2009'02.12.Thu
来てしまった。遂に来てしまったのだ。
目の前に聳えるのは何ら普通の扉。何も知らない者が見ればそうとしか思わないだろう。
けれどそこは騎士団を纏める者だけが使う事を許される部屋に繋がる扉なのだ。他の部屋の扉とは全く意味が違う。
その扉の前に立ちながら息を飲む。なるようになれ、といざここまで来たものの、その威圧感に圧倒され最後の一歩が踏み出せずにいた。
「………、やっぱり無理だ」
次第に周りの視線が痛くなってきて、堪らず帰ろうと踵を返せば、途端音を立てて開く背後の扉。続いて聞こえてくる足音に、瞬時に緊張が走る。直ぐに逃げ出してしまいたいけれど、そんなのは失礼に当たるだろうし、何より足は動いてくれない。恐る恐る振り返れば、怪訝な顔をした彼が立っていた。
「あ…、アレクセイ、隊長」
「やはりお前かシュヴァーン、どうしたのだ私の部屋の前で」
いざ彼の前に立つと、緊張の余り何も言えずに立ち尽くしてしまう。どうしようと焦っていると、優しく頭を撫でられて、無意識に手に力が籠もる。それにあわせて後ろ手に持っていた紙袋がくしゃりと音を立てた。
「……何だ、それは」
そう聞いてくる彼に、もう隠すことは出来ないと意を決してその袋を突き出した。
もう、なるようになれ。
「あ、あの……アレクセイ隊長は甘味がお好きだと聞いたので、よかったら………」
どうぞ受け取って下さい、という最後の部分は口籠もってしまう。ああ俺の馬鹿と嘆いていれば、彼には意が伝わったらしく、その袋を優しく受け取ってくれた。
「そうか、有り難く頂こう」
また優しく頭を撫でられて、もう恥ずかしくて俯いてしまう。かさかさ、と袋を開ける音がして顔を上げれば、中身を取り出して笑う彼が見えた。
「……チョコレートか、……む、これはもしや」
「俺が作りました……あの、嫌でしたら別に……っ」
「何を言う、わざわざお前が作ってくれたのだ、喜んで食べさせて貰うよ」
「あ、ありがとうございますっ」
どうなるかと思ったけれど、なるようになったじゃないか。それに彼の嬉しそうな顔を目にすれば、もうそれだけで十分だ。
いつまでも居座るのはいけないだろうと、礼をして部屋を去ろうとすれば、静止の声を掛けられる。何だろうと振り返れば、彼はあのチョコを食べていた。
「隊長っ…今食べて頂かなくてもっ」
もう恥ずかしさやら何やらで、思わず叫んでしまった。熱くなる顔を押さえながら再び彼を見れば、その表情にそれまでの思考が一気に止まる。
彼がまるで子供のように顔を綻ばせて、自分の作ったチョコを食べていたのだ。
「……シュヴァーン」
「あ、はいっ」
呆気に取られていれば、彼が静かな声で自分の名を呼ぶ。我に返って返事をすれば、彼は至極優しい声で言った。
「また、私にチョコを作ってくれないか」
それがまるで親に物を強請る子供のように見えてしまって、思わず笑ってしまう。その様子に彼は不貞腐れた様にそっぽを向いてしまった。
「ふふ……すいません、アレクセイ隊長、俺で良ければいつでも作りますよ」
今まで遠い存在のように思っていた彼が何だか身近に感じられて、とても嬉しかった。
「そうか。……それとシュヴァーン、私の事は呼び捨てで構わないぞ」
「………はい、アレクセイ」
そう思い出しながら溶かしたチョコをかき混ぜれば、嬉しそうな顔で年下のあの子が見てるのだった。
選択制お題より。
配布元:Abandon
という事でバレンタイン文です。
すこーしマガで流したユリレイの方と関連性を持たせてみましたが、なんか微妙(苦笑
近頃のアレシュヴァがなんかほのぼので本当心が痛いです。でも私DVな方も好きなんだ(笑
ただこれ、連作設定練る前に書いた奴なんで時期は不明です。まぁ、シュヴァが若くて可愛い頃だと思って下さい。
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