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日記兼短文落書置場..........。

日記だったり短文や絵を載せたり等々何でも賄えなノリで。

2025'05.10.Sat
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2009'04.01.Wed
それは見てるだけで痛々しいものだった。彼の弓を引く指があの日から微かに震えているのを知っている。それを隠す為に後衛にばかり周り、弓を変形させる回数が極端に減ったのも知っている。彼が未だに、あの名前に囚われているのも知っている。それを隠そうと必死に去勢を張る姿に胸を痛める事しか出来無いのだ。
彼は決して泣き顔を見せた事はない。それはドンが死んだ時も同じだったし、あの時も同じだろうとは思ってはいた。思ってはいたが、実際に全くその素振りを見せない彼を見ると、こっちの方が泣きたくなってくるのが現状だ。

「だから、泣けよおっさん」
部屋に一人居る所をわざわざ忍び込んで押さえ付けながらそう強要してみても、彼には届きはしない。いや、届いていたとしても応えはしない。わかってはいるさ。それがあんたの決めた道だってな。だがそれであんだが苦しんでるのをほっとける程出来た人間じゃないんだよ、俺は。
「………、なんで青年の方が泣きそうな顔してんのよ」
ゆるゆると伸びてくる腕は俺の頬に触れる。その先の顔は苦笑というより困惑に近くて、それが余計に辛かった。
「あんたが泣かねぇから」
「おっさんは、泣けないの。大人の青年なら分かってるでしょ」
まるで子供をあやす様な素振りで頭を撫でながら遠くを見つめる。その翡翠色の瞳には俺の顔など映っていない。決して交わることのない視線が、狭い部屋を飛び交っていた。
「あんたをそこまでさせるのは一体何なんだよ」
「良い大人はそう簡単に泣くもんじゃ無いでしょ」
「泣いて良い時もあるだろうが」
それを無理矢理俺に向かせてそう言えば、うっすらと開く唇は震えるばかりで。少しの静寂の後、諦めた溜め息と共に小さく呟いた。
「………、分かってて言うんだからユーリってほんと意地悪いわ」
「分かってるなら応えてくれよ」
身体を起こしても向き合った姿勢のまま、少し茶化す様にそう笑えば今度は苦笑を浮かべる。けれどぼさぼさに乱れた髪の中の瞳は決して笑っていなかった。
「だめ、よ。おっさんにもどうなるか分かんないんだもの」
「恐いのか」
「………恐い、か。どうなんだろうね、俺長い間死んでたから、分かんないのよ」
暗い影を落とし始める瞳に、どうしようもない焦りを感じて勢い良く肩を掴んだ。微かに顰められた眉を見なかった振りをして、柄もなく声を荒げた。
「おっさんは今ここで生きてるだろうが」
その俺の様子に流石に驚いたのか、翡翠色の瞳を微かに見開かせて、戸惑い気味にたじろぐ。
「生きてるなら、時には訳分かんなくなる位感情に任せても良いだろ。ぐちゃぐちゃになったとしても、それが生きてるって事だ。格好付けた振りして逃げんな、レイヴン」
真っ直ぐにその瞳を見つめながらそう言えば、びくりと身体を震わせて息を飲む。苦しそうに歪む表情に胸が痛んだ。
「……、自分勝手な事を言ってるのは分かってんだがな、でも」
「いや、いいのよ……ほんとごめんね、駄目なおっさんで。………ありがと、ユーリ」


そう言って真っ直ぐに見つめ返される瞳は、乾ききったままだった。







選択制お題より。
配布元:Abandon



先月マガで流したやつですが、ランク入ってる割に近頃サイトにユリレイが少ないので流用(苦笑
後でちゃんと新しいものを書きます。多分。
4月馬鹿は絵で許して(汗

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