2010'06.10.Thu
続けて3月ログいきます。
「お前は、死にたいと思うのかい?」
白く塗りつぶされた無機質な部屋。硝子細工の様に綺麗で、繊細で、不安定な主は、冷めた声でそう笑っていた。
彼が笑うのなんて何時振りに見ただろう、そう言えば昔は結構見たような気もする。あの頃自分は酷く従順で馬鹿な子供だった。随分擦れてしまったと自覚しているけれど、今更どうしようもない。
今はただ、目の前に晒されている細く白い首筋に力一杯指を立てたいだけだ。
そうした所で、直ぐに息の根を止められるのは目に見えている。勿論自分が、だ。そこで先程の質問に戻るのだ。
目の前の主の首を絞めない事こそ、その答えなのだと。
「思いますけど、思いませんね」
「僕だと駄目だなんて、いつの間にお前はそんな贅沢になったんだい?」
「昔からですよ、ミトス様」
薄笑いを貼り付けながら、小さな主を見下ろせば、同じ様に彼は薄く笑っていた。
彼の反応が無意味になったのは何時からだろう。昔はそれなりに顔色を伺っていた筈だけれど、もう今は滑稽としか思えないのだ。それらの行為全てが。
だって、彼は決して救いを与えてはくれないのだから。
深く深く突き刺したそれは肺にまで達していて、吐き出した息は音にはならずただ血反吐を吐き出すだけだった。
濁った視界には彼の姿は無い。居るのは彼と正反対のロイド。今にも泣きそうな顔で真っ赤に染まった剣を抜いていた。
「泣くなよ、ロイド君」
そういえば彼の泣く所なんて見たこと無かったなあ。なんて滑る指で涙を拭いながらそんな事を考えていた。彼はただ冷酷に存在するだけで、そんな感情的な姿など、見たことなかったのだ、俺は。
けれど、彼は酷く感情的だったのだと、今更気付いた。ただそれを俺が求めなかっただけで。
「どうして、なんでだよ、ゼロス……!」
だって優しいお前なら、求めなくても救いを与えてくれるだろう、こうやって。
濁った視界に意識も曖昧になっていく。どんどん落ちていく意識の中で、最期に。
彼の声が聞こえた気がした。
「惨め、だな。お前はこんなのは望んで無かっただろうに」
紅い髪が広がる血と同化して、まるで紅い花を咲かせているかの様だった。救いを望んだ筈の相手は彼を此処に置いて先へと進んでいった。結局、こうやって僕の元へと帰ってくる。皮肉なものだ。お前は僕じゃなくてあいつらを選んだというのに。
「優しすぎるロイドには分からないのかな、これじゃ苦しみしか生まない事を」
冷たく冷え切った頬を撫でれば、まるで人形の様に固い。青白く染まった肌は不気味なだけだ。
彼は死を望んでいた。それは即ち、この世界に居る事を拒んでいたという事。それなのに、こんな惨めな姿を晒して。
「だから始めから、僕を選んでいればよかったんだよ、可哀想なゼロス」
冷たい頬に触れるだけのキスをして、手を翳す。現れた真っ赤な炎が全てを焼いて、彼自身を消し去っていた。
「静かに、お休み。……ゼロス」
空に舞った灰が、だたきらきらと光に反射して輝いて、消えた。
選択制お題より。
配布元:Abandon
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