2009'05.13.Wed
きらきらと光を反射して輝く水面、止まることなく流れる水は街全体に行き渡り、人々の生活を潤している。それは街の中心である宮殿も同じ事。青く染まる宮殿に流れ落ちる滝は、その空間を一層華やかでありながら威厳の満ちた空間に変えていた。
それなのに、その宮殿の主と来たら。
「陛下、いい加減にして下さい」
「入ってきたと思えば、いきなり何だ、ジェイド」
「……何だ、ではありませんよ、全く」
扉を開けた瞬間臭ってくる家畜臭。最早慣れた筈のそれは、目の前のこの男がペットだとする生き物の臭いだ。いつもならばどうにか我慢出来る程度のそれが、何故か今日は酷く鼻に付いた。見れば、前回見た時よりも確実に頭数が増えている。
その中に埋もれる様に座っていた彼は全く悪びれる様子も無く、その家畜達とじゃれ合っていた。
「これ以上増やしてどうするんですか、ここは家畜小屋では無いんですよ」
「俺の可愛いこいつらを家畜呼ばわりするな、それにペットを増やして何が悪い」
「悪い、ですよ。こんなに散らかした部屋では他に示しが付かないでしょう」
「ここに入ってくる奴など限られているだろう?その中で口煩く言ってくるのはお前ぐらいだ」
呆れながら咎めるもまるで効果は無く、彼は軽く笑いながら流していく。いや、分かっていたのだ。彼が簡単に自分の言葉を聞きはしないと。しかし彼に直接小言を言う人間も、彼が言った様に、自分位しか居ない訳で。
「そーですね、他の者は恐れ多くて進言出来ないのではないかと。マルクト九世へ・い・か」
そう嫌みを込めて言い放てば、彼は顔を嫌そうに顰めてから再度家畜達を見る。そこで何かを思い付いたのか、ふと笑みを浮かべて一匹のブウサギを抱きかかえた。
「お前の瞳は無垢で可愛いのに、何で可愛くない方のジェイドはあんなに怖いんだろうなぁ」
抱きかかえられたブウサギは訳が分からないといった様にされるが儘、その目を更にくりくりとさせて彼と見つめ合う。
それに彼は笑い返して、俺の可愛いジェイド、と機嫌良く言った。
「悪かったですねぇ、怖くて」
「何だ可愛くない方のジェイド。可愛いジェイドに嫉妬か」
「馬鹿な事言わないで下さい」
振り向き際に見せた顔は悪戯の成功した子供の様に満足げに笑っていて、その見慣れた顔に溜め息が零れた。
何度繰り返したか分からないこのやり取りに、よく飽きないものだと半ば感嘆にも似た感想まで浮かんでしまう始末。
「何だ、つまらんな」
「面白くするつもりなんて有りませんから」
そう言い返せば、つまらなさそうに抱きかかえていたブウサギを下ろして床に放す。いきなり自由になったそれは、少し彼を見つめてから、またゆっくりと動き出し仲間の中へと帰っていった。
「それにしても今更何だ、あいつらの事はお前も認めていただろう」
「渋々です。それにいくら何でも臭いが酷いですよ。全く、私が居ない間に一体何頭増やしたんですか」
「何頭って……この間生まれた子供一匹だけだが?」
「は…?冗談も程ほどに、」
「お前こそ何を言っているんだ?この部屋のブウサギ達を見れば数位わかるだろう」
首を傾げながら答える彼の姿に、一瞬訳が分からなくなる。直後思考を巡らせると己の誤りに嫌でも気付いた。自分としたことが何という早とちりをしたものだ。
「………半年振り、でしたね。そう言えば」
溜め息混じりにそう呟けば彼も気付いたようで、一転して馬鹿にした様な笑みを浮かべる。その姿に頭が痛くなる様な気さえした。
「何だジェイド、まさか半年離れている間に俺の部屋の匂いを忘れたのか?」
「煩いですよ」
「図星だな。しかしまぁそれであいつらが増えたと怒るとは、お前も可愛い奴だよな」
そう言いながらにやにやと浮かべられる笑みに、居た堪れ無くなり彼に背を向ける。扉に差し掛かる所で呼び止められ、渋々顔を向けた。
「何だったら今日の夜辺りにまた来て、匂いを覚えて帰っても良いぞ?」
「遠慮、させて頂きますよ。折角抜けた臭いがまた服に付くのは勘弁したいので」
「そうか?そりゃ残念だ」
そう笑う彼の声を背にしながら、足早にそのまま部屋を後にする。微かに熱くなっている顔には気付かない振りをした。
「全く、本当に可愛い奴だよ、お前は。なぁ、そうだよなぁジェイド」
プギ、と返ってきた小さな返事に、その部屋の主は同じ様に小さく笑った。
選択制お題より。
配布元:Abandon
リクエストのほのぼのピオジェです。
定番のブウサギネタでした。途中までなんかジェピっぽくなってしまいましたが、ほのぼのピオジェになっていますかね(苦笑
匿名様リクエストありがとうございました!
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