2011'10.10.Mon
書けないと悩んでいたら、唐突に何かが降臨したから勢いで書き上げました。
バラアルなんでネタバレたっぷり注意。
目の前で広げられるそれを、ただ呆然と眺めていた。なぜこんな事になっているのか、なんて聞いたところで期待した答えは返ってこないだろうし、聞く気にもなれない。そんな俺の様子を気にすることもなく、着々と狭いテーブルは埋め尽くされていった。
「はい、アルヴィンの分」
横から渡された小皿を渋々受け取れば、そこには綺麗に切り分けられたピーチパイが乗っている。テーブルを埋める勢いで並ぶ小皿にも、同じものが乗っていた。
「で、いったいどういう風の吹き回しだよ」
目の前の光景も漸く落ち着き、自分以外が席に着いたのを確認してから、そう皆に問い掛けた。
すると返ってきたのは呆気に取られたような顔ばかりで、逆にこっちが呆気に取られてしまう。
「え、だって…」
「何だよ、確かに俺はピーチパイ結構好きだけどさ、わざわざこんな状況で食うもんじゃねえだろ」
場所が場所だけに、このピーチパイもバランが用意したものだろう。それは分かる。最終決戦かも知れないから、その前に最後の一休みもまあ、分かる。
だがそれにしては豪勢に準備し過ぎだろう。お茶とパイがここぞと並べられたテーブルと、それを嬉々として眺める皆に、疑問を感じずには居られなかった。
「アルフレド」
そんな怪訝な瞳を向ける俺を、極めてマイペースな響きの声が呼ぶ。やけに意味ありげな笑みを浮かべながら、じっと俺を見ていた。
「今日が何の日か、覚えていないのかい?」
そう言って、部屋にある暦を指差す。まあ20年も違う世界で暮らしていれば分からなくなるのかも知れないけど、と少し寂しそうに続けられた。
「は?何の……」
「誕生日、おめでとう…アルフレド」
思えばエレンピオスを離れてから、色々な事があり過ぎて暦を気にしてなんて居られなかった。リーゼ・マクシアの暦は程なくして無理矢理覚えたけれど、それがエレンピオスでいつになるのかなんて、分かるはずもなかった。
それまで一番に祝ってくれていた母さんも、俺を見てくれなくなってしまっていたから、誕生日なんて、俺の中では無意味な物になり果てていた。
ただ暦が一周したから一つ年を取った、それだけだった。
「……そうか、今日だったのか」
20年振りに眺める暦表に、忘れかけた古い記憶を呼び戻しながら、そう呟く。思っていた以上に懐かしく感じて、思わず泣きたくなった。
「それで、これってわけか」
「…うん、僕達バランさんから聞いて、てっきりアルヴィンは分かってるんだろうって、」
そう言って申し訳無さそうに言葉を濁す少年に、だからなんでお前はそうなんだと内心苦笑する。このままでは益々暗くなるのが分かって、いつもの様に、自然と茶化す言葉が口から零れた。
「なーんでそこで落ち込むのかね、優等生。これでも俺、喜んでるんだぜ?」
そう言えば、最初の頃とは違う、少し訝し気な視線を俺に向けてから、静かに笑った。その大人な顔に、また少し胸が痛む。
「それにしてもバラン、よく覚えてたな」
それを誤魔化すように、さっきと同じ笑みを浮かべている彼に問いかけてみれば、その笑みを一層深めて。
「俺がアルフレドのこと、忘れるわけがないだろう」
何気なく、そう言った。
「………サンキュー、バラン…」
久し振りに口にしたピーチパイは、少し甘くて、懐かしい味がした。
選択制お題より。
配布元:Abandon
バラアルを書こうとしたのにジュード君が結構出張って来ちゃいました。
しかもやっぱり結構シリアスにもなってしまった(苦笑
多分リーゼ・マクシアの暦はエレンピオスとは全然別物だろうなと思って。
バラアルなんでネタバレたっぷり注意。
目の前で広げられるそれを、ただ呆然と眺めていた。なぜこんな事になっているのか、なんて聞いたところで期待した答えは返ってこないだろうし、聞く気にもなれない。そんな俺の様子を気にすることもなく、着々と狭いテーブルは埋め尽くされていった。
「はい、アルヴィンの分」
横から渡された小皿を渋々受け取れば、そこには綺麗に切り分けられたピーチパイが乗っている。テーブルを埋める勢いで並ぶ小皿にも、同じものが乗っていた。
「で、いったいどういう風の吹き回しだよ」
目の前の光景も漸く落ち着き、自分以外が席に着いたのを確認してから、そう皆に問い掛けた。
すると返ってきたのは呆気に取られたような顔ばかりで、逆にこっちが呆気に取られてしまう。
「え、だって…」
「何だよ、確かに俺はピーチパイ結構好きだけどさ、わざわざこんな状況で食うもんじゃねえだろ」
場所が場所だけに、このピーチパイもバランが用意したものだろう。それは分かる。最終決戦かも知れないから、その前に最後の一休みもまあ、分かる。
だがそれにしては豪勢に準備し過ぎだろう。お茶とパイがここぞと並べられたテーブルと、それを嬉々として眺める皆に、疑問を感じずには居られなかった。
「アルフレド」
そんな怪訝な瞳を向ける俺を、極めてマイペースな響きの声が呼ぶ。やけに意味ありげな笑みを浮かべながら、じっと俺を見ていた。
「今日が何の日か、覚えていないのかい?」
そう言って、部屋にある暦を指差す。まあ20年も違う世界で暮らしていれば分からなくなるのかも知れないけど、と少し寂しそうに続けられた。
「は?何の……」
「誕生日、おめでとう…アルフレド」
思えばエレンピオスを離れてから、色々な事があり過ぎて暦を気にしてなんて居られなかった。リーゼ・マクシアの暦は程なくして無理矢理覚えたけれど、それがエレンピオスでいつになるのかなんて、分かるはずもなかった。
それまで一番に祝ってくれていた母さんも、俺を見てくれなくなってしまっていたから、誕生日なんて、俺の中では無意味な物になり果てていた。
ただ暦が一周したから一つ年を取った、それだけだった。
「……そうか、今日だったのか」
20年振りに眺める暦表に、忘れかけた古い記憶を呼び戻しながら、そう呟く。思っていた以上に懐かしく感じて、思わず泣きたくなった。
「それで、これってわけか」
「…うん、僕達バランさんから聞いて、てっきりアルヴィンは分かってるんだろうって、」
そう言って申し訳無さそうに言葉を濁す少年に、だからなんでお前はそうなんだと内心苦笑する。このままでは益々暗くなるのが分かって、いつもの様に、自然と茶化す言葉が口から零れた。
「なーんでそこで落ち込むのかね、優等生。これでも俺、喜んでるんだぜ?」
そう言えば、最初の頃とは違う、少し訝し気な視線を俺に