2008'09.10.Wed
建物の端、長い廊下を渡った先に冷たく湿った暗いその部屋はある。その一番奥の囚人を閉じ込める為の鉄格子に囲まれた空間で、彼は固いベッドの上で横たわっていた。頑丈な錠の付いた扉に手を掛ければ、鍵は開いていたらしく金属音を立てながら簡単に開いた。そのままベッドの横に立つと、漸く閉じていた瞳を開けて彼は口を開いた。
「どうしたのよ、わざわざこんな所に」
「心臓の魔導器を見に来たわ」
そう用件をはっきり言えば、少し驚いたのか微動だにしていなかった身体を少し揺らして起き上がる。訝しげな顔でこっちを見ながら、困ったように言葉を続けた。
「……エステル嬢ちゃんの事で調べものしてんじゃなかったのかね」
「そうよ、だから早く魔導器見せなさいよ」
「いやいや、おっさん意味が分かんないんだけど」
「うだうだうるさいわね、剥くわよ」
「分かったから、それは勘弁してほしいわ」
反論を諦めたのか渋々上着を脱ぎ始める。直ぐに晒された逞しい胸元にはやはり不自然に魔導器が蠢いていた。制御パネルを呼び出してみれば、そこは普通の魔導器と変わらないようで、複雑な術式が空間に浮かび上がる。
「解析するから邪魔しないでよ」
術式越しに彼の顔を見ながら意識は術式に集中してパネルを操作していく。最初は何か言いたげだったが、結局何も言うこと無く、部屋には操作音と独り言だけが響いた。
「………やっぱりこの術式で生命エネルギーを動力に変換してるのね、でこっちの術式で心臓の、つまりポンプの働きを制御してる……あの子の場合はエアルの調整だからそこは宙の戒典の術式にしないと、でもこの術式とあの術式を同時に組み上げるとなるとまた別の術式が必要になるか……待って、この術式だと生命エネルギーを取り入れるのに、体内に入れないと無理だから、あの子の武装魔導器を元には出来ない……でもそれじゃああの子に負担が掛かるし、やっぱりこれでも駄目か………」
「なぁ、リタっち」
「何よ、邪魔しないでって言ったでしょ」
考えに耽っていると不意に彼が術式越しに声を掛けてくる。急に集中を切らされて苛つきながら彼の顔を見れば、随分と真剣な顔をしていた。
「………、魔核を皮膚に触れさせれば生命エネルギーは取り込み可能なんだって、さ」
そこから発せられたのは先程まで悩んでいた事の解決策だった。予想もしていなかったその言葉に、今迄の独り言を全て聞かれていたのかと思うと急に恥ずかしくなる。それを誤魔化すように早口で言葉を続けた。
「え……、それを早く言いなさいよ。でも、それが本当ならあの子の武装魔導器でも……」
開いていた解析画面を全て閉じ終えて、瞳を閉じて頭の中で必要な術式の理論を組み立てていく。どうにか形になる術式が出来そうだと、一息吐いて漸く瞳を開けば、先程と変わらない真剣な表情をした彼が、目の前にいた。
「嬢ちゃんに、俺と同じ魔導器を付けるつもりなのね」
「……仕組みだけよ、あんたがそれが出来るって言ったんじゃない」
「まぁ……言ったけど、ね。いいのか、嬢ちゃんが外に出られなくなっても」
気に掛けていた事を彼も気付いて居たようで、まるでそれを良しとする事を咎めるかのように、いつもとは違う鋭い口調で言われる。その眼差しが、痛い。
「………しょうがない、でしょ。それしか方法が無いんだもの」
「でも嬢ちゃんは無理にでも行くって言いそうだけどね」
「それでも、あたしが絶対止める。……あの子にもう辛い思いはさせたくない」
あたしだって散々悩んだのだ。だからもしこの方法が駄目なら、また違う方法を探す事が出来ると、少しの可能性も考えてここに来た。やっぱり思っていた通りの結果になったけれど。
「……まぁ、最善の方法がそれしか無いなら仕方ないわな。でもさ、リタっち」
