2009'07.21.Tue
後半ゼロスがいつもに増して、女々しいです(苦笑
白い部屋。無機質な壁に無機質な光が這っているその部屋。潔癖な主が望むようにただ囲まれた空間だけが、その中にあった。
その白い空間に唯一散る赤い髪。微動だにしないその赤は、まるで死んでいるかの様に、床に横たわっていた。微かに上下する胸だけが、その赤がまだ息絶えていない事を示している。
「いい加減に起きたらどうだ」
白い空間に低く響く声。静かな足音をその閉鎖的な空間に響かせながら、部屋の主はその赤に向かっていく。上から降り注ぐ主の声に、赤いそれはゆっくりと首を動かした。
「……、…」
開かれた唇からは音は零れない。ただその動きは何かを紡ぐ様に震えていた。その姿に主はつまらなそうに冷たい視線を送る。転がる赤を蹴り上げれば、骨が軋む音が響く。また一層赤がじわりと広がった。
「あれはお前を助けになど来ない、分かっているだろう?」
嘲笑うかの様なその声色は酷く冷たく、しかし言い聞かせるかの様に部屋に静かに反響する。それに合わせてびくりと震えた赤に薄く笑って、乱れた赤を掴み上げた。
「っい、た……」
「ねぇ、ゼロス。僕はお前を買っていたのに、お前は僕の期待を裏切るつもりなのかな?」
無理矢理に引っ張られる髪はぶちぶちと音を立てて切れた。その痛みに声を上げれば、主は更に笑いながらまるで子供を諭す様に言葉を続ける。ゆっくりと頬を撫でる指は酷く優しく、それは今の状況には不釣り合いだった。
「ミ、トス…様…」
「お前は、もう要らないよ」
「っ……ぁ、……」
途端掴んでいた髪を離され、そのまま床に落下する。突然の衝撃に茫然としながらも、急いで主の方を見れば、来た時と同じ静かな足音で去っていく後ろ姿しか見えなかった。
かつり、と小さく部屋に響いた足音。それは同じリズムを刻みながら自分へと近付いてくる。それは倒れる自分の手前でゆっくりと止まった。
「………ファーストエイド」
低い声で呟かれたそれはじくじくと痛んでいた腹部の傷を静かに癒やす。随分と楽になった身体を起こしてその声の主を見れば、とても心配そうな顔をしていた。
「……、クラトス」
その顔は今までに見たことの無い顔で、無意識にその名を呟いてしまう。すると即座にはぁ、と一息安堵の溜め息を吐いて、くしゃくしゃと頭を掻き撫でられた。まるで子供扱いのそれに、一気に恥ずかしくなって彼の手をぱしり、と弾いてしまう。
気まずい空気がその場に流れた。
「……その元気があれば、もう十分だな」
「あ、……悪い…」
「構わない、動ける様になったのならばな」
そう言って背を向けてかつりかつりと部屋の扉へと歩き出す。咄嗟に去り行くその腕を掴めば、振り向いた怪訝な目が自分を見ていた。
「…なぁ、なんでわざわざ、こんなとこまで…」
「計画を忘れた訳ではあるまい、……アイオニトスの為だ」
「っ……は、はは……そうだよな…」
震える唇で問い掛けた言葉は、冷たい声色で簡単に返された。分かっていた筈の答えに、笑いが止まらなかった。
「俺が倒れてたら、ロイドを助けらんないもんな……」
俺様馬鹿みてぇ。
目の奥が熱くなるのに気付かない振りをしながら、くつくつと誤魔化す様に笑い続ける。その様さえも静かに見ている彼に、堪えていたものが溢れ出した。
「あんたも、使えない俺は、要らないんだろ」
縋るように見つめた彼の姿は、視界が涙で滲んでよく見えない。あぁ無様だ。勝手に期待して、結局はいつもそうだ。俺が望むものはいつも。
「ゼロス」
強く言い放たれた自分の名前に、反射的にびくり、と身体が震えた。延びてくる腕は自分を叩くのだろうか、それとも突き放すのだろうか。ぎゅっと瞳を閉じてこれからの事に構えていれば、考えていた衝撃はいつまで経ってもやってこない。恐る恐る閉じていた瞳を開ければ、目の前にその長い指先があって。
「すまない……こんなつもりでは無かったのだがな」
いつの間にか頬は涙で濡れていて、それを長い指先が静かに拭っていく。優しいその動きに、涙は止まる所か益々溢れていくばかりだ。何が何だか訳が分からずに、涙でぐしょぐしょの不細工な顔のまま彼を見つめれば、彼は困った様な顔をしていた。
「確かにここに来たのはアイオニトスの為だが……、お前を助けたのはそんな理由ではない」
そう言って呆けたままの俺を抱き締める。力強い筈のそれは労る様に優しくて、されるがままにその暖かさに身を預けた。
「……なら、なんで」
胸に顔を埋めたまま、涙混じりの声でそう短く問い掛ける。返事の代わりに頭を優しく撫でられて、やはり照れくさかったけれど、今度はその手を振り払いはしない。
「お前に生きていて欲しい、ただ、それだけだ」
頭上から降ってきた、低く静かな、でも優しいその声色。漸く乾いた筈の頬が、また温かく濡れていた。
選択制お題より。
配布元:Abandon
10万打フリリクユグゼロ→←クラでした。頭にも書きましたがゼロス君が女々しくなってしまいました(苦笑
前半のユグ様(もといほぼミトスですが)が特に楽しかったですが、後半のクラゼロも久しぶりの甘さで書いててなんか新鮮でした。
るん様こんなもので宜しかったでしょうか?
