2009'02.18.Wed
本当は、分かっていた。
貴方が求めていたのは自分ではないのだと。ただ、貴方の思い通りに動く道具が欲しかっただけなのだと。
俺、は必要とされてはいなかったのだと。
分かっていた。
結局はそんな単純なものだったのだ。決して、それは愛などではなく。
それでも。
自分は貴方を愛していたんだ。
世界の中心。広い海の中にぽつんと存在するその孤島。彼が高らかに笑いながら復活させたその島は、まるで彼自身の様に孤独だった。
気付かれない様に遠くから海上を進む事になり、船内で皆は最後の休息を取っている。日が落ち掛けて暗く染まった海には波の音しか響いていない。そんな海を眺めながら一人甲板に立っていた。
本当は自分も休息を取るべきなのは分かっている。けれども、彼との決戦を前に身体が休まる気がしなかったのだ。
ざわざわと落ち着かない胸の魔導器に嫌な予感がしていた。今までこんな事は無かったのに、生を自覚してから何かが変わった。
そう、それは彼等によってもたらされた変化。彼に縋る事で捨てたもの。それは自分を道具から人へと戻したけれど、道具であった自分を否定する事に他ならない。
道具では無くなった自分が彼を討つ。
彼の全てを否定して。
そんな権利が自分にあるとは思えない。けれど彼等は自分に共に歩む事を望んでいる。それは嘗ての彼とどんな違いがあるのだろう。嘗て彼の手を取ったこの手を今度は彼等が取っただけなのだ。
ざわざわと、波の音に紛れて大きくなるその音。次第に痛みまで伴ってきて、息苦しさに胸を押さえながらそのままうずくまる。まるで彼を討とうとしている自分を責めているかの様なその痛みに、小さく安堵した。
此処に至るまで、本当はずっと不安だった。余りに彼等が優しく何もかもを赦すものだから、過去の所業さえも無かった事の様になっている気がした。それがいつまでも続くとは思えないし、それに甘えていても良いのか、と。
私、を無かった事になど、俺、には出来やしないのに。
「………おっさん、まだ休まねぇのか」
いつの間にか治まっていた胸の痛みに身を起こせば、船内へと続く扉近くから聞こえてくる怪訝な声。声の方向に振り返れば、青年がその声に似合う表情を浮かべて立っていた。
「あら青年、居たの」
先程まで痛んでいた胸を隠す様に、至極普通に笑いかける。息苦しさはまだ残っていたけれど、今は心配を掛けるべきではない。ゆっくりと近付いてくる黒い影に背を向けて、何気ない素振りで海を眺めた。
「あんたがまだ戻ってこないってエステルが気にしてたんでな、リタにおっさんを連れて来いって追い出されたんだよ」
「そりゃご愁傷様ね」
日が完全に落ちた海は月明かりを反射して、静かに波打っている。隣に立つ青年の姿は分かるけれど、表情までは判断付かない暗さだ。逆に言えば青年から俺の表情も分からないだろう。好都合だ。
「そう思うならこんなとこで黄昏てないで部屋に戻ればいいだろ」
「んー……この年になると色々考えちゃってね、簡単には眠れないもんなのよ」
敢えて明るくそう言い放つと、返って来たのは小さな溜め息だけで、嫌な静寂に波の音だけが響いた。
「な、何よ青年黙んないでよ、俺様虚しくなるじゃないの」
「……おっさん、無理に割り切れとは言わねえから、早めに寝ろよ。あいつらが心配するし」
沈黙の後に言われたその言葉に、内心凍り付く様だった。どうしてこの青年はこうも勘が良いのだろう。反論しようにも唇は震えてしまっていて、言葉を発する事が出来ない。ただ茫然と部屋に戻る後ろ姿を眺めるしか出来なかった。
結構長めの10のお題2より
配布元:Abandon
これ2に続きます。10題で構成が出来てるので本当は1題につき1話にしたかったんですが、長くなり過ぎました(苦笑
残りは書け次第上げます。
