2009'01.03.Sat
「………、流石に気が滅入るなこれは」
目に入るのは人、人、人ばかり。まるで蟻の大群の様に蠢いている。いつも以上に人が多くなっているダングレストの広場には、様々な露店が店を構えていた。カロル曰く、新年祝いの祭のようなものらしい。偶然にも補給の為に街に立ち寄った俺達は折角だからと見て回ることにしたのだ。
けれどいざ向かえばあまりの人の多さに身動き一つ取れない様な状態で、早々に気疲れしそうだった。カロルやレイヴンは慣れているのか、それなりに楽しんでいるのが遠目で見える。
「ユーリっ見て下さい、うしにんだるまですっ」
いきなりぴょこんと現れた桃色が抱えるそれは白くて丸い人形で、見たこともないものだった。それを嬉しそうに抱えているエステルの姿に首を傾げる。
「こんな変な人形がどうかしたのか」
「ユーリ、だるま見たこと無いんです」
きょとんとした顔で見上げながらそう言われて、再度記憶を探ってみたがやはり思い付く物はない。
「残念ながら、な」
「だるま、年始めなどによく売られる縁起を担ぐ人形。特にダングレストを中心に広まっている、です」
「へぇ、俺は帝都から出たこと無かったから知らなかったんだな」
「私も本でしか見たこと無かったんです、まさかこの目で見れるなんて夢みたいです」
そう言われて改めて見れば縁起が良さそうにも見えなくはない、と思う。エステルからすればうしにん型は特に珍しいから目に付いてしまったらしいが。
他にも色々と珍しい物が売っているらしく、目を輝かせながら店を回る彼女を微笑ましく思いながら眺めていれば、背後から掛かる聞き慣れた声。
「楽しんでるかい、青年」
「ぼちぼちな」
振り向きながらそう答えれば、目の前には想像通りの人物がいた。遠くで街の人達と話していたと思ったが、いつの間にか近くまで来ていたらしい。
「それにしては珍しく疲れてるっぽいけど」
「こんな凄い人混み滅多に無いからな、慣れてねぇんだよ」
「……まぁ、ザーフィアスの年越しは静かに過ごすのが普通だからね、おっさんも最初は戸惑ったもんよ」
そう言いながらも軽々と人混みをすり抜け、少し人の引いた静かな場所に辿り着く。その移動の間に取ったのか、両手には何か飲み物が握られていた。
「この辺ならちょっとは静かだし良いでしょ。これ、この辺の名物なんだけど飲むかい、青年なら好きだと思うわよ」
「何だよ、これ」
「甘酒っていう祝い酒よ、青年好きでしょ甘いの」
渡されたものを見てみればそれはとろりと白い酒で、甘い匂いが漂っていた。飲んでみればそれは随分と甘くで美味しかった。酒にしては甘過ぎるかも知れないが、俺には丁度良い甘さだ。これは癖になるかもしれない。
「美味いな、この酒」
「良かったらこれも飲むかい、俺様の分まで貰ったけど俺様甘いの苦手だし」
「サンキュ、おっさん」
差し出された酒を快く受け取って飲めばやっぱり美味い。これは一瓶くらいは買っておきたいな。この人混みを戻るのを考えると少し滅入るがそれ以上の価値はあるとみた。
「青年ってほんと、甘いものと酒が好きねぇ。俺様の常識じゃ考えられないわよ」
どうやら顔が緩んでたらしく、呆れたように呟きながらおっさんがこっちを見ていた。その視線に流石に気恥ずかしくなって顔を背ければ、更には笑われる始末。
「………、笑うことはねぇだろ」
「あー…ごめんねぇ、青年が何だか可愛くって」
けたけたと笑っている彼の姿は年上だと思えない程可愛くて、何となく、ただ何となく、キスをした。
「っ、ちょっと青年いきなり過ぎっ、てか甘っ」
目を見開きながら口を拭う彼をちょっと寂しく想って、更に深く舌を絡めれば飲みきれなかったんだろう唾液が喉元を伝う。舌を這わせてそれを舐めれば少し甘い気がした。
「……ね、ねぇ、せーねん酔ってる、でしょ」
「俺はこれ位じゃ酔わねぇよ、おっさんが可愛いのがいけないんだって」
「確実に酔ってるっての、それは。………はぁ、もう良いわ」
文句を言いながらもゆっくりと伸びてくる腕を掴んで首に回した。幸い周りに今は人が居ないし、このまま勢いだと思った矢先。
「あ、ちょっと待って」
そう言われて腕を突っぱねられた。
「何だよ良いところだったのに」
「このままだと忘れそうだから言わせてもらうわ」
「明けましておめでとう、ユーリ」
今年も宜しくお願いするわね。そう笑顔で言い放つレイヴンはあまりにも可愛くて、返事をするのも忘れて惚けてしまう程だった。
選択制お題より。
配布元:Abandon
取り敢えず帝都は海外、ダングレスト周辺は日本にして書いてみました。
なんで頭にエステル出てくるのか本当分からない(苦笑
遅くなりましたが、年賀文とさせて頂きます。
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