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日記兼短文落書置場..........。

日記だったり短文や絵を載せたり等々何でも賄えなノリで。

2025'05.10.Sat
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2009'09.30.Wed
皆が泊まっている宿から少し離れた安宿。フードを深く被り姿を悟られない様にしながら、そこの宿泊台帳にさらさらと 偽名を書いていく。
宿屋の主人も金払いの良い客人に、敢えて深くを探らず、部屋の鍵を渡した。
慣れたものだ。
今頃あの仮初めの仲間達は、俺がいつもの様に夜遊びしていると思って先に就寝している事だろう。本当はこんな事をしているなんて、あのお人好し軍団は気付いていないのだ。

窓の外にランプを一つ吊してカーテンを締め切る。天使化したものなら遠くからでも分かるそれは、お決まりの合図だ。
真っ暗な部屋の中で、カーテン越しのランプの光が消えるのをただ待っている。
長い様で、短い静寂。
カーテンから漏れた光が、ぼんやりと天井を照らしている。固いベッドに横たわりながらそれを眺めていれば、一瞬黒い影が映り、直ぐに闇が部屋を包む。
カーテンを開けば、彼がそこに立っていた。
「時間どーり、ご苦労なことで」
かちゃりと鍵を開けて、月明かりに照らされる部屋へと彼を招き入れる。再びカーテンを締め切って、また暗闇へと身を沈めた。


「で、今度は何だって?ミトス様は」
「変わらん。そのまま監視を続けろとのことだ」
「ふーん……泳がせてるつもりなのかね、俺達を」
そう言って腰掛ければ、ぎしりと音を立てて安いベッドは軋んだ。それを気にすることも無く、彼は俺の台詞に眉を顰める。しかし立ったまま微動だにしていないが。
「……やはり、不安か?」
「べっつにー。話ふっかけて来たのは天使サマでしょ、俺様はそれに乗っただけ」
そう茶化せば、鋭い眼光が突き刺さる。その様子に堪らず笑いが漏れた。すると先程まで微動だにしなかった彼が、不機嫌そうに低く呟いた。
「……何が可笑しい」
「だって、不安なのはあんただろ」
そう言って彼を見た瞬間、伸ばされた腕に押し倒されて、固いベッドの上に組敷かれていた。二人分の体重に一際大きく軋む。見上げた彼の表情は、全く見えなかった。
「痛いんだけど、……もしかして図星?」
返事は、無い。ただ押さえつける腕の力が強くなり、身動きが取れなくなるこの状況に、答えを教えられたも同然だ。この堅物天使サマは、思っているよりは単純。変な所でロイドとそっくりだ。
「ま、こんな俺様じゃ不安だよなぁ、ロイド君を助けるに、はっ……、」
続く言葉は唇を塞がれて飲み込まれた。柄にもなく貪る様なそれに、翻弄される。漸く解放された時には既に息は上がっていた。
「な、に……盛ってんだよ、あんたらしく、」

「私はお前の心配をしているのだ」

息を整えながら目の前の男を睨み付ければ、返ってきたのはそんな台詞。真っ直ぐに見つめられながら放たれたそれに、息を飲んだ。
「……、なんで」
震える喉でどうにか吐き出したのはそんな小さな呟き。真っ直ぐなその視線が痛かった。耐えきれず顔を背けて、目を閉じる。相変わらず腕は押さえられたまま、酷く近い彼の気配に、泣きたくなった。
「あんたは、そんな事言うんだよ……」
思わず漏れた本音は、ぼろぼろと虚勢の壁を崩していく。無様だと自覚しているのに、それはもう止まらなかった。押さえていた腕を振り切って、突き放す。
「俺の事なんて気にしなければ良い、その方が楽なんだ。期待したってそんなのすぐに、」
堰を切ったように溢れ出す言葉に、つられるように涙も溢れ出した。それを隠す様に腕を顔に回して、蹲る。
情けなさすぎて、この場から消えてしまいたかった。

暗い部屋に訪れる沈黙。それを打ち破ったのは強い腕の力だった。大きな腕で抱き締められて、そのいきなりの事に訳が分からず茫然としてしまう。
「私は、お前を好きなのだ」
「……何、言って」
「好きな者を心配し、気に掛けるのは当たり前だろう」
耳元で囁かれたその台詞は、余りに予想外の内容で、何も言えずに只されるがままになってしまう。酷く優しい抱擁に、段々と顔が熱くなっていくのが分かった。
「お前が思っている以上に、私はお前を想っているのだ、ゼロス」
その様子を小さく笑って、彼はめったに呼ばない俺の名前を呼ぶ。その優しい声色に、先程までとは違う涙が、堪えきれずに溢れてきた。
「……何故泣くのだ」
「っ……分かんねぇ、よ……だって、俺は」
そう言い掛けて、言葉が詰まった。俺は、何だと言いたいのか?
この男は嫌いだ、とそう思っている筈なのに、只、利害関係が一致しただけの筈だったのに、何でこんなに嬉しくて、泣いているのか。
「……ゼロス」
再び優しくそう呼ばれて、そこで漸く、この違和感の理由に気付いた。

そうだ。だって俺は、昔から。

「……あんた、本当にむかつく」
そう言っておずおずと背中に腕を回せば、くすりと小さく笑って腕の力が更に込められる。そのまま顎を持ち上げられて、ゆっくりと口付けられた。いつもとは違う優しいそれに、また涙がこみ上げてくる。
「お前は、そんなに泣き虫だったか?」
「……、あんたのせいだろ、馬鹿」



かちゃり、と音を立てて扉が開く。振り返った部屋の中には、他に誰も居ない。それを気にする事も無く、深くフードを被って安宿の軋む階段を下りていった。
昨日と同じ。その筈なのに、気分は変わって随分と楽だった。
また会えるのはいつだろうか、とそんな事まで考えてしまって、自然と緩んでしまう。


宿の扉を開ければ、優しい朝日が目の前を照らしていた。





『週一回この場所で。』
選択制お題より。
配布元:Abandon


10万打リクエストでクラゼロです。
一回途中で断念したりと色々あったこの話ですが、密会からなぜかパパの告白とよく分からない流れになってしまいました(苦笑
そしてゼロス君が泣いてばっかり。
匿名でリクして下さった方、これで宜しかったでしょうか。
リクエストありがとうございました!

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