2010'04.22.Thu
机の上に山積みになった書類が、豪快な音を立てて崩れた。大半は意味を為さない紙切れだが、中には重要な理論を記した物もある。この中から探し出すのには苦労しそうだな、と冷静に横目で見ていた。
殴られた頬はじんじんと痛みを主張するが、それでも思いの外痛くは無かった。彼は力一杯自分を殴るだろうと思っていたが、それは思い過ごしだったらしい。
泣きそうに顔を歪めているけれど、決して泣かない彼は昔と変わらなかった。
それでいて、同じく昔と変わらない自分を彼は責めるのだろうか。
「本気、なのかよ」
「……何を今更、」
崩れ落ちた書類を睨み付けながら、吐き捨てる様な疑問を投げ掛ける。昔と一切変わらないその言葉使いに、本当に変わらない、と頭の片隅で少し感心する。しかしそれを表には出す事無く、極めて冷静に言葉を返した。
その自分の様子に、何か言いたげに唇を震わせるけれど、結局それは音を為すことも無く閉じられる。
「気が済みましたか、殿下?」
部屋に満ちる静寂を打ち破る様にそう言い放てば、苦々しく歪められた顔が勢い良く自分に向けられた。胸の奥でちくり、と小さな痛みが、した。
「……済むわけ無いだろ、ジェイド」
ぼそりと呟かれるそれは、いつもの様な覇気は無くて、ただ弱々しく部屋に響いた。それを気にする素振りは見せずに、床に散らばった書類を拾い集めていく。
無言の視線が丸めた背中越しにひしひしと突き刺さっていて、一つ溜め息を吐いてから、仕方無しに先程から微動だにしていないだろう彼に振り返った。
「これ以上話していても、変わらない事は解っているでしょう」
「……それでも、俺は諦めないからな」
他人に向ける様に、極力距離を取った口調でそう言い放てば、悲しそうに、けれど何かを決心したかの様に、強い語気で返される。無言のままそれを眺めていれば、漸く彼は身体を動かして踵を返した。
「また、来る」
扉が閉まる直前にそれだけ言い切って、彼は去っていった。その時の風で、集めた書類がまたふわりと散らばっていく。再び床にしゃがみ込んで、一枚一枚拾い上げながら、そこに書かれたサインを見つめていた。
「……本当に、今更だ」
自分の味気ないサインの下に、堂々と押された皇帝の印。この期に及んで逃げるなど、許さない。そんな意図を持つそれは、抜け目無く全ての書類に押されていた。
彼は、多分知らないのだろう。事が自分達ではもうどうにも出来ない位に、進んでしまっているという事を。
知っていた所で、何も変わりはしないのだろうけれど。
「もう、手遅れなんだよ、……ピオニー」
自分以外誰も居ない狭い実験室に、そんな呟きが、小さく響いた。
『子供の頃から変わっていない自分。』
選択制お題より。
配布元:Abandon
大変遅くなりました、10万打リクエストピオジェです。
他の指定が無かったので色々書こうとしてしまい、何度も変更していたら時間が掛かりすぎてしまいました。しかも少し短い……(汗
最終的には幼少じゃなくなってしまいましたが、自分的には満足しています。あの敬語になりかけの時期は、とっても美味しいと思うんだ(笑
アドナイ様、お待たせしました。こんなもので良かったでしょうか?
リクエストありがとうございました!
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