2009'08.17.Mon
余りに文載せてなかったから、マガログを載せてしまう事にした。
更新すれば良いだけ、とかは言わないで。
とりあえず5月のログでピオジェ。
秘預言ネタ。
刻々と迫り来る期限。それは決して目に見えるものでは無かったけれど、しかし確実に近付いていた。
嘗て青々と繁っていた木々達は、今は無惨に枯れ果て茶色に変色している。街全体を包んでいる空気も淀んでいて、人の気配など有りはしない。
死んだ様なその街は、正しく人々に捨てられてしまったのだ。嘗ては綺麗だった建造物も今は崩れ果て、その隙間から見えるのは腐敗した死体ばかり。人の物ばかりではない、小動物や魔物でさえも息絶えていた。
その様を二つの赤い目が、布の隙間から見つめていた。
かつりかつりとブーツの音を響かせて進む先は嘗ての宮殿。他と同じ様に崩壊したそこには、やはり生きているものなど他に存在していなかった。
奥に進めば進むほど酷くなる腐敗臭。それに比例する様に増えていく死体。青い装飾で彩られた広間には、それを覆い隠す様に飛び散った多くの血が、最早黒く変色してこびり付いていた。
その広間の中央。唯一殆ど血に染まる事無く存在している立派な椅子。
男は周りに一切目を向けず、真っ直ぐその椅子の前に向かった。
誰も座っていないその椅子の前に男は恭しく跪き、大事に仕舞っていた青い髪飾りを一つ、その上に置いた。
「すみません、遅くなってしまいました、ピオニー」
布の隙間から蜂蜜色の髪を揺らして、男は静かに笑った。
息を切らしながら走り続けて、奴らから、首都から遠ざかる。しかし流れ続ける血に、傷が余りにも深い事は見て取れた。それでも足を止めさせる訳には行かなかった。彼が死んでしまったらこの国はどうなるというんだ。そして、私は。
「……もう、良い」
とうとう歩く事も出来なくなったのか、力無く地面に崩れ落ちる彼を両腕で支える。耳元から聞こえたのは掠れきったそんな小さな一言。それはいつもは強気の彼が漏らした、諦めの言葉だった。
腹部からじわじわと染み込んでくる血は尚も止まる事は無い。無駄だと分かっていたけれど、それでもそれを隠す様に強く抱き締めた。
「何を言っているんですか、エンゲーブまでもう直ぐですから」
「……お前らしく無いぞ、もう足掻いても無駄だと、解っているだろう」
血の気の引いた顔で無理に笑いながら弱々しく突き放される。再び露わになる赤く染まった腹部に、息が詰まった。
「……それでも、私は貴方に死んで欲しくは無い」
そこから目を背けながら小さく呟く。最後の方は聞き取ることなど出来なかっただろう。それでも彼は薄く笑いながら、それを聴いていた。
「お前が変わったのはあの子供の、お陰なんだろうな……」
そう言いながら力の籠もらない腕で頭を軽く撫でられる。嘗てとは違って弱々しいそれは、それでも、前と変わらず優しかった。
その腕が離れていったかと思うと彼は自らの髪を引っ張った。ぶちぶちという音と共に彼の綺麗な金髪が束になって切れる。何をするんだと咎めようとすれば、その手のひらから見えたのはあの青い髪飾り。彼がどんな事があろうと外しはしなかった物だ。
それを彼は己の髪ごと取り外したのだ。
「……なぁジェイド、いつか、この国が平和になったら、これを、この国のどこかに、置いてやってくれ」
そう言って手渡された髪飾りは、微かに傷が付いていたけれど、それでも綺麗な青色をしていた。それを大事に握り締めて再び彼を見れば、彼は満足そうな顔をしていた。
何故こんな時にそんな顔をしていられるのか。
「はは……、最期に看取られる時、は、美女にと、決めて、たんだがな…」
「……っ、止めて、下さい」
「まさか、お前とは、な……美人、に、は、違いない、な……」
「止めろ、ピオニー……もう、喋らないで、っ…」
「……、なくなよ、ジェイ、ド…」
そう言われて初めて自分が泣いていると気付く。力を失って下がり切った腕には涙を拭うことは出来ず、彼は只悲しそうに眺めているだけ。その姿に更に涙は溢れてくる。駄目だ、彼を見なくては。彼の最期を。
「……ジェ…ド、俺、は……」
そこで途切れた言葉が、彼の最期の言葉になった。
静まり返った宮殿の広間の、その中央に跪いていた男はゆっくりと立ち上がる。未だ椅子の上に置かれたままの髪飾りを愛おしく見つめてから、ゆっくりと背を向けた。
「……必ず、この国を元に戻して見せますから、ピオニー」
貴方に相応しいのはやはりその場所でしょう。だから貴方はそこで見ていて下さい。
荒廃した嘗ての帝国の首都を男はゆっくりと後にする。今は他に着る者はいない青い軍服を大きな布で隠しながら。そして彼は近くの街に立ち寄って。
そして、未来は。
選択制お題より。
配布元:Abandon
