2006'03.06.Mon
2006'02.22.Wed
最初はとても憎かった。
最近はとても腹立たしかった。
何故か今は、とても悲しかった。
「…は……?」
先程言われた言葉を理解しようにも、思考が一瞬止まってしまいすぐには理解出来なかった。
理解した所で、それでまた、驚きか何か分からない感情に支配されて動けなかった。
何故だかレプリカの顔を直視出来ない。
いや、解ってはいた。自分でも嫌というほどに。
唯それを認めたく無くて。
困り果てて立ち尽くしていたら、そのままゆっくり抱きしめられて。
抱きしめるその手の温もりは暖かかった。
抱かれるという事は初めてでは、無い。
寧ろ、その温もりが離れて行った時どれほど寂しいか、嫌という程知らされて来た。
だから余計に、離したく無くて。
伸ばされた手に甘んじて、そのまま、夜を明かしてしまった。
遠い意識の中、聞こえてきたのは自分の声。
「何…言って…?」
ゆっくりと浮上してきた意識の中、それは耳元でレプリカが何か呟いているのだという事に気付いた。
先程の行為の熱も未だ冷め切らぬまま、横で俯いているレプリカを怪訝に思って、気怠い身体で下から覗き込めば。
「何て顔…してやがる」
そう言わずにはいられなかった。
next..
まだまだ続く。
最近はとても腹立たしかった。
何故か今は、とても悲しかった。
「…は……?」
先程言われた言葉を理解しようにも、思考が一瞬止まってしまいすぐには理解出来なかった。
理解した所で、それでまた、驚きか何か分からない感情に支配されて動けなかった。
何故だかレプリカの顔を直視出来ない。
いや、解ってはいた。自分でも嫌というほどに。
唯それを認めたく無くて。
困り果てて立ち尽くしていたら、そのままゆっくり抱きしめられて。
抱きしめるその手の温もりは暖かかった。
抱かれるという事は初めてでは、無い。
寧ろ、その温もりが離れて行った時どれほど寂しいか、嫌という程知らされて来た。
だから余計に、離したく無くて。
伸ばされた手に甘んじて、そのまま、夜を明かしてしまった。
遠い意識の中、聞こえてきたのは自分の声。
「何…言って…?」
ゆっくりと浮上してきた意識の中、それは耳元でレプリカが何か呟いているのだという事に気付いた。
先程の行為の熱も未だ冷め切らぬまま、横で俯いているレプリカを怪訝に思って、気怠い身体で下から覗き込めば。
「何て顔…してやがる」
そう言わずにはいられなかった。
next..
まだまだ続く。
2006'02.21.Tue
それは本当に唐突に。
気付いてしまったその気持ちを抑えることは出来なくて、ただ会いたいと、思って。
会ってしまえば想いは募るばかりで、一度だけ、無理矢理同じ宿に泊まらせた。
その時の俺はガキでしかなくて、それは今でも変わらないけれど、その時はただ勢いで気持ちをぶつけた。
あいつは何も言わなかったけれど、それこそ、おかしいぐらいに黙り込んで俯いていたから。
俺はなんとなく嬉しくなって、そのままゆっくり抱きしめたら。
手の中の温もりは暖かかった。
「このまま、俺達一つになれないのかな…?」
そうすれば全てお前に返す事が出来るのに。
ふと口にしてしまったその言葉はアッシュに聞かれる事はなくて、少し安心する。
聞かれてしまえば明らかにアッシュは嫌な顔をしていただろうから。
そんなアッシュを見るのは嫌だった。
それでも口に出しておかなければいけない気がしたのは。
そうしないと、何故か。
何故かアッシュが消えてしまうような、そんな気がして。俺じゃなく、アッシュが。
本当に消えるべきなのは、…俺なのに。
「一つに、なれないのかな…?」
もう一度呟いたその言葉は、静かな虚空に消えていった。
next..
