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日記兼短文落書置場..........。

日記だったり短文や絵を載せたり等々何でも賄えなノリで。

2025'05.10.Sat
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2009'05.28.Thu


かつかつ、と響く音は聞き慣れた、けれど久しい音だった。その重さは動くには億劫なものだったけれど、今はそれが酷く心地よかった。それはまるで自分をこの地に縛り付けているかの様で。
「シュヴァーン」
貴方の望む私で、再び最期を迎える事が出来るのだから。


薄暗い祭壇の前に立つ赤い影。横には力無くうなだれた姫を添えて、祀られた像を見つめていた。
「ご苦労だったな」
私の足音に気付いたのか、ゆっくりと振り返りそう言う。それに促される様に姫の視線も私に向けられる。驚いた様に顔を歪めて、小さく俺の名を呼んだ。
「勿体無いお言葉です、アレクセイ様」
つきり、と胸に痛みが走る。それに気付かない振りをして、真っ赤な瞳を見つめたまま、彼の前に跪いた。
彼は冷たい薄笑いを浮かべて、私を見下ろす。その突き刺す様な視線に身震いした。
「姫のお陰で漸く鍵も完成したのだ」
そんな私の様子に気付いている筈なのに、何事も無い様に彼は言葉を続ける。いつもよりも饒舌な彼に、あぁ本気で喜んでいるんだな、と分かった。珍しく口元も歪んでいるのがその証拠。
「おめでとうございます」
それを形式ばった言葉で祝福すれば、彼はその歪んだ口元のまま、立て、と一言。近くなる赤い眼に呑まれそうだ。
「そう思うなら態度で示せ、シュヴァーン。使える道具として私の役に立って見せろ」
耳に触れるかという距離まで唇を近付けて、彼は言う。想像していた、いや覚悟していたその言葉に、私が応えたのはたった一言。御意、と、そう応えれば、彼は楽しそうに顔を歪めた。

しかしそれも一瞬。直ぐに興味を無くした様に背を向けて、先程まで眺めていた祭壇に視線を注ぐ。方陣の中の姫はいつの間にか気絶していた。無理もない、極度の恐怖と絶望に晒されたのだ。優しい姫には絶えられなかったのだろう。
そんな彼女を彼は気にすることも無く、祭壇の階段をゆっくりと登っていく。その先に居るのは先程捕らえたばかりの始祖の隷属。睨み付けてくるそれを鼻で笑いながら一瞥する。高らかに笑いながら身を翻した彼と目が合った。
「まだ居たのか、シュヴァーン」
その一言は驚きよりも呆れを含んでいて、何だか泣きたくなった。何で、泣きたいのだろう。彼からの言葉で悲しくなる、なんて。死ぬのが怖い訳では、ないのだ。だって元より死んだ身。今更死に恐怖など。ならば何故、私は。
「お前らしくないな、早く行動に移したまえ」
赤い目が冷たく見つめてくる。そうだ、私は彼に、最期に言いたい事があって。


「アレクセイ様、先逝く事を心よりお詫び申し上げます。貴方を置いて逝く私を、許して下さい」

アレクセイ、と消える様に呟いて、そこを後にした。最期に見た赤い目は、ここ10年間見ていたものと変わりなかった。
じわじわと熱くなる目の奥に、誤魔化す様に何度も瞬いた。最期の最期に、暖かい彼の視線を期待していた自分が惨めで仕方なかった。そんなもの、ある筈無いのに。

結局、死ぬ時はいつも独りだ。

それでも、私が居なくなったらあの人が正気に戻るのでは無いかと、淡い期待を未だ抱いて、剣を握った。






選択制お題より。
配布元:Abandon



10万打フリリクのアレシュヴァです。
あの台詞を言わせたくて試行錯誤したらなんかあんまり纏まらない話になってしまいました(苦笑
桐君主様、リクエストありがとうごさいました!

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