俯いていた頭を上げられ、再び視線が交わる。とても綺麗な翡翠色が優しく笑っていた。
「エステル嬢ちゃんの心配する前に、まず自分の心配しないとな」
そう言って不意に伸びてきた指先で目元を優しく撫でられた。いきなりの事に息を飲む。けれど、その指先は何だか心地良くて、何だかとても気恥ずかしくなった。
「な、な、なにするのよ」
「隈、結構酷いぜ、あんまり寝てないんでしょ。リタっち、無茶し過ぎ」
「………、その台詞まんまあんたに返すわよ」
「何よリタっち、俺様の事心配してくれてたのね。おっさん嬉しいわ」
腕を振り払えばいつもと同じ調子で茶化したような口振りが返される。それに呆れつつも、何だか安心して力が抜けた。
「………なんか馬鹿らしくなってきた。あたしもう戻るわ、術式完成させないといけないし」
「もう戻るのかい、寂しいわねぇ。おっさんもう少しリタっちと一緒に居たかったわ」
扉に手を掛ければそんな台詞を背後で吐かれる。呆れたように溜め息を吐いて、もう一度振り返った。
「明日だって一緒でしょ。馬鹿な事言わないでよ」
「そうね、おっさんもこの身体で頑張ってるし………エステル嬢ちゃんだって同じだと思うけどな」
笑みを浮かべた表情のまま、含みを持った言葉を言われる。その笑みが諭すような雰囲気を持っていて、その示す先が簡単に解ってしまう。
「もう少し信じても良いんじゃないの」
その言葉を背後に聞きながら、あたしは逃げるように部屋を後にした。
(信じてない訳じゃない。でもあんたの苦しそうな姿を見る度、不安になって仕方ないのよ)
一番書きたかったのはあのリタの独り言だったりします(笑
取り敢えず術式とはパソコンのプログラミングみたいな感じかなぁと勝手な解釈して書いてみました。いろいろ詰め込んだ感は否めない。
リク下さった方、こんなレイリタでよかったでしょうか。
まだリクは受け付けてますので、よかったらどうぞ拍手などに一言下さいませ。
「どうしたのよ、わざわざこんな所に」
「心臓の魔導器を見に来たわ」
そう用件をはっきり言えば、少し驚いたのか微動だにしていなかった身体を少し揺らして起き上がる。訝しげな顔でこっちを見ながら、困ったように言葉を続けた。
「……エステル嬢ちゃんの事で調べものしてんじゃなかったのかね」
「そうよ、だから早く魔導器見せなさいよ」
「いやいや、おっさん意味が分かんないんだけど」
「うだうだうるさいわね、剥くわよ」
「分かったから、それは勘弁してほしいわ」
反論を諦めたのか渋々上着を脱ぎ始める。直ぐに晒された逞しい胸元にはやはり不自然に魔導器が蠢いていた。制御パネルを呼び出してみれば、そこは普通の魔導器と変わらないようで、複雑な術式が空間に浮かび上がる。
「解析するから邪魔しないでよ」
術式越しに彼の顔を見ながら意識は術式に集中してパネルを操作していく。最初は何か言いたげだったが、結局何も言うこと無く、部屋には操作音と独り言だけが響いた。
「………やっぱりこの術式で生命エネルギーを動力に変換してるのね、でこっちの術式で心臓の、つまりポンプの働きを制御してる……あの子の場合はエアルの調整だからそこは宙の戒典の術式にしないと、でもこの術式とあの術式を同時に組み上げるとなるとまた別の術式が必要になるか……待って、この術式だと生命エネルギーを取り入れるのに、体内に入れないと無理だから、あの子の武装魔導器を元には出来ない……でもそれじゃああの子に負担が掛かるし、やっぱりこれでも駄目か………」
「なぁ、リタっち」
「何よ、邪魔しないでって言ったでしょ」
考えに耽っていると不意に彼が術式越しに声を掛けてくる。急に集中を切らされて苛つきながら彼の顔を見れば、随分と真剣な顔をしていた。