誰かさんを見習ってこっそり連載。
まあ隠す物でもないんだけど。
この前のルクアシュやり直しを長々と。
気付いてしまったその気持ちを抑えることは出来なくて、ただ会いたいと、思って。
会ってしまえば想いは募るばかりで、一度だけ、無理矢理同じ宿に泊まらせた。
その時の俺はガキでしかなくて、それは今でも変わらないけれど、その時はただ勢いで気持ちをぶつけた。
あいつは何も言わなかったけれど、それこそ、おかしいぐらいに黙り込んで俯いていたから。
俺はなんとなく嬉しくなって、そのままゆっくり抱きしめたら。
手の中の温もりは暖かかった。
「このまま、俺達一つになれないのかな…?」
そうすれば全てお前に返す事が出来るのに。
ふと口にしてしまったその言葉はアッシュに聞かれる事はなくて、少し安心する。
聞かれてしまえば明らかにアッシュは嫌な顔をしていただろうから。
そんなアッシュを見るのは嫌だった。
それでも口に出しておかなければいけない気がしたのは。
そうしないと、何故か。
何故かアッシュが消えてしまうような、そんな気がして。俺じゃなく、アッシュが。
本当に消えるべきなのは、…俺なのに。
「一つに、なれないのかな…?」
もう一度呟いたその言葉は、静かな虚空に消えていった。
next..
誰かさんを見習ってこっそり連載。
まあ隠す物でもないんだけど。
この前のルクアシュやり直しを長々と。
2006'01.26.Thu
つい先日、親父がこの世からいなくなった。
つまり死んだってことなんだけど。もともと、俺の前に現れたことは殆どなかったから、あんまり実感は沸かない。
それでも、俺が神子の位に就くことになるわけで。セレスじゃなく、俺が。
それでもって教会で堅苦しい神託の儀式なんてものを行う羽目になるわけで。
神託の儀式といっても衰退世界で行われてるものとは違うらしくて、形式めいたものでしかないんだけど。
クルシスから直々に天使様が来て下さるそうで。
こんなただの見世物になるだけの場所に、わざわざ来て下さるなんて天使様も暇なんだなぁ、なんてそんな風に考えてた。
「どうなされました、神子?天使様の御前でございますよ?」
だから、そんな教皇の言葉も耳には入らなくて。
目の前にいる、見たことのある顔を見たら、続く祝詞なんて頭から消えうせてしまった。
青羽の天使が、ふっと笑う。
「新たなる神子ゼロスよ、私がこの場にいることが不思議か?」
その台詞を言われた瞬間、俺は今置かれている状況を思い出した。
違和感が無いように、でも急いで言葉を紡ぎだす。
「そのようなことはございません。そのお姿の神々しさに、目を奪われてしまいました・・・天使様」
周りの人間はその通りだ、と俺の言葉を肯定することで満足して、さっきの俺の行動にもう疑問はないらしい。
代わりに、目の前にいる天使様は俺の言葉に驚いていたけど。
「そうか・・・ならばゼロスよ、お前は我がクルシスに忠誠を誓い、神子としてこのテセアラのために尽くすと誓うか?」
すぐに何事もなかったように台詞を進める様は、あんたらしいと思った。
何となく少し寂しいなんて、思ったりもしたけど。
はい・・なんて静かに返事をして、そこでは神子らしく振る舞う。それが今俺がすべき事だし。
「クルシスはゼロス・ワイルダーを新たな神子として認めよう・・・」
その台詞で儀式も終了。人もぞろぞろと教会から出ていく。
俺は、あぁ、そういえばあんたにフルネームで呼ばれた事なかったな、なんて思いながら、人がいなくなるのを見ていた。
この後は神子と天使様だけの時間。
他の誰も近づいてはいけない時間。
本当は神子がクルシスから力を与えられる時間らしいけど、俺には関係なかった。
二人だけになった空間でここぞとばかりに口を開く。
「なぜ、貴方がここにいるんです?てっきり俺に失望してクルシスに帰ったんだと思ってましたよ」
昔とは違う、皮肉を含んだ口調で言う。
前にいる天使様は、その口調に顔をしかめたみたいだった。
まあそうですよね、昔はもっと可愛いげありましたもんね、俺。
でも6年っていうのは人を変えるのには十分なんですよ?元々俺マセてたほうだし?
