2008'10.26.Sun
その大きな背中を目で追いかける様になったのはいつからだろう。気が付けば視界に紫を探している。それを自覚したのがいつなのかは嫌でも知っていた。紫が消えて行き場を失った視線に戸惑って、その時にやっと気が付いた。あの紫を、放したく無いことを。
その紫が、とても小さく今にも消えてしまいそうだった。まるであの時の様に、ふらりと居なくなってしまいそう。早く捕まえないと手遅れになるかもしれない。けれど今まで拘っていた変な意地がその行動の邪魔をする。伸ばし掛けた腕はその紫の上着の端を掠るだけだった。
「どうしたの、リタっち」
けれどもそれに気付いたのかゆっくりと振り返り、さっきまでの雰囲気が嘘みたいにいつも通りの笑顔があたしに向けられる。優しい笑顔。けれどもそれは繕ったものだって気付いてる。もどかしい気持ちを抑えながら、それを隠す様に強気で返す。
「あいつ追って消えたりしたら許さないから」
黒髪の隙間から翡翠の眼が見開かれるのが、見えた。
「俺様はもう何処にも行かないよ」
気が付けば胸の中に抱き締められて頭を撫でられる。子供扱いのそれをいつもは癪に思って拒絶していたけれど、今は何だか心地良く感じた。怒る事も無くされるがままになっているあたしを珍しく思ったのか、頭から手のひらが離れたかと思うと屈んで顔を覗き込んでくる。
不意に目の前に現れたその顔に、息を飲んで、それであたしは。
触れるだけのキスを、した。
一度決壊して溢れ出した気持ちはもう抑えられなくて、さっきは掴めなかったその腕を掴んで縋り付く。驚いた様に硬直するその身体を放したく無かった。
「その言葉、嘘じゃないでしょうね」
その胸に縋り付いたまま、顔を隠しながらそう言う。我ながらそれは今にも泣きそうな声だった。情けないと思いながらも、こみ上げてくるものを止める事は出来ない。すると伸びてきた腕に顔を上げられて。
「俺は、リタに嘘は付かない」
堪えていた涙が溢れ出した。
大きな手のひらが溢れ出した涙を優しく拭う。けれどそれは止まることは無くて、その手のひらをどんどん濡らしていく。困った様に笑うその顔が滲んだ視界に映った。気恥ずかしくなって強く瞼を閉じる。真っ暗な視界の中、あたしを呼ぶ声が聞こえてゆっくりと瞼を上げれば。
綺麗な翡翠色が目の前にあった。
「そんなに泣くなって、俺がどれだけ頑張ってると……」
真っ直ぐに見つめられながら、困った様な声色でそう呟かれる。触れそうに近いその距離に、胸が高鳴った。
「あたし、は……あんたが」
最早嗚咽でしかない声を上げて更に涙を溢れさせれば、濡れた瞼に口付けられて。
「全く…、どうなっても知らないからな」
切羽詰まった声で、そう低く呟かれた。
「蓋を取れば溢れるだけ。」
選択制お題より。
配布元:Abandon
リクエストありがとうございます!
しかし寸止めになってしまい申し訳無いです。どうもレイリタで裏は犯罪臭がしてしまって……(苦笑
あと話の流れが裏を書き辛いものになってしまったのも原因かと。
いつか別の話でレイリタ裏を書きますのでご了承下さいませ。
その紫が、とても小さく今にも消えてしまいそうだった。まるであの時の様に、ふらりと居なくなってしまいそう。早く捕まえないと手遅れになるかもしれない。けれど今まで拘っていた変な意地がその行動の邪魔をする。伸ばし掛けた腕はその紫の上着の端を掠るだけだった。
「どうしたの、リタっち」
けれどもそれに気付いたのかゆっくりと振り返り、さっきまでの雰囲気が嘘みたいにいつも通りの笑顔があたしに向けられる。優しい笑顔。けれどもそれは繕ったものだって気付いてる。もどかしい気持ちを抑えながら、それを隠す様に強気で返す。
「あいつ追って消えたりしたら許さないから」
黒髪の隙間から翡翠の眼が見開かれるのが、見えた。
「俺様はもう何処にも行かないよ」
気が付けば胸の中に抱き締められて頭を撫でられる。子供扱いのそれをいつもは癪に思って拒絶していたけれど、今は何だか心地良く感じた。怒る事も無くされるがままになっているあたしを珍しく思ったのか、頭から手のひらが離れたかと思うと屈んで顔を覗き込んでくる。
不意に目の前に現れたその顔に、息を飲んで、それであたしは。
触れるだけのキスを、した。
一度決壊して溢れ出した気持ちはもう抑えられなくて、さっきは掴めなかったその腕を掴んで縋り付く。驚いた様に硬直するその身体を放したく無かった。
「その言葉、嘘じゃないでしょうね」
その胸に縋り付いたまま、顔を隠しながらそう言う。我ながらそれは今にも泣きそうな声だった。情けないと思いながらも、こみ上げてくるものを止める事は出来ない。すると伸びてきた腕に顔を上げられて。
「俺は、リタに嘘は付かない」
堪えていた涙が溢れ出した。
大きな手のひらが溢れ出した涙を優しく拭う。けれどそれは止まることは無くて、その手のひらをどんどん濡らしていく。困った様に笑うその顔が滲んだ視界に映った。気恥ずかしくなって強く瞼を閉じる。真っ暗な視界の中、あたしを呼ぶ声が聞こえてゆっくりと瞼を上げれば。
綺麗な翡翠色が目の前にあった。
「そんなに泣くなって、俺がどれだけ頑張ってると……」
真っ直ぐに見つめられながら、困った様な声色でそう呟かれる。触れそうに近いその距離に、胸が高鳴った。
「あたし、は……あんたが」
最早嗚咽でしかない声を上げて更に涙を溢れさせれば、濡れた瞼に口付けられて。
「全く…、どうなっても知らないからな」
切羽詰まった声で、そう低く呟かれた。
「蓋を取れば溢れるだけ。」
選択制お題より。
配布元:Abandon
リクエストありがとうございます!
しかし寸止めになってしまい申し訳無いです。どうもレイリタで裏は犯罪臭がしてしまって……(苦笑
あと話の流れが裏を書き辛いものになってしまったのも原因かと。
いつか別の話でレイリタ裏を書きますのでご了承下さいませ。
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