リクエストありがとうございました!
白い部屋。無機質な壁に無機質な光が這っているその部屋。潔癖な主が望むようにただ囲まれた空間だけが、その中にあった。
その白い空間に唯一散る赤い髪。微動だにしないその赤は、まるで死んでいるかの様に、床に横たわっていた。微かに上下する胸だけが、その赤がまだ息絶えていない事を示している。
「いい加減に起きたらどうだ」
白い空間に低く響く声。静かな足音をその閉鎖的な空間に響かせながら、部屋の主はその赤に向かっていく。上から降り注ぐ主の声に、赤いそれはゆっくりと首を動かした。
「……、…」
開かれた唇からは音は零れない。ただその動きは何かを紡ぐ様に震えていた。その姿に主はつまらなそうに冷たい視線を送る。転がる赤を蹴り上げれば、骨が軋む音が響く。また一層赤がじわりと広がった。
「あれはお前を助けになど来ない、分かっているだろう?」
嘲笑うかの様なその声色は酷く冷たく、しかし言い聞かせるかの様に部屋に静かに反響する。それに合わせてびくりと震えた赤に薄く笑って、乱れた赤を掴み上げた。
「っい、た……」
「ねぇ、ゼロス。僕はお前を買っていたのに、お前は僕の期待を裏切るつもりなのかな?」
無理矢理に引っ張られる髪はぶちぶちと音を立てて切れた。その痛みに声を上げれば、主は更に笑いながらまるで子供を諭す様に言葉を続ける。ゆっくりと頬を撫でる指は酷く優しく、それは今の状況には不釣り合いだった。
「ミ、トス…様…」
「お前は、もう要らないよ」
「っ……ぁ、……」
途端掴んでいた髪を離され、そのまま床に落下する。突然の衝撃に茫然としながらも、急いで主の方を見れば、来た時と同じ静かな足音で去っていく後ろ姿しか見えなかった。
かつり、と小さく部屋に響いた足音。それは同じリズムを刻みながら自分へと近付いてくる。それは倒れる自分の手前でゆっくりと止まった。
「………ファーストエイド」
低い声で呟かれたそれはじくじくと痛んでいた腹部の傷を静かに癒やす。随分と楽になった身体を起こしてその声の主を見れば、とても心配そうな顔をしていた。
「……、クラトス」
その顔は今までに見たことの無い顔で、無意識にその名を呟いてしまう。すると即座にはぁ、と一息安堵の溜め息を吐いて、くしゃくしゃと頭を掻き撫でられた。まるで子供扱いのそれに、一気に恥ずかしくなって彼の手をぱしり、と弾いてしまう。
気まずい空気がその場に流れた。
「……その元気があれば、もう十分だな」
「あ、……悪い…」
「構わない、動ける様になったのならばな」
そう言って背を向けてかつりかつりと部屋の扉へと歩き出す。咄嗟に去り行くその腕を掴めば、振り向いた怪訝な目が自分を見ていた。
「…なぁ、なんでわざわざ、こんなとこまで…」
「計画を忘れた訳ではあるまい、……アイオニトスの為だ」
「っ……は、はは……そうだよな…」
震える唇で問い掛けた言葉は、冷たい声色で簡単に返された。分かっていた筈の答えに、笑いが止まらなかった。
「俺が倒れてたら、ロイドを助けらんないもんな……」
俺様馬鹿みてぇ。
目の奥が熱くなるのに気付かない振りをしながら、くつくつと誤魔化す様に笑い続ける。その様さえも静かに見ている彼に、堪えていたものが溢れ出した。
「あんたも、使えない俺は、要らないんだろ」
縋るように見つめた彼の姿は、視界が涙で滲んでよく見えない。あぁ無様だ。勝手に期待して、結局はいつもそうだ。俺が望むものはいつも。
「ゼロス」
強く言い放たれた自分の名前に、反射的にびくり、と身体が震えた。延びてくる腕は自分を叩くのだろうか、それとも突き放すのだろうか。ぎゅっと瞳を閉じてこれからの事に構えていれば、考えていた衝撃はいつまで経ってもやってこない。恐る恐る閉じていた瞳を開ければ、目の前にその長い指先があって。
「すまない……こんなつもりでは無かったのだがな」
いつの間にか頬は涙で濡れていて、それを長い指先が静かに拭っていく。優しいその動きに、涙は止まる所か益々溢れていくばかりだ。何が何だか訳が分からずに、涙でぐしょぐしょの不細工な顔のまま彼を見つめれば、彼は困った様な顔をしていた。
「確かにここに来たのはアイオニトスの為だが……、お前を助けたのはそんな理由ではない」
そう言って呆けたままの俺を抱き締める。力強い筈のそれは労る様に優しくて、されるがままにその暖かさに身を預けた。
「……なら、なんで」
胸に顔を埋めたまま、涙混じりの声でそう短く問い掛ける。返事の代わりに頭を優しく撫でられて、やはり照れくさかったけれど、今度はその手を振り払いはしない。
「お前に生きていて欲しい、ただ、それだけだ」
頭上から降ってきた、低く静かな、でも優しいその声色。漸く乾いた筈の頬が、また温かく濡れていた。
選択制お題より。
配布元:Abandon
10万打フリリクユグゼロ→←クラでした。頭にも書きましたがゼロス君が女々しくなってしまいました(苦笑
前半のユグ様(もといほぼミトスですが)が特に楽しかったですが、後半のクラゼロも久しぶりの甘さで書いててなんか新鮮でした。
るん様こんなもので宜しかったでしょうか?
リクエストありがとうございました!
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