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日記兼短文落書置場..........。

日記だったり短文や絵を載せたり等々何でも賄えなノリで。

2025'05.10.Sat
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2010'09.10.Fri

「おい、レイヴン」
不意に名を呼ばれて部屋唯一の扉に目を向ければ、がちゃりと音を立ててそれが開いた。何処と無く不機嫌な顔をした彼が、ゆっくりと部屋に入ってくる。
いつもならばこっちの様子をそれなりに伺うのに、珍しいなと思いながら生返事で応えた。
「……また、あっちに戻るのか」
荷が纏められて片付いた部屋の様子を眺めながら、確かめる様にそう呟く。予想していたとばかりのその様子に、なんだか申し訳なさで苦笑いが零れた。
「あらハリー……そうだねぇ、おっさんはゆっくりしたいんだけど、あちらさんがどうしてもって」
爽やかな顔に似合わず、あの人と同じ位人使いの荒い金髪の青年を思い浮かべながら苦々しくそう言えば、つまらなそうな返事が返って来た。
まぁ当然の反応だよな、と内心で納得しながら、扉の前で立ちっぱなしの彼を部屋の中へと手招きする。すると無言でそれに従って、部屋の備え付けの簡素な椅子に腰掛けた。
その素直な様子に小さく笑みが浮かぶ。それを誤魔化す様に、何気なく言葉を続けた。
「ハリーこそ、こんなとこ来て仕事は片付いたのかい?」
「まあな」
返されたのは素っ気ない一言だけ。前ならもう少し誇らしげにしていた筈なのに、とその変化に彼の成長を感じて、嬉しい反面少し寂しかった。子供の成長を見ている親の様な気分はこんな感じなのかもしれない。
「ふーん」
何だか少し悔しくて、対抗するように素っ気ない返事を返してみる。大人気ない、のは分かっている。
すると彼はそんな俺の様子を気にする事もなく、ただ静かに部屋を眺めていた。流石に少しは反応してくれないと、おっさん本気で悲しいんだけど。
「………やっぱり、お前はあっちの方が、騎士団の方が良いのか?」
俺の心情は露知らず、彼は彼で色々考えていたらしい。悔しそうな寂しそうな、けれど少し諦めた様な顔をして、そんな事を聞いてきた。
「え、何よいきなり」
そのあまりの真剣な様子に面食らって、そんな返事しか返せないでいると、彼も俺の様子に戸惑ったのか、語気が一気に弱まっていく。
「ごたついてるユニオンよりも帝国の方が、安心じゃないのか?……その、胸のやつとか」
顔色を確認しながら探り探り聞いてくるその様子に苦笑しながら、言葉が示すその場所を指差せば、彼が息を飲むのが分かった。
「……あぁ、これのこと聞いたのね、……別にそんなことは無いわよ、どっちもおんなじ」
そう言えば彼には何も告げていなかった筈。いつか言わなくてはと思っていたけれど、いつか、に縋って今に至っていた。きっと噂は耳に入っていたんだろう。良い意味でも悪い意味でも俺は有名に成り過ぎている。
結局、何処に行った所で安心出来る所なんて禄に無い。それだけは今も変わる事が無いのだと、半ば諦めている。
「……そうなのか」
そんな意図を汲んだのか、彼は少し驚いた様にそう呟いて、また黙り込んでしまう。俺では掛ける言葉が無い、と思い込んでいるのだろう。彼は昔から変わらずに優しいままだ。
「何、ハリー?もしかして心配してくれるの?」
「別に、そんなんじゃねえよ」
茶化す様に笑いながらそう言えば、彼は照れた様に顔を少し赤く染めて、けれど先程と同じ様に素っ気なく応えた。その様子にまた笑みが浮かんでしまう。
「またまた」
するとあからさまに不機嫌な顔をしてから、一息溜め息を吐いて、今度は自信有り気に言葉を続けた。
「どっちも変わんねえならどうせ戻ってくんだろ」
「んー保証は出来ないけど、きっとね」
きっと前と変わらずに根無し草になるんだろうなあ、と遠い所を見ながらそう呟く。その俺の様子を彼は眺めてから、本当に変わんねぇな、と笑っていた。
「なら前と同じだ、気にする必要もないんだろ」
「……それはそれでおっさん傷付くんだけど」
有無を言わせずにそう言われると、流石にちょっと悲しかった。業とらしく落ち込んだ様にそう言えば、まるで誰かを彷彿とさせる様に、豪快に笑う。
「ならプラマイ0だな、黙ってたことも含め」
「……、やっぱり気にしてたのね」
だから始終様子がおかしかったんだなと、いつも通りに戻った彼を見ながら思う。
俺の視線に気付いたのか、また照れた様に顔を背けた。
「とにかく、早く行って早く帰って来いよ」
「……あんがとね、ハリー」
その彼の一言に、なんだかとっても安心した。





『プラスマイナス0』
選択制お題より。
配布元:Abandon(http://haruka.saiin.net/~title/0/)





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