2008'09.17.Wed
「ギルドユニオンに潜入し動向を探れ」
部屋に呼び出され前置きもなく言われたのはその一言。前々からシュヴァーン隊の執務から外れても良い様に手を回しておけと言われていたが、この為だったのかと理解した。道具である自分に拒否する権利はない。この方がそう言うのならばそれに従うだけ。何も考えず唯従ってさえいれば良い。
「御意」
執務机越しに立ったまま無機質に返事を返す。途端、気が付けばその机に頭部を強打させられた。掴まれた髪がぶちぶちと音を立てて切れたのが分かる。何か気に障る事をしてしまったのだろうか。突然の痛みに顔をしかめれば、再び顔を強打された。乱れ切った髪のまま再び上を向かされて目が合えば、彼は嘲る様に笑った。
「この姿なら誰も騎士団隊長だとは気付かぬだろうな」
彼の瞳越しに見た己の姿はとても酷いものだった。腫れた頬に乱れた髪で机に押し付けられている。惨めなものだと自嘲した。
翌日にはギルドに向かう事になりどうにか集めた衣装で変装してみるが、やはり衣装だけでは無理があった。ならばと髪を結ってみるが大して変わらない。どうしようかと考えていれば、ふと先程の己の姿を思い出した。整っていた髪に指を入れ乱してみれば、雰囲気からがらりと変わった気がした。その乱れたままの髪を再度結えば、そこに居たのは別人だった。
「………、はは」
鏡に映る道化姿の己を見ながら、薄く笑う。数年振りの頬の筋肉のその動きは引きつっていて、なんと間抜けな顔な事か。
「今の俺にはお似合いだな…」
あの方はこんな自分をどう思っているのだろうか。いや、そんな事は考える必要は無い。言われた通りに道化を演じて居ればいい。あの方に有益な情報が手に入れば良いのだ。
無理矢理作った笑みを貼り付けながら、その道化姿のまま自分の部屋を後にした。
「人生ってホント不思議よねー…」
宿に取った部屋でベッドに横たわり、ぼんやりと天井を眺めながらそう呟く。今では普通になっているぼさぼさの前髪を指先で触りながら、あの時の事を思い出していた。まさかあれが揺るぎない自分自身になろうとは思ってもみなかった。
「いきなり何言い出すんだよ、おっさん」
呟いた言葉は隣で剣を磨いている青年の耳にもしっかり入ったらしく、磨いているその手は止めずに怪訝そうにこちらを向く。ちょっと、剣片手に余所見は危ないぞ余所見は。
「んー……、珍しく昔の自分に感謝してみようかと思って」
「………それは、珍しいな」
内心そう苦笑しているのをどうにか顔には出さずにそう言えば、あからさまに驚いた顔をして手の動きを止める。それに安心した一方で、そんなに俺は過去の自分を嫌っている様に見えるのかと少し驚いた。いやまあ確かにあの頃の自分は消し去りたいけれど、自分は自分に変わらないし。
「酷いわねぇ青年、おっさんそこまで自分が嫌いじゃ無いわよ」
「…………説得力無いんだけどな、色々な事のせいで」
青年の言葉に反論すれば、肩を竦めて半ば呆れながらそう返された。視線は再び剣に向かい止まっていた手の動きが再開される。剣を磨く音だけが静かに部屋に響く。
「まあ、あれが無ければきっと今俺様ここにはいないし、ね」
その一言は心の中だけで呟いた。
(ああそれならば、あの人にも感謝するべきなんだろうか。レイヴンを生ませてくれた、あの人に)
公式でギルド潜入が御命令だったと言うことで。シュヴァーンがあのレイヴンになったきっかけとか妄想してみました。
だって髪型が違いすぎるじゃないか。
多分ゲーム開始より3、4年前に潜入してその時は無精髭とか無かったんだよ(笑
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