失望しました?今の俺に。大人の酸いも甘いも知っちゃったもんで。
そんなことをへらへら笑いながら言っていたら、無愛想な天使様はちょっと怒ったみたいだった。
やり過ぎたかな?なんて思ってたら、今度は悲しそうな顔をされた。何となく胸が痛い。
その理由はわかってはいるんだ。
「お前はそれで良いと思っているのか?」
唐突に言われた言葉。もちろんそれは、今の俺に対しての。
んなわけないじゃん。俺はそこまで落ちぶれてなんてない。決してそう声には出さないけど。
「もちろん。何を今更な事をお聞きになるんです?俺は神子なんですから」
ほら、この口は平気で思ってもないことを言う。
昔もそうだったといえばそうなんだけど。余計にひどくなった、そう思う。
あぁ、こんな自分に吐き気がする。
込み上げてくる吐き気で、しだいにこの場にいることさえも辛くなってきた。
それを悟られないようにしながらも、待ち切れなくなって用件を催促する。
「・・お前にはクルシスの本部に来てもらおう」
「は・・・?」
神子が再生の旅なしにクルシスに向かい入れられるなど、聞いたこともない。
ましてやここは繁栄世界だ、神子はあってないようなものなのに。
「・・それはどういうことなのでしょう?俺は天使様に呼び出されるようなことした覚えはないんですけど」
「うむ・・・クルシスの統括者、ユグドラシル様がお前に会いたがっているのだ」
何故?その言葉がまず浮かんで来た。
自分は神子になったばかりだし、目を付けられる理由など何もない。
何で俺が?と思わずにはいられない。
「どうして・・・」
「それはお前には関係のないことだ、・・・もういいだろう?相手は待っているのだ。今すぐ行くぞ」
言いかけた疑問はばっさりと切り捨てられ、天使様は今すぐに行こうとするところだった。
「えっ・・今から!?ちょっと・・どうやって!?」
俺の腕を掴んで飛び立とうとする天使様の様子に、慌てて叫ぶ。
ここは広くても部屋の中だ、飛んでいけるはずがない。
外に出たところで、俺が空を飛んでたら大変なことになる。というか恥ずかしいからやめてくれ。
「私がここにどうやって来たと思っている?ここの上部に空間転移装置があるのだ。それを使っていく」
そういうと天使様は俺を引っ張って天井に向かって飛んでいく。
ぶつかる、そう思って目を閉じるけれど何も起こらず、恐る恐る目を開けるとそこには。
天使ばかりの世界があった。
「よく来たな、ゼロス・ワイルダーよ。私がこの地を統べるユグドラシルだ」
案内され連れられたのは、俺を呼び出した張本人の前だった。
もっと老けたじじいを想像していた俺は、そのあまりの若さと美しさに言葉が出なかった。
「そう堅くなるな。今のお前には何もしない」
「は・・あの、それじゃあ何で俺は呼ばれたんでしょうか・・?」
遠慮がちにそう言うと、彼は間を置いて言った。
「・・・お前は神子制度をどう思っている?正直に答えていい」
「俺は・・」
素晴らしいと思っています。そう言おうとして、止まった。
彼と目が合って、その見透かされているような目に、何故か恐怖心を感じ、いつもの様に偽った言葉を吐くことが出来なかった。
「俺は・・・・なかったらよかった・・って思って・・ます」
冷汗が流れた。
どんな罵倒を受けるのだろう、もしかしたら殺されるかもしれない、そう思った。
けれど彼の顔に浮かんだのは笑みだった。
「そうか・・・ならばもし神子から開放してやるといったら、・・・どうする?」
「え・・・・」
さっきこの男は何と言った?神子から開放すると・・?
