2009'07.05.Sun
真っ暗に染まった視界。ぐちゃぐちゃに歪んだ思考の中で分かるのは堕ちていく感覚。唯それだけ。ああもう終わるんだなぁと他人事の様に思っていれば、突然それが真っ白に開かれる。浮き上がる思考。重い瞼が痙攣して覚醒を促す。
「あ、れ……?」
「起きたか、おっさん」
「………せーねん、?」
ぱちくりと開いた瞼の先には見慣れた黒い姿の彼が居て。意地悪そうな顔に笑みを浮かべながら俺を見ていた。そこは真っ暗でも真っ白でもない、普通の部屋だ。何だかそれに拍子抜けしてしまう。だって今さっきまで、もう終わるんだと思っていたのに。ほら今だって左胸から。
「……あー……俺生き返ったんだっけ」
「おい、おっさん、一体どんな物騒な夢見てたんだよ……」
「そうか、あれ夢だったのね、通りで」
何も聞こえなかった筈だ。あの情景に付いてくる筈の轟音や悲鳴が無い無音の世界だった。あの人の言葉も聞こえなかったもの。ああそうだ、考えれば考えるほどあれは不思議な世界だった。
「……うわぁ、嫌な夢見ちゃったわ」
「そりゃご愁傷様。いい加減その嫌な夢の世界から帰って来てくんねぇかな」
「へ……?」
頭を持ち上げる前にそこに伸びてきたのは彼の腕。何をされるのかと思いきや真っ直ぐに指を指されて意味が分からず戸惑う。俺何かしたかしらね。
「泣いてるぞ、おっさん」
「え、嘘……あらま、ほんとね」
言われて目元を拭えばじんわりと湿っていて、泣いていた事を示していた。無意識のそれに驚きが漏れる。悲しいとか嬉しいとか、そんな事を感じるような夢では無かったのに。
「……妬けるな」
「何がよ、青年」
「別に」
真っ暗な、いや真っ赤な?視界にあったのは虚無だけで。ただ与えられる情景を見続けるだけ。まるで演劇を見ている観客の様な。だって俺は、もうそこには居ないもの。
「多分だけど、青年が考えてるのとは違うわよ、きっと」
「俺は何も言ってねぇぞ」
「はいはいそーね。……あのね青年、きっと俺、悔しかったのよ」
そう言って笑った俺とは対照的な彼の顔。深く刻まれた眉間の皺に苦笑した。やっぱりほら、勘違いしてる。
「俺はまだ終われないみたいだからさ」
ね、そうなんでしょ、青年。
そう仏頂面した彼に笑いかければ、呆気に取られた間抜けな顔になって返ってくる。ああ何て彼らしくない顔。
「……ったく、心配して損したぜ」
「あら、おっさんの事心配してくれたの?嬉しいわね」
するといきなり剥がれた毛布。冷たい朝の空気が肌を刺した。何すんのよ青年。そう思って立ち上がった彼の顔に目を追えば。
「うわ、寒っ」
「そう思うんならいい加減起きるんだな、リタにど突かれても知らないぜ」
「酷いわよ、青年!」
さっきと変わらない意地悪い顔で、笑っていた。
だって視界は真っ白に開かれて、先に先にと自分を急かす。引っ張る腕は力強くてちょっと痛いけど、でもだからこそ頼もしい。もし俺が後ろを振り返っても、ちゃんと前を向かせてくれるんでしょ。
頼りにしてるからね、ユーリ。
選択制お題より。
配布元:Abandon
10万打フリリクのユリレイでした。どんなの書こうか悩んだ挙げ句、なんかおっさんの自己満足的なものになってしまいました(苦笑
匿名でリク下さった方、こんなもので宜しかったでしょうか。
リクエストありがとうございました!
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