったかと思えば、しっかりと視線は外されないまま見つめ合うことになる。
「だから、僕が直接教えてあげよう。他の者よりは確実に良いだろう」
「え、良いんですか……」
「次回からは僕の所に直接連れてくるよう伝えておく。覚悟しておいてね、僕は厳しいよ」
微笑みながらそう言った彼に深々と礼をして、時間だからと呼びに来たクラトスと部屋を後にした。何故かクラトスが複雑な表情をしていたけれど、見なかった事にした。
「姉さま……、あれは妹の為なら種族を越えることを厭わなかったんだよ。僕達の希望は、まだ残ってるって事なのかな……」
孤独な支配者に応える声は、無い。
長い。
クラゼロお題の繁栄世界の神子の続きに当たります。
どうやってミトスとゼロスの馴れ合いを表現しようかと思いながら書いていたらこんなになってしまいました(苦笑
最初のあたりは拍手に一時期載せていたものになります。ちょっと書き直してありますが。
セレスの流れはどこかでそう聞いたので、出来るだけ公式重視と言うことで。なんだっけ魔術が使えるからだっけ。
取り敢えず至る所に趣味の入ったミトス様が居ます(笑
この後にゼロス君は魔術や天使術を覚えていくんでしょう。それもいつか書きたいな。
ここまで読んで下さって有難うございます。
PR
Post your Comment
カレンダー
カテゴリー
最新記事
2013
/
05
/
03
(
Fri
)
17
:
37
:
24
)
2013
/
03
/
06
(
Wed
)
22
:
28
:
45
)
2012
/
07
/
27
(
Fri
)
07
:
30
:
39
)
2012
/
04
/
13
(
Fri
)
22
:
29
:
04
)
2012
/
02
/
16
(
Thu
)
02
:
05
:
21
)