それが本当ならセレスは・・・。
「お前の妹に神子の座を譲ることもできる・・・」
それを聞いた瞬間、俺は身を乗り出して叫んでいた。
「本当に・・!?本当にセレスに神子の座を譲れるんですか!?」
もしそうなればセレスをあの修道院から出してやれる。あの狭い部屋から。
「ああ。だが、そのかわりにこちらの手助けをして貰いたいのだ」
手助けとは・・何をしろというのだろう。でも、俺がそれをすることでセレスを出してやれるなら・・・。
「・・やります。何でもやりますから、俺を神子から解放してください。そして、セレスに神子の座を・・」
「わかった。ではこれから当分の間、定期的に我々の所に来て貰う。することが全て済んだら、その時、神子の座をお前から妹に移してやろう」
はい!とそう答えた俺は、ただ喜びに浮かれていて、その美しい天使達の長が、妖しく笑っていることに気付いていなかった。
「・・・なぁ」
天使達の街を歩きながら、横で仏頂面している天使様に声をかける。自然と口調は素に戻っていた。
「・・・あんたは、ここに俺を連れてくる為に俺に近付いたのか?」
この街に連れてこられてからずっと考えていた。
おかしいぐらいに事が進む。
まるで俺がここに来るのが当たり前の様に。
元から決まっていたかのように。
「・・・なぁ」
「私の意志だ」
「え」
いきなりそう言い切られて、逆に何も言えなくなる。
でも、そうならば本当に…
「あんたは…」
「…と、こう言えば満足するのか?」
フッと鼻で笑われれば期待をしていた自分が馬鹿らしく思えた。
「あーそうですかそうですよね期待した俺が馬鹿ですよ」
合わせていた歩調を速めて、後ろを向かずに先へ進む。我ながらにガキっぽい拗ね方だ。
後ろで呆れ果てたような溜息が聞こえる。
「先に行ってどうするつもりだ?」
「……戻るに決まってるんですけど」
「ほう、お前にあの場所から降りる手段があるとは知らなかったな」
そう言われて俺達がここに来た時のことを思い出す。
何となく凄くむかついた。
「今後クルシスから呼び出しがある時は、代わりの者が来るはずだ」
あの後教会に戻って来たが、儀式後に入って来た人間はいないようで。
しんと静まり返った空間に、悲しいかな男二人で立っていた。
「あんたは来ないんだ…?」
「生憎忙しい身なのでな」
「…そっか」
「…」
「……なぁ」
「…何だ」
「今日の話、嘘じゃねぇよな…?」
「……何故嘘を付く必要があると?用は済んだのだ。私は帰らせてもらうぞ」
そういうとクラトスは羽を広げて天井のほうに昇って、消えた。
ふっと肩の力を抜き、教会の椅子に腰掛けた。今日は一段と疲れた気がする。
神子を譲る…ねぇ。そうしたら俺はどうなるんだろう。
そんな事を考えながら、教会の扉を開ける。
開けた先にいるだろう、『神子』 を期待している人間達に貼付けた笑みを浮かべながら。
その時まで、『神子』を演じ切ってやろうじゃないか。
つまり死んだってことなんだけど。もともと、俺の前に現れたことは殆どなかったから、あんまり実感は沸かない。
それでも、俺が神子の位に就くことになるわけで。セレスじゃなく、俺が。
それでもって教会で堅苦しい神託の儀式なんてものを行う羽目になるわけで。
神託の儀式といっても衰退世界で行われてるものとは違うらしくて、形式めいたものでしかないんだけど。
クルシスから直々に天使様が来て下さるそうで。
こんなただの見世物になるだけの場所に、わざわざ来て下さるなんて天使様も暇なんだなぁ、なんてそんな風に考えてた。
「どうなされました、神子?天使様の御前でございますよ?」
だから、そんな教皇の言葉も耳には入らなくて。
目の前にいる、見たことのある顔を見たら、続く祝詞なんて頭から消えうせてしまった。
青羽の天使が、ふっと笑う。
「新たなる神子ゼロスよ、私がこの場にいることが不思議か?」
その台詞を言われた瞬間、俺は今置かれている状況を思い出した。
違和感が無いように、でも急いで言葉を紡ぎだす。
「そのようなことはございません。そのお姿の神々しさに、目を奪われてしまいました・・・天使様」
周りの人間はその通りだ、と俺の言葉を肯定することで満足して、さっきの俺の行動にもう疑問はないらしい。
代わりに、目の前にいる天使様は俺の言葉に驚いていたけど。
「そうか・・・ならばゼロスよ、お前は我がクルシスに忠誠を誓い、神子としてこのテセアラのために尽くすと誓うか?」
すぐに何事もなかったように台詞を進める様は、あんたらしいと思った。
何となく少し寂しいなんて、思ったりもしたけど。
