2006'01.26.Thu
今日、新しい護衛の人がきた。
十数人目の人だと思う。正確な数なんてもう数えるのが面倒になってしまった。ころころ変わる、護衛だという人は皆、会った瞬間から僕の前で膝をついて頭を下げてくる。自分の半分の身長もないような僕を下から見上げながら、貴方の事を命を懸けて守ります、なんて本心か建前か疑わしい言葉を吐くんだ。
いや、僕には分かっていたんだけどね、それは建前でしかないってことに。それなりのお金が貰えるからって、こんな小さな僕のために、命を捨てるやつなんていないんだから。
でもね、みんなその通りに死んでいった。当たり前って言えば、当たり前何だけど。僕を狙うのは国を狙ってる奴らばっかりだし、生半端な奴らじゃないんだと思う。実質の彼らの役目は、僕の盾になることだから、死んだって構わないんだ。その証拠に、護衛が死んだ何時間後には、新しい護衛が来るんだから。今日も、4時間前に護衛が死んだばっかりだ。
だからかもしれない。僕はその言葉が嫌いだった。守るって言いながら、すぐ消えていくんだから。顔には絶対出さないように、心がけていた。顔に出してしまった時は、その場でその護衛は消えていたけれど。
だからその時も、僕は表情を変えないように、張り詰めていたんだ。
でも、その護衛の口から出た言葉は、僕の表情をまた違う意味で変えてしまったんだ。
「お前が次代の神子なのだな。まだこんな子供ではないか」
膝をつくどころか礼さえもしなくて、小さな子供を見下ろすように。尊敬も礼儀も全くないような言葉を、普通の子供に言うみたいに僕に向かって言ったんだ。
今まで、こんなふうに子供扱いされたことはなかった。表面上は。本当はいつだって、僕がまだ子供だと甘く見られてるのは知ってる。だからって、そんなこと言う度胸のある人はいなかった。一歩間違えれば僕の怒りを買って、教会に目を付けられたり、生きてることさえないかもしれないのに。
だから逆に、僕はなんか嬉しかったんだ。いつもはそのまま頷いて終わりなのに、その護衛を見上げて、言葉をかけたくなった。
「・・・貴方は僕のそばにいてくれますか?」
その護衛は、当たり前だというふうに僕の頭をそっと撫でてくれた。その掌の温もりは、なんとなく、父様みたいな感じがした。父様にそんなことをされた覚えはなかったのだけれど。
その護衛が天使さまだって知ったのは、母様が死んだ次の日だった。
その護衛は、クラトスといって、遠い街から来たのだといった。彼はそれまでの護衛とは比べ物にならないくらいに強くって、一年以上たった今でも、僕の護衛をしてくれていた。
「クラトスは、家族とかいないの?」
クラトスは他の護衛とは違って、僕が出かける時以外でも、いつも近くにいてくれた。それまでの護衛は、外に出るって時しか近くには来なかったから、今までは、護衛が近くにいない時は、外に出ることさえできなかった。
だから、彼が近くにいることで、僕は前より多く外に出ることができたし、彼とよく話すようになった。今も屋敷内のソファーに座って、彼と話をしている所だった。
「・・・妻と息子一人がいた」
彼は、若く見える。30歳にはいってないと思うけど、声が結構渋いし、本人が年齢を口に出したことはないから、本当は分からない。でも、子供がいるようには見えなかった。
「子供がいるの!?そのこ何歳?僕と一緒?」
僕は同じ年頃の子供と遊んだことがない。みんなが外で遊んでいる時、僕はマーテル教のお勉強をしていたから。だから余計に、クラトスの子供っていうのがどんな子なのか気になった。
「最後に見たときは3歳だった。言葉を喋れるように、・・・なったばかりだった」
クラトスの顔がどことなく曇った感じがした。変な感じがして、さっきの言葉の語意を探ってみる。
「最後って・・・もう全然会ってないの・・?」
僕の父様も、全然会ってくれないから、と。そう続けたら、彼は苦笑して、僕の頭を撫でてくれた。その温もりが、気持ちいい。
「会いに行けたらどれほど好いか・・・・」
彼の小さな呟きは、僕に届いてはいなかった。