貴方が求めていたのは自分ではないのだと。ただ、貴方の思い通りに動く道具が欲しかっただけなのだと。
俺、は必要とされてはいなかったのだと。
分かっていた。
結局はそんな単純なものだったのだ。決して、それは愛などではなく。
それでも。
自分は貴方を愛していたんだ。
世界の中心。広い海の中にぽつんと存在するその孤島。彼が高らかに笑いながら復活させたその島は、まるで彼自身の様に孤独だった。
気付かれない様に遠くから海上を進む事になり、船内で皆は最後の休息を取っている。日が落ち掛けて暗く染まった海には波の音しか響いていない。そんな海を眺めながら一人甲板に立っていた。
本当は自分も休息を取るべきなのは分かっている。けれども、彼との決戦を前に身体が休まる気がしなかったのだ。
ざわざわと落ち着かない胸の魔導器に嫌な予感がしていた。今までこんな事は無かったのに、生を自覚してから何かが変わった。
そう、それは彼等によってもたらされた変化。彼に縋る事で捨てたもの。それは自分を道具から人へと戻したけれど、道具であった自分を否定する事に他ならない。
道具では無くなった自分が彼を討つ。
彼の全てを否定して。
そんな権利が自分にあるとは思えない。けれど彼等は自分に共に歩む事を望んでいる。それは嘗ての彼とどんな違いがあるのだろう。嘗て彼の手を取ったこの手を今度は彼等が取っただけなのだ。
ざわざわと、波の音に紛れて大きくなるその音。次第に痛みまで伴ってきて、息苦しさに胸を押さえながらそのままうずくまる。まるで彼を討とうとしている自分を責めているかの様なその痛みに、小さく安堵した。
此処に至るまで、本当はずっと不安だった。余りに彼等が優しく何もかもを赦すものだから、過去の所業さえも無かった事の様になっている気がした。それがいつまでも続くとは思えないし、それに甘えていても良いのか、と。
私、を無かった事になど、俺、には出来やしないのに。
「………おっさん、まだ休まねぇのか」
いつの間にか治まっていた胸の痛みに身を起こせば、船内へと続く扉近くから聞こえてくる怪訝な声。声の方向に振り返れば、青年がその声に似合う表情を浮かべて立っていた。
「あら青年、居たの」
先程まで痛んでいた胸を隠す様に、至極普通に笑いかける。息苦しさはまだ残っていたけれど、今は心配を掛けるべきではない。ゆっくりと近付いてくる黒い影に背を向けて、何気ない素振りで海を眺めた。
「あんたがまだ戻ってこないってエステルが気にしてたんでな、リタにおっさんを連れて来いって追い出されたんだよ」
「そりゃご愁傷様ね」
日が完全に落ちた海は月明かりを反射して、静かに波打っている。隣に立つ青年の姿は分かるけれど、表情までは判断付かない暗さだ。逆に言えば青年から俺の表情も分からないだろう。好都合だ。
「そう思うならこんなとこで黄昏てないで部屋に戻ればいいだろ」
「んー……この年になると色々考えちゃってね、簡単には眠れないもんなのよ」
敢えて明るくそう言い放つと、返って来たのは小さな溜め息だけで、嫌な静寂に波の音だけが響いた。
「な、何よ青年黙んないでよ、俺様虚しくなるじゃないの」
「……おっさん、無理に割り切れとは言わねえから、早めに寝ろよ。あいつらが心配するし」
沈黙の後に言われたその言葉に、内心凍り付く様だった。どうしてこの青年はこうも勘が良いのだろう。反論しようにも唇は震えてしまっていて、言葉を発する事が出来ない。ただ茫然と部屋に戻る後ろ姿を眺めるしか出来なかった。
結構長めの10のお題2より
配布元:Abandon
これ2に続きます。10題で構成が出来てるので本当は1題につき1話にしたかったんですが、長くなり過ぎました(苦笑
残りは書け次第上げます。
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