更新すれば良いだけ、とかは言わないで。
とりあえず5月のログでピオジェ。
秘預言ネタ。
刻々と迫り来る期限。それは決して目に見えるものでは無かったけれど、しかし確実に近付いていた。
嘗て青々と繁っていた木々達は、今は無惨に枯れ果て茶色に変色している。街全体を包んでいる空気も淀んでいて、人の気配など有りはしない。
死んだ様なその街は、正しく人々に捨てられてしまったのだ。嘗ては綺麗だった建造物も今は崩れ果て、その隙間から見えるのは腐敗した死体ばかり。人の物ばかりではない、小動物や魔物でさえも息絶えていた。
その様を二つの赤い目が、布の隙間から見つめていた。
かつりかつりとブーツの音を響かせて進む先は嘗ての宮殿。他と同じ様に崩壊したそこには、やはり生きているものなど他に存在していなかった。
奥に進めば進むほど酷くなる腐敗臭。それに比例する様に増えていく死体。青い装飾で彩られた広間には、それを覆い隠す様に飛び散った多くの血が、最早黒く変色してこびり付いていた。
その広間の中央。唯一殆ど血に染まる事無く存在している立派な椅子。
男は周りに一切目を向けず、真っ直ぐその椅子の前に向かった。
誰も座っていないその椅子の前に男は恭しく跪き、大事に仕舞っていた青い髪飾りを一つ、その上に置いた。
「すみません、遅くなってしまいました、ピオニー」
布の隙間から蜂蜜色の髪を揺らして、男は静かに笑った。
息を切らしながら走り続けて、奴らから、首都から遠ざかる。しかし流れ続ける血に、傷が余りにも深い事は見て取れた。それでも足を止めさせる訳には行かなかった。彼が死んでしまったらこの国はどうなるというんだ。そして、私は。
「……もう、良い」
とうとう歩く事も出来なくなったのか、力無く地面に崩れ落ちる彼を両腕で支える。耳元から聞こえたのは掠れきったそんな小さな一言。それはいつもは強気の彼が漏らした、諦めの言葉だった。
腹部からじわじわと染み込んでくる血は尚も止まる事は無い。無駄だと分かっていたけれど、それでもそれを隠す様に強く抱き締めた。
「何を言っているんですか、エンゲーブまでもう直ぐですから」
「……お前らしく無いぞ、もう足掻いても無駄だと、解っているだろう」
血の気の引いた顔で無理に笑いながら弱々しく突き放される。再び露わになる赤く染まった腹部に、息が詰まった。
「……それでも、私は貴方に死んで欲しくは無い」
そこから目を背けながら小さく呟く。最後の方は聞き取ることなど出来なかっただろう。それでも彼は薄く笑いながら、それを聴いていた。
「お前が変わったのはあの子供の、お陰なんだろうな……」
そう言いながら力の籠もらない腕で頭を軽く撫でられる。嘗てとは違って弱々しいそれは、それでも、前と変わらず優しかった。
その腕が離れていったかと思うと彼は自らの髪を引っ張った。ぶちぶちという音と共に彼の綺麗な金髪が束になって切れる。何をするんだと咎めようとすれば、その手のひらから見えたのはあの青い髪飾り。彼がどんな事があろうと外しはしなかった物だ。
それを彼は己の髪ごと取り外したのだ。
「……なぁジェイド、いつか、この国が平和になったら、これを、この国のどこかに、置いてやってくれ」
そう言って手渡された髪飾りは、微かに傷が付いていたけれど、それでも綺麗な青色をしていた。それを大事に握り締めて再び彼を見れば、彼は満足そうな顔をしていた。
何故こんな時にそんな顔をしていられるのか。
「はは……、最期に看取られる時、は、美女にと、決めて、たんだがな…」
「……っ、止めて、下さい」
「まさか、お前とは、な……美人、に、は、違いない、な……」
「止めろ、ピオニー……もう、喋らないで、っ…」
「……、なくなよ、ジェイ、ド…」
そう言われて初めて自分が泣いていると気付く。力を失って下がり切った腕には涙を拭うことは出来ず、彼は只悲しそうに眺めているだけ。その姿に更に涙は溢れてくる。駄目だ、彼を見なくては。彼の最期を。
「……ジェ…ド、俺、は……」
そこで途切れた言葉が、彼の最期の言葉になった。
静まり返った宮殿の広間の、その中央に跪いていた男はゆっくりと立ち上がる。未だ椅子の上に置かれたままの髪飾りを愛おしく見つめてから、ゆっくりと背を向けた。
「……必ず、この国を元に戻して見せますから、ピオニー」
貴方に相応しいのはやはりその場所でしょう。だから貴方はそこで見ていて下さい。
荒廃した嘗ての帝国の首都を男はゆっくりと後にする。今は他に着る者はいない青い軍服を大きな布で隠しながら。そして彼は近くの街に立ち寄って。
そして、未来は。
選択制お題より。
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