その年の冬はいつもよりもずいぶん寒かった。毎年雪なんかぱらつく程度のメルトキオで、フラノール並に積もったくらいだったから。
街が一面白くなる様は、いつもとは全然違う街のようで、とても幻想的で綺麗だった。
だから、クラトスはその時、偶然にも遠くに出かけていて、本当なら外に出ることは出来なかったんだけれど、無理やりセバスチャンに頼んで、外に出る許可をもらった。
あまり長くは出ないと約束して、外に出る。初めて見る大粒の雪は空から落ちてくる綿あめみたいで、僕は夢中になって空を眺めていた。だから、後ろの気配に気付かなかった。
「そのままでは風邪を引きますよ・・・」
そう母様の声がして、後ろから上着をかけられた。母様と外に出るのは久しぶりで、なんだか余計にはしゃいでいた。
「母様!僕今から雪だるま作るね!とってもとっても大きいやつ!」
そういって僕は興奮しながら雪だまを作る。近くには来てくれなかったけれど、母様が遠くで見てくれているのがわかった。
何分経ったか分からない頃、転がしていた雪だまも大きくなって、転がすのをやめて形を整えていた時、不意に後ろから足音が聞こえてきた。
母様が来てくれたんだ。そう思って後ろを向こうとした瞬間、雪だるまが赤く染まった。
頭の上に、黒い影が出来る。恐る恐る後ろを向けば、母様が胸を押さえて倒れてくる所だった。
「母様!」
大きく叫んで、母様を支えようとした。まだ小さい僕にはその体重は支えきれなくて、そのまま後ろに倒れこむ。母様の重みを感じながら、頭の中では混乱していた。
何が起こったの?どうして母様が倒れてるの?この母様の胸から出てくるものは?なにが?なんで?どうして?どうして?どうして!
「・・か・ぁさま・・?」
どくどくと、母様から溢れてくる血が、僕の身体を真っ赤に染める。その生温さも今は分からない。ただ母様が生きていると信じて、弱々しく呼びかける。
ぴくん、と母様が動いたのが分かった。よかった、とただ思って、もう一度呼びかけようと口を開きかけた瞬間。
「・・ゼロ・・ス、お前なんか・・・お前なんか生まなければ・・よかっ・・た・・・」
苦しげなその言葉を残して、母様が息絶えたのが分かった。身体にかかっている重みが、生き物のものから、ただの塊になっていく。
何も考えられなかった。ただ、呆然と目の前にあった母様であったものを眺めていて。誰かが僕の手を引っ張って、屋敷の中に連れて行くまで、何も分からなかった。
手を引っ張ってきたのがクラトスだって分かったのは、屋敷についた後で。セバスチャンやほかの屋敷の人間は、とても慌てた様子で『母様の死体の処理』に当たっていた。
僕たちがいたのは建物の後ろの一角で、クラトスが僕の異常に気付くまで、何が起こったか分からなかったらしい。夢中になりすぎて少し遠くまで行き過ぎたんだ。
後で、ハーフエルフが捕まったって言われて。僕を狙ってた暗殺者が母様を殺したんだって、今までの経験からなんとなく分かった。それがセレスの母様が仕向けたものだとは、分からなかったけれど。
なぜか、いつも以上に冷静になっていた。全てに現実味がなくて、劇か何かを見ているようで。きっとこれは後で、いつも通りに戻るんだって、母様がいてセバスチャンがいてクラトスがいる、いつもに。
それが現実だって思い知らされたのは、葬儀は明日行われます、とセバスチャンが言ってからで。
葬儀。母様の葬儀。死んだ母様の葬儀。僕のせいで死んだ母様の葬儀。僕の怠慢で殺された母様の、葬儀。
頭の中で、死んでいく母様が何度も言う台詞が繰り返されて。何度も、何度も。僕がいなければ、よかったんだって。そうすれば母様は死ななかったんだって。頭の中で繰り返しながら、僕はそのまま気を失った。
次の日の葬儀は、何も無く終わった。セレスの母様が捕まったこと以外。
僕は葬儀の間、ただ母様が焼かれる様を見ていた。これが明日は屋敷の後ろの十字架の下に埋もれるんだ、なんてぼんやりと考えていながら。
父様も葬儀には参加していたけれど、僕に声をかけてくれることはなくて。クラトスは、参加していなかった。
