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日記兼短文落書置場..........。

日記だったり短文や絵を載せたり等々何でも賄えなノリで。

2025'05.10.Sat
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2009'10.16.Fri

失礼します、と一声掛けて扉を開ければ、目の前のその光景に言葉を失う事しか出来なかった。


「ああ、シュヴァーン良い所に来たな」
何事も無さ気に放たれたその台詞は、目の前の山積みの本の中から聞こえてくる。まさかそんなはず無いだろう、と自分の想像を叱咤しながら辺りを見渡すけれど、声の主の姿は、やはり見えない。
「あ、の……アレクセイ?」
部屋を陣取る本の山だけが存在を示していて、意を決してその中を覗き込めば、微かにだが本の隙間から銀色が見える。考えたくなかったけれど想像通りのそれに、苦笑しか出て来ない。痺れを切らした様な声がそこに響くまで、ただどうしようかと躊躇するばかりだった。
「……いい加減、これをどかして欲しいんだが」
「あっ…すみません、すぐやります」
分厚く重い本を一冊一冊丁寧にどかしていく。よくは分からなかったけれど、相当貴重な本なのだろう。色が薄れた背表紙の中は、難しい術式などで埋め尽くされていた。
徐々に見えてくる銀色に、さらに急かされた様に手の動きを速める。次第に減っていく重みに、漸くがさがさと銀色が動いた。足に乗っていた本がばさりと落ちる。

「大丈夫ですか、アレクセイ?」
「あぁ…すまなかったな、シュヴァーン。私とした事が、とんだドジをしてしまったよ」
ばつの悪そうな顔をしながら、本の中から彼が現れる。そこに手を伸ばしてそう言えば、手を取る彼は苦笑しながら呟いた。彼らしく無い台詞だ。いつも完璧で抜け目など無い彼がドジをしてしまう、なんて。
「一体何事かと思いましたよ」
「何て事はない。ただ本棚から本を取ろうとしたら、上に積んでいた物が崩れてきたのだ」
後はお前の見た通りだ。とそう言い切って、彼は何事も無さ気に散らばった本の中から目当ての本を探し始める。その姿はいつも通りの完璧な彼の姿で、あまりの切り替えの速さに呆気に取られた。
というか、あの量の本を頭上から浴びて無傷な事自体信じられない。どれだけ頑丈なのだろうか、この人は。

「シュヴァーン、そういえば何か用件があったのだろう、何だ?」
「……あー、それはあまり急ぎじゃないんで、後でも大丈夫です。とりあえず」
これ、片付けるの、手伝いますよ。
そう言って彼が避けた本達を手に取って笑う。返されたのは優しい微笑みで、その姿に一瞬言葉を失った。慌てて手に持っていた本を本棚へと戻すが、それは直ぐに本棚の中で横になってしまう。
「あーもうっ…」
「はは、焦らずとも本は消えたりしないぞ」
そう笑う彼の声を背後に聞きながら、真っ赤になった顔を隠す様に本棚と向かい合う。
倒れている本が笑っている気がした。




『本に埋もれた人を見つけた。』
選択制お題より。
配布元:Abandon



10万打リクエストの戦前アレシュヴァです。とりあえずほのぼのを目指してみようと思ったら、何故か大将が本に埋もれてしまいました(笑
やな様、こんなもので宜しかったでしょうか。
リクエストありがとうございました!

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