はい・・なんて静かに返事をして、そこでは神子らしく振る舞う。それが今俺がすべき事だし。
「クルシスはゼロス・ワイルダーを新たな神子として認めよう・・・」
その台詞で儀式も終了。人もぞろぞろと教会から出ていく。
俺は、あぁ、そういえばあんたにフルネームで呼ばれた事なかったな、なんて思いながら、人がいなくなるのを見ていた。
この後は神子と天使様だけの時間。
他の誰も近づいてはいけない時間。
本当は神子がクルシスから力を与えられる時間らしいけど、俺には関係なかった。
二人だけになった空間でここぞとばかりに口を開く。
「なぜ、貴方がここにいるんです?てっきり俺に失望してクルシスに帰ったんだと思ってましたよ」
昔とは違う、皮肉を含んだ口調で言う。
前にいる天使様は、その口調に顔をしかめたみたいだった。
まあそうですよね、昔はもっと可愛いげありましたもんね、俺。
でも6年っていうのは人を変えるのには十分なんですよ?元々俺マセてたほうだし?
失望しました?今の俺に。大人の酸いも甘いも知っちゃったもんで。
そんなことをへらへら笑いながら言っていたら、無愛想な天使様はちょっと怒ったみたいだった。
やり過ぎたかな?なんて思ってたら、今度は悲しそうな顔をされた。何となく胸が痛い。
その理由はわかってはいるんだ。
「お前はそれで良いと思っているのか?」
唐突に言われた言葉。もちろんそれは、今の俺に対しての。
んなわけないじゃん。俺はそこまで落ちぶれてなんてない。決してそう声には出さないけど。
「もちろん。何を今更な事をお聞きになるんです?俺は神子なんですから」
ほら、この口は平気で思ってもないことを言う。
昔もそうだったといえばそうなんだけど。余計にひどくなった、そう思う。
あぁ、こんな自分に吐き気がする。
込み上げてくる吐き気で、しだいにこの場にいることさえも辛くなってきた。
それを悟られないようにしながらも、待ち切れなくなって用件を催促する。
「・・お前にはクルシスの本部に来てもらおう」
「は・・・?」
神子が再生の旅なしにクルシスに向かい入れられるなど、聞いたこともない。
ましてやここは繁栄世界だ、神子はあってないようなものなのに。
「・・それはどういうことなのでしょう?俺は天使様に呼び出されるようなことした覚えはないんですけど」
「うむ・・・クルシスの統括者、ユグドラシル様がお前に会いたがっているのだ」
何故?その言葉がまず浮かんで来た。
自分は神子になったばかりだし、目を付けられる理由など何もない。
何で俺が?と思わずにはいられない。
「どうして・・・」
「それはお前には関係のないことだ、・・・もういいだろう?相手は待っているのだ。今すぐ行くぞ」
言いかけた疑問はばっさりと切り捨てられ、天使様は今すぐに行こうとするところだった。
「えっ・・今から!?ちょっと・・どうやって!?」
俺の腕を掴んで飛び立とうとする天使様の様子に、慌てて叫ぶ。
ここは広くても部屋の中だ、飛んでいけるはずがない。
外に出たところで、俺が空を飛んでたら大変なことになる。というか恥ずかしいからやめてくれ。
「私がここにどうやって来たと思っている?ここの上部に空間転移装置があるのだ。それを使っていく」
そういうと天使様は俺を引っ張って天井に向かって飛んでいく。
ぶつかる、そう思って目を閉じるけれど何も起こらず、恐る恐る目を開けるとそこには。
天使ばかりの世界があった。
「よく来たな、ゼロス・ワイルダーよ。私がこの地を統べるユグドラシルだ」
案内され連れられたのは、俺を呼び出した張本人の前だった。
もっと老けたじじいを想像していた俺は、そのあまりの若さと美しさに言葉が出なかった。
「そう堅くなるな。今のお前には何もしない」
「は・・あの、それじゃあ何で俺は呼ばれたんでしょうか・・?」
遠慮がちにそう言うと、彼は間を置いて言った。
「・・・お前は神子制度をどう思っている?正直に答えていい」
「俺は・・」
素晴らしいと思っています。そう言おうとして、止まった。
彼と目が合って、その見透かされているような目に、何故か恐怖心を感じ、いつもの様に偽った言葉を吐くことが出来なかった。
「俺は・・・・なかったらよかった・・って思って・・ます」
冷汗が流れた。
どんな罵倒を受けるのだろう、もしかしたら殺されるかもしれない、そう思った。
けれど彼の顔に浮かんだのは笑みだった。
「そうか・・・ならばもし神子から開放してやるといったら、・・・どうする?」
「え・・・・」
さっきこの男は何と言った?神子から開放すると・・?