屋敷の戻ったら、クラトスはいつものとは違う、白い服を着ていて。背中には青く光る羽根があった。
僕がその羽根に驚いていると、クラトスはさも当然のように言った。私はクルシスから使わされた神子を守る為の天使だ、と。
それを聞いた瞬間、ある感情が体の中から溢れてきた。
「な・・んで?なんで、母様が殺された時、あなたは側に居てくれなかったの!?天使さまなら・・なんでも知ってるはずなのに!母様が死ぬって知ってたはずなのに!!あなたが居れば、母様は死ななかったかもしれないのに!!」
ぼろぼろ泣きながら、無言で立ち尽くしている青羽の天使にこぶしを振るう。なさけない、ただの八つ当たりでしかなかったのだけれど。溢れた感情は止まらなくて。
「・・・出てけ、出てけよ!お前の顔なんか・・見たくない!もう僕に近づかないでよ!」
そういって部屋に駆け出し、ベッドの上でただ泣き続けた。気がついたら、もうクラトスは屋敷の中にはいなかった。
もうこれで、クラトスに会うことはなくなったんだと、その後悔と悲しみで、一杯だった。
生憎、神子の信託の時にまた会う羽目になったのだが。
「思えばあの頃って俺様も餓鬼だったよなぁ~ほんと。それにしてもよ?何であのタイミングで天使だって明かしたのよ、天使サマ?未だに俺様わかんないんだけど」
とある町の一角で、二人の男が話をしていた。一人は赤い髪にピンクの服と、とてつもなく目立つ格好で。一人はとび色の髪に濃紺の服と、影に消えそうな格好で。
「・・別に今は関係なかろう」
そう言って濃紺の男は顔をしかめる。それを見計らったように、ピンクの男が、なんでよ~?と続ける。
「俺様すっっごく気になってるんだよねぇ。いいじゃん、もう昔のことなんだし、話してくれたって良いでしょうよ?俺様とあんたの仲なんだし?」
「・・・・・・たからな」
「ん?」と先程聞きそびれた言葉をもう一回催促する。濃紺の男が少し照れたように繰り返す。
「神子があまりにも寂しそうな顔をしていたからな・・・その・・希望を持たせようと・・思ったのだ」
神子という立場上、天使がいれば喜ぶと思ったのだ、と。あんなに泣くとは思わなかった、と、そう言われて。
「~っあの頃は俺様も餓鬼だったの!も~、んなことぶり返すんじゃねぇっつうの!」
「先に聞いてきたのは神子だろう?」
「・・うるせぇ!」
ゼロスは顔を真っ赤にさせながら、目の前にいたクラトスに殴りかかった。
その拳は緩やかに避けられてしまったけれど。
十数人目の人だと思う。正確な数なんてもう数えるのが面倒になってしまった。ころころ変わる、護衛だという人は皆、会った瞬間から僕の前で膝をついて頭を下げてくる。自分の半分の身長もないような僕を下から見上げながら、貴方の事を命を懸けて守ります、なんて本心か建前か疑わしい言葉を吐くんだ。
いや、僕には分かっていたんだけどね、それは建前でしかないってことに。それなりのお金が貰えるからって、こんな小さな僕のために、命を捨てるやつなんていないんだから。
でもね、みんなその通りに死んでいった。当たり前って言えば、当たり前何だけど。僕を狙うのは国を狙ってる奴らばっかりだし、生半端な奴らじゃないんだと思う。実質の彼らの役目は、僕の盾になることだから、死んだって構わないんだ。その証拠に、護衛が死んだ何時間後には、新しい護衛が来るんだから。今日も、4時間前に護衛が死んだばっかりだ。
だからかもしれない。僕はその言葉が嫌いだった。守るって言いながら、すぐ消えていくんだから。顔には絶対出さないように、心がけていた。顔に出してしまった時は、その場でその護衛は消えていたけれど。
だからその時も、僕は表情を変えないように、張り詰めていたんだ。
でも、その護衛の口から出た言葉は、僕の表情をまた違う意味で変えてしまったんだ。
「お前が次代の神子なのだな。まだこんな子供ではないか」
膝をつくどころか礼さえもしなくて、小さな子供を見下ろすように。尊敬も礼儀も全くないような言葉を、普通の子供に言うみたいに僕に向かって言ったんだ。
