2010'09.10.Fri
「殺して、下さい」
狂った様に同じ言葉を繰り返すそれは、殴っても蹴り飛ばしても変わらずにその呪いの言葉を口にする。姿形は全くあの頃と変わり無いのに、中身は酷く変質してしまった。
純粋に私を見つめていた瞳は酷く濁り、口は先程言った通りだ。唯剣と弓の腕前だけは比べ物にならない位上達していた、酷く皮肉な話だ。そう、まるで本物の機械の様に、人間的な部分は崩れ落ち、技術だけが向上していく。私は、こんな物は望んでいなかった。
「アレクセイ、俺を、殺して」
「黙れ」
またこれが同じ言葉を喚き出す。痺れを切らして力一杯殴りつければ、流石に言葉が止まった。いや、これぱ言葉を発する口が、別の用途を果たしている間だけ、止まっているに過ぎない。ほら、醜い嘔吐の直ぐ後にはまたあの言葉を繰り返す。
「……、まるで唯の機械だな」
心臓を魔導器に変えただけだというのに、これは身体全てが魔導器になったかのようだ。
そう、彼の姿形をしただけの、魔導器。
「死なせて、下さい、アレクセイ」
それが殺してくれ、死なせてくれ、と喚くなど、何という矛盾。同じ姿で滑稽な事をしてくれるものだ。
「所詮、唯の道具でしかないというのに」
息を飲む醜い音が響く。そうだ、醜い音だ。魔導器でありながら人間の様な、音。道具が彼を模そうとしても無理に決まっている。
「アレクセイ、俺は、道具、なんですか……?」
「何を今更な事を言う。お前は唯の魔導器と変わらないのだろう?」
その時の顔が余りに人間的で、酷く吐き気がした。
それ以来あれは喚く事は殆ど無くなった。比例する様に人間的な部分も殆ど無くなった。つまりは魔導器が人間を模すのを諦めたのだろう。当たり前だ、人間はそんな簡単なものでは無い。道具如きがそんな事を考えるなど、身の程違いも良いところだ。
やはりシュヴァーンは戦争時に死んでしまったのだろうか。お前の笑った顔が見たかった筈なのに、今私の横にいるのはお前によく似た、けれど出来の悪い魔導器擬きだけだ。お前を生き返らせようとしたけれど、やはりそれは無理だったのか。
お前の姿が何処にも見つからないのだ、シュヴァーン。
『探し物はいつだって足元で。』
選択制お題より。
配布元:Abandon(http://haruka.saiin.net/~title/0/)
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