2008'12.21.Sun
彼に命じられ遠くからその若者達を眺めていた。暴走した魔導器は簡単に治まるものでは無いと解っている。彼が手出し無用と判断したのであれば自分はそれに従うまでだ。
本来街を護るべきその魔導器がエアルを乱した為、現在街には随分と濃いエアルが氾濫している。この偽りの心臓も鈍い音を上げていた。息苦しさに眉を顰めるが、彼の手前、痺れる足を叱咤して体勢を保つ。魔導器に近付くのはあの魔導少女だろうか。泣きそうな顔をしながらパネルの操作を始めている。周りの気も皆そちらに集中している中、見上げてきた彼と目が合った。
『決して目を離さずしかと見ておけ』
口の動きだけで伝えられるその言葉に、抑えていた冷や汗が吹き出る嫌な感覚が背筋に走る。それも束の間、痛みを訴えていた心臓が治まり、息苦しさから解放された。見ればあれだけ派手に暴走していた魔導器は何事も無かった様に静まり返っている。
その側には魔導少女とかの姫様が居た。少女は彼女の横で力無く倒れ込んでいる。小さく聞こえる会話から彼女が何か力を使ったのが伺えた。以前から姫様は特殊な力を持っていると聞いていたが、まさかこれがその力だというのか。
この力を、彼は望んでいるのか。
若者達が去った後、彼に呼ばれ告げられたのはやはり予想通りの内容だった。あの一行に潜入して姫様を監視し、時期が来たらば彼の下へとお連れする。皮肉なものだ。しかし彼は全てを解った上で自分に命じているのだろう。
「出来ないとは言うまいな」
「は、御意の儘に」
余計な考えは無用か。如何に足掻こうと何も変わりはしないのだ。彼の命じる儘道化の姿で入り込めば良い。長年続けてきたそれを見破られる事は決して無い、筈。あの方は昔の、生きていた頃の自分しか知らないのだから。
「シュヴァーン」
咎める様に呼ばれた名に意識を戻せば、二つの赤い目が冷たく射抜く。見慣れたそれに何ら特別感じる事も無く、何時もと同じ様に返事を返せば、腹部に不意に襲い来る痛み。つられて込み上げてくる吐き気を必死に抑えながら、蹲った姿勢の儘彼を見上げれば、先程と変わりない冷たく赤い目が見下ろしていた。
「お前は私の道具である事を忘れるな」
「………は、い」
繰り返される暴力という名の行為も、肯定さえし続ければ何れ終わると知っている。敢えて痛みを受ける様な趣向は持ち合わせていない。何れ全てが終われるその時迄、従順でさえ居れば。
「では、よろしくお願いします、レイヴン」
「はいはい、よろしくねエステル嬢ちゃん」
親愛なるエステリーゼ様、かつて貴女を護っていた騎士は遠い昔に死んでしまった。此処に居るのは、今や道化を演じる死人でしか無い。貴女を苦しめる、只の道具でしか無いのです。
彼女の変わらぬ無邪気な笑みに、無い筈の心臓が痛んだ気がした。
選択制お題より。
配布元:Abandon
アレシュヴァにシュヴァーン護衛話を突っ込んでみたらこうなった(苦笑
実際昔に護衛とかしてたら、相当辛いと思うんだよね。裏切らないといけないとかさ。
これに沿った続きとか過去話を書いてみたい。
本来街を護るべきその魔導器がエアルを乱した為、現在街には随分と濃いエアルが氾濫している。この偽りの心臓も鈍い音を上げていた。息苦しさに眉を顰めるが、彼の手前、痺れる足を叱咤して体勢を保つ。魔導器に近付くのはあの魔導少女だろうか。泣きそうな顔をしながらパネルの操作を始めている。周りの気も皆そちらに集中している中、見上げてきた彼と目が合った。
『決して目を離さずしかと見ておけ』
口の動きだけで伝えられるその言葉に、抑えていた冷や汗が吹き出る嫌な感覚が背筋に走る。それも束の間、痛みを訴えていた心臓が治まり、息苦しさから解放された。見ればあれだけ派手に暴走していた魔導器は何事も無かった様に静まり返っている。
その側には魔導少女とかの姫様が居た。少女は彼女の横で力無く倒れ込んでいる。小さく聞こえる会話から彼女が何か力を使ったのが伺えた。以前から姫様は特殊な力を持っていると聞いていたが、まさかこれがその力だというのか。
この力を、彼は望んでいるのか。
若者達が去った後、彼に呼ばれ告げられたのはやはり予想通りの内容だった。あの一行に潜入して姫様を監視し、時期が来たらば彼の下へとお連れする。皮肉なものだ。しかし彼は全てを解った上で自分に命じているのだろう。
「出来ないとは言うまいな」
「は、御意の儘に」
余計な考えは無用か。如何に足掻こうと何も変わりはしないのだ。彼の命じる儘道化の姿で入り込めば良い。長年続けてきたそれを見破られる事は決して無い、筈。あの方は昔の、生きていた頃の自分しか知らないのだから。
「シュヴァーン」
咎める様に呼ばれた名に意識を戻せば、二つの赤い目が冷たく射抜く。見慣れたそれに何ら特別感じる事も無く、何時もと同じ様に返事を返せば、腹部に不意に襲い来る痛み。つられて込み上げてくる吐き気を必死に抑えながら、蹲った姿勢の儘彼を見上げれば、先程と変わりない冷たく赤い目が見下ろしていた。
「お前は私の道具である事を忘れるな」
「………は、い」
繰り返される暴力という名の行為も、肯定さえし続ければ何れ終わると知っている。敢えて痛みを受ける様な趣向は持ち合わせていない。何れ全てが終われるその時迄、従順でさえ居れば。
「では、よろしくお願いします、レイヴン」
「はいはい、よろしくねエステル嬢ちゃん」
親愛なるエステリーゼ様、かつて貴女を護っていた騎士は遠い昔に死んでしまった。此処に居るのは、今や道化を演じる死人でしか無い。貴女を苦しめる、只の道具でしか無いのです。
彼女の変わらぬ無邪気な笑みに、無い筈の心臓が痛んだ気がした。
選択制お題より。
配布元:Abandon
アレシュヴァにシュヴァーン護衛話を突っ込んでみたらこうなった(苦笑
実際昔に護衛とかしてたら、相当辛いと思うんだよね。裏切らないといけないとかさ。
これに沿った続きとか過去話を書いてみたい。
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