今まで、こんなふうに子供扱いされたことはなかった。表面上は。本当はいつだって、僕がまだ子供だと甘く見られてるのは知ってる。だからって、そんなこと言う度胸のある人はいなかった。一歩間違えれば僕の怒りを買って、教会に目を付けられたり、生きてることさえないかもしれないのに。
だから逆に、僕はなんか嬉しかったんだ。いつもはそのまま頷いて終わりなのに、その護衛を見上げて、言葉をかけたくなった。
「・・・貴方は僕のそばにいてくれますか?」
その護衛は、当たり前だというふうに僕の頭をそっと撫でてくれた。その掌の温もりは、なんとなく、父様みたいな感じがした。父様にそんなことをされた覚えはなかったのだけれど。
その護衛が天使さまだって知ったのは、母様が死んだ次の日だった。
その護衛は、クラトスといって、遠い街から来たのだといった。彼はそれまでの護衛とは比べ物にならないくらいに強くって、一年以上たった今でも、僕の護衛をしてくれていた。
「クラトスは、家族とかいないの?」
クラトスは他の護衛とは違って、僕が出かける時以外でも、いつも近くにいてくれた。それまでの護衛は、外に出るって時しか近くには来なかったから、今までは、護衛が近くにいない時は、外に出ることさえできなかった。
だから、彼が近くにいることで、僕は前より多く外に出ることができたし、彼とよく話すようになった。今も屋敷内のソファーに座って、彼と話をしている所だった。
「・・・妻と息子一人がいた」
彼は、若く見える。30歳にはいってないと思うけど、声が結構渋いし、本人が年齢を口に出したことはないから、本当は分からない。でも、子供がいるようには見えなかった。
「子供がいるの!?そのこ何歳?僕と一緒?」
僕は同じ年頃の子供と遊んだことがない。みんなが外で遊んでいる時、僕はマーテル教のお勉強をしていたから。だから余計に、クラトスの子供っていうのがどんな子なのか気になった。
「最後に見たときは3歳だった。言葉を喋れるように、・・・なったばかりだった」
クラトスの顔がどことなく曇った感じがした。変な感じがして、さっきの言葉の語意を探ってみる。
「最後って・・・もう全然会ってないの・・?」
僕の父様も、全然会ってくれないから、と。そう続けたら、彼は苦笑して、僕の頭を撫でてくれた。その温もりが、気持ちいい。
「会いに行けたらどれほど好いか・・・・」
彼の小さな呟きは、僕に届いてはいなかった。
その年の冬はいつもよりもずいぶん寒かった。毎年雪なんかぱらつく程度のメルトキオで、フラノール並に積もったくらいだったから。
街が一面白くなる様は、いつもとは全然違う街のようで、とても幻想的で綺麗だった。
だから、クラトスはその時、偶然にも遠くに出かけていて、本当なら外に出ることは出来なかったんだけれど、無理やりセバスチャンに頼んで、外に出る許可をもらった。
あまり長くは出ないと約束して、外に出る。初めて見る大粒の雪は空から落ちてくる綿あめみたいで、僕は夢中になって空を眺めていた。だから、後ろの気配に気付かなかった。
「そのままでは風邪を引きますよ・・・」
そう母様の声がして、後ろから上着をかけられた。母様と外に出るのは久しぶりで、なんだか余計にはしゃいでいた。
「母様!僕今から雪だるま作るね!とってもとっても大きいやつ!」
そういって僕は興奮しながら雪だまを作る。近くには来てくれなかったけれど、母様が遠くで見てくれているのがわかった。
何分経ったか分からない頃、転がしていた雪だまも大きくなって、転がすのをやめて形を整えていた時、不意に後ろから足音が聞こえてきた。
母様が来てくれたんだ。そう思って後ろを向こうとした瞬間、雪だるまが赤く染まった。
頭の上に、黒い影が出来る。恐る恐る後ろを向けば、母様が胸を押さえて倒れてくる所だった。
「母様!」
大きく叫んで、母様を支えようとした。まだ小さい僕にはその体重は支えきれなくて、そのまま後ろに倒れこむ。母様の重みを感じながら、頭の中では混乱していた。
何が起こったの?どうして母様が倒れてるの?この母様の胸から出てくるものは?なにが?なんで?どうして?どうして?どうして!