それが本当ならセレスは・・・。
「お前の妹に神子の座を譲ることもできる・・・」
それを聞いた瞬間、俺は身を乗り出して叫んでいた。
「本当に・・!?本当にセレスに神子の座を譲れるんですか!?」
もしそうなればセレスをあの修道院から出してやれる。あの狭い部屋から。
「ああ。だが、そのかわりにこちらの手助けをして貰いたいのだ」
手助けとは・・何をしろというのだろう。でも、俺がそれをすることでセレスを出してやれるなら・・・。
「・・やります。何でもやりますから、俺を神子から解放してください。そして、セレスに神子の座を・・」
「わかった。ではこれから当分の間、定期的に我々の所に来て貰う。することが全て済んだら、その時、神子の座をお前から妹に移してやろう」
はい!とそう答えた俺は、ただ喜びに浮かれていて、その美しい天使達の長が、妖しく笑っていることに気付いていなかった。
「・・・なぁ」
天使達の街を歩きながら、横で仏頂面している天使様に声をかける。自然と口調は素に戻っていた。
「・・・あんたは、ここに俺を連れてくる為に俺に近付いたのか?」
この街に連れてこられてからずっと考えていた。
おかしいぐらいに事が進む。
まるで俺がここに来るのが当たり前の様に。
元から決まっていたかのように。
「・・・なぁ」
「私の意志だ」
「え」
いきなりそう言い切られて、逆に何も言えなくなる。
でも、そうならば本当に…
「あんたは…」
「…と、こう言えば満足するのか?」
フッと鼻で笑われれば期待をしていた自分が馬鹿らしく思えた。
「あーそうですかそうですよね期待した俺が馬鹿ですよ」
合わせていた歩調を速めて、後ろを向かずに先へ進む。我ながらにガキっぽい拗ね方だ。
後ろで呆れ果てたような溜息が聞こえる。
「先に行ってどうするつもりだ?」
「……戻るに決まってるんですけど」
「ほう、お前にあの場所から降りる手段があるとは知らなかったな」
そう言われて俺達がここに来た時のことを思い出す。
何となく凄くむかついた。
「今後クルシスから呼び出しがある時は、代わりの者が来るはずだ」
あの後教会に戻って来たが、儀式後に入って来た人間はいないようで。
しんと静まり返った空間に、悲しいかな男二人で立っていた。
「あんたは来ないんだ…?」
「生憎忙しい身なのでな」
「…そっか」
「…」
「……なぁ」
「…何だ」
「今日の話、嘘じゃねぇよな…?」
「……何故嘘を付く必要があると?用は済んだのだ。私は帰らせてもらうぞ」
そういうとクラトスは羽を広げて天井のほうに昇って、消えた。
ふっと肩の力を抜き、教会の椅子に腰掛けた。今日は一段と疲れた気がする。
神子を譲る…ねぇ。そうしたら俺はどうなるんだろう。
そんな事を考えながら、教会の扉を開ける。
開けた先にいるだろう、『神子』 を期待している人間達に貼付けた笑みを浮かべながら。
その時まで、『神子』を演じ切ってやろうじゃないか。
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