2009'09.24.Thu
手を伸ばした先に絡み付く朱い髪。閉じられた瞼の奥に潜むのは自分と同じ翡翠。指先でなぞる輪郭も同じで。
「……どうしたんだ、アッシュ?」
問い掛けてくる、その声も。
当たり前だ。この今目の前にいるのは自分のレプリカなのだから。自分の姿を模した、模造品。つまりは自分自身と同じもの。なのに。
「………、分からない」
何故今自分はこうして一緒にいるのか。馴れ合いは嫌いだった筈なのに、何故。
この腕に、安心してしまうのか。
憎い筈のこの、レプリカに、どうして自分は。
ぐちゃぐちゃだ。何もかも。倫理も道理も何も無い。
「アッシュ、何で泣いてるんだよ」
「……お前が、」
お前が俺のレプリカなのがいけないんだ。
そう嗚咽を吐き出して、差し出された胸を涙で濡らせば、また暖かい腕が優しく頭を撫でる。
更に涙が溢れて、止まらなかった。
『善悪判断付かずに泣いた。』
見慣れていた筈の簡素な部屋は、今はその主さえも失ってより広く、殺風景に見えた。
残されたのは、もうこの机だけ。
机と書類と本しか無かったこの部屋は、今やその大部分であった書類も本も帝国によって回収され、一つの机が残るのみ。
「何だか、結構寂しくなったわね」
唯一のその机も、明日には運び出されてしまう。そして直ぐにあの真っ直ぐな青年の物でこの部屋は埋め尽くされてしまうのだろう。
「……貴方は、いつもここに座っていたのに、な」
沢山の本に囲まれながら、力強くこの国の未来について語りあった。時には喧嘩もしたし、仲直りもしたし。
絶望も知ったりした、けれど。
「それでもきっと、貴方を愛してたんだよ、大将」
開けた引き出しにはやっぱり何も入っていなくて、彼が消えたという事実に、今更だけれど、声を上げて泣いた。
『宗教的な愛を捨てた私の後悔。』
選択制お題より。
配布元:Abandon
泣いてばっかり(苦笑
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