「・・か・ぁさま・・?」
どくどくと、母様から溢れてくる血が、僕の身体を真っ赤に染める。その生温さも今は分からない。ただ母様が生きていると信じて、弱々しく呼びかける。
ぴくん、と母様が動いたのが分かった。よかった、とただ思って、もう一度呼びかけようと口を開きかけた瞬間。
「・・ゼロ・・ス、お前なんか・・・お前なんか生まなければ・・よかっ・・た・・・」
苦しげなその言葉を残して、母様が息絶えたのが分かった。身体にかかっている重みが、生き物のものから、ただの塊になっていく。
何も考えられなかった。ただ、呆然と目の前にあった母様であったものを眺めていて。誰かが僕の手を引っ張って、屋敷の中に連れて行くまで、何も分からなかった。
手を引っ張ってきたのがクラトスだって分かったのは、屋敷についた後で。セバスチャンやほかの屋敷の人間は、とても慌てた様子で『母様の死体の処理』に当たっていた。
僕たちがいたのは建物の後ろの一角で、クラトスが僕の異常に気付くまで、何が起こったか分からなかったらしい。夢中になりすぎて少し遠くまで行き過ぎたんだ。
後で、ハーフエルフが捕まったって言われて。僕を狙ってた暗殺者が母様を殺したんだって、今までの経験からなんとなく分かった。それがセレスの母様が仕向けたものだとは、分からなかったけれど。
なぜか、いつも以上に冷静になっていた。全てに現実味がなくて、劇か何かを見ているようで。きっとこれは後で、いつも通りに戻るんだって、母様がいてセバスチャンがいてクラトスがいる、いつもに。
それが現実だって思い知らされたのは、葬儀は明日行われます、とセバスチャンが言ってからで。
葬儀。母様の葬儀。死んだ母様の葬儀。僕のせいで死んだ母様の葬儀。僕の怠慢で殺された母様の、葬儀。
頭の中で、死んでいく母様が何度も言う台詞が繰り返されて。何度も、何度も。僕がいなければ、よかったんだって。そうすれば母様は死ななかったんだって。頭の中で繰り返しながら、僕はそのまま気を失った。
次の日の葬儀は、何も無く終わった。セレスの母様が捕まったこと以外。
僕は葬儀の間、ただ母様が焼かれる様を見ていた。これが明日は屋敷の後ろの十字架の下に埋もれるんだ、なんてぼんやりと考えていながら。
父様も葬儀には参加していたけれど、僕に声をかけてくれることはなくて。クラトスは、参加していなかった。
屋敷の戻ったら、クラトスはいつものとは違う、白い服を着ていて。背中には青く光る羽根があった。
僕がその羽根に驚いていると、クラトスはさも当然のように言った。私はクルシスから使わされた神子を守る為の天使だ、と。
それを聞いた瞬間、ある感情が体の中から溢れてきた。
「な・・んで?なんで、母様が殺された時、あなたは側に居てくれなかったの!?天使さまなら・・なんでも知ってるはずなのに!母様が死ぬって知ってたはずなのに!!あなたが居れば、母様は死ななかったかもしれないのに!!」
ぼろぼろ泣きながら、無言で立ち尽くしている青羽の天使にこぶしを振るう。なさけない、ただの八つ当たりでしかなかったのだけれど。溢れた感情は止まらなくて。
「・・・出てけ、出てけよ!お前の顔なんか・・見たくない!もう僕に近づかないでよ!」
そういって部屋に駆け出し、ベッドの上でただ泣き続けた。気がついたら、もうクラトスは屋敷の中にはいなかった。
もうこれで、クラトスに会うことはなくなったんだと、その後悔と悲しみで、一杯だった。
生憎、神子の信託の時にまた会う羽目になったのだが。
「思えばあの頃って俺様も餓鬼だったよなぁ~ほんと。それにしてもよ?何であのタイミングで天使だって明かしたのよ、天使サマ?未だに俺様わかんないんだけど」
とある町の一角で、二人の男が話をしていた。一人は赤い髪にピンクの服と、とてつもなく目立つ格好で。一人はとび色の髪に濃紺の服と、影に消えそうな格好で。
「・・別に今は関係なかろう」
そう言って濃紺の男は顔をしかめる。それを見計らったように、ピンクの男が、なんでよ~?と続ける。
「俺様すっっごく気になってるんだよねぇ。いいじゃん、もう昔のことなんだし、話してくれたって良いでしょうよ?俺様とあんたの仲なんだし?」
「・・・・・・たからな」
「ん?」と先程聞きそびれた言葉をもう一回催促する。濃紺の男が少し照れたように繰り返す。
「神子があまりにも寂しそうな顔をしていたからな・・・その・・希望を持たせようと・・思ったのだ」
神子という立場上、天使がいれば喜ぶと思ったのだ、と。あんなに泣くとは思わなかった、と、そう言われて。
「~っあの頃は俺様も餓鬼だったの!も~、んなことぶり返すんじゃねぇっつうの!」
「先に聞いてきたのは神子だろう?」
「・・うるせぇ!」
ゼロスは顔を真っ赤にさせながら、目の前にいたクラトスに殴りかかった。
その拳は緩やかに避けられてしまったけれど。
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