「………、魔核を皮膚に触れさせれば生命エネルギーは取り込み可能なんだって、さ」
そこから発せられたのは先程まで悩んでいた事の解決策だった。予想もしていなかったその言葉に、今迄の独り言を全て聞かれていたのかと思うと急に恥ずかしくなる。それを誤魔化すように早口で言葉を続けた。
「え……、それを早く言いなさいよ。でも、それが本当ならあの子の武装魔導器でも……」
開いていた解析画面を全て閉じ終えて、瞳を閉じて頭の中で必要な術式の理論を組み立てていく。どうにか形になる術式が出来そうだと、一息吐いて漸く瞳を開けば、先程と変わらない真剣な表情をした彼が、目の前にいた。
「嬢ちゃんに、俺と同じ魔導器を付けるつもりなのね」
「……仕組みだけよ、あんたがそれが出来るって言ったんじゃない」
「まぁ……言ったけど、ね。いいのか、嬢ちゃんが外に出られなくなっても」
気に掛けていた事を彼も気付いて居たようで、まるでそれを良しとする事を咎めるかのように、いつもとは違う鋭い口調で言われる。その眼差しが、痛い。
「………しょうがない、でしょ。それしか方法が無いんだもの」
「でも嬢ちゃんは無理にでも行くって言いそうだけどね」
「それでも、あたしが絶対止める。……あの子にもう辛い思いはさせたくない」
あたしだって散々悩んだのだ。だからもしこの方法が駄目なら、また違う方法を探す事が出来ると、少しの可能性も考えてここに来た。やっぱり思っていた通りの結果になったけれど。
「……まぁ、最善の方法がそれしか無いなら仕方ないわな。でもさ、リタっち」
俯いていた頭を上げられ、再び視線が交わる。とても綺麗な翡翠色が優しく笑っていた。
「エステル嬢ちゃんの心配する前に、まず自分の心配しないとな」
そう言って不意に伸びてきた指先で目元を優しく撫でられた。いきなりの事に息を飲む。けれど、その指先は何だか心地良くて、何だかとても気恥ずかしくなった。
「な、な、なにするのよ」
「隈、結構酷いぜ、あんまり寝てないんでしょ。リタっち、無茶し過ぎ」
「………、その台詞まんまあんたに返すわよ」
「何よリタっち、俺様の事心配してくれてたのね。おっさん嬉しいわ」
腕を振り払えばいつもと同じ調子で茶化したような口振りが返される。それに呆れつつも、何だか安心して力が抜けた。
「………なんか馬鹿らしくなってきた。あたしもう戻るわ、術式完成させないといけないし」
「もう戻るのかい、寂しいわねぇ。おっさんもう少しリタっちと一緒に居たかったわ」
扉に手を掛ければそんな台詞を背後で吐かれる。呆れたように溜め息を吐いて、もう一度振り返った。
「明日だって一緒でしょ。馬鹿な事言わないでよ」
「そうね、おっさんもこの身体で頑張ってるし………エステル嬢ちゃんだって同じだと思うけどな」
笑みを浮かべた表情のまま、含みを持った言葉を言われる。その笑みが諭すような雰囲気を持っていて、その示す先が簡単に解ってしまう。
「もう少し信じても良いんじゃないの」
その言葉を背後に聞きながら、あたしは逃げるように部屋を後にした。
(信じてない訳じゃない。でもあんたの苦しそうな姿を見る度、不安になって仕方ないのよ)
一番書きたかったのはあのリタの独り言だったりします(笑
取り敢えず術式とはパソコンのプログラミングみたいな感じかなぁと勝手な解釈して書いてみました。いろいろ詰め込んだ感は否めない。
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まだリクは受け付けてますので、よかったらどうぞ拍手などに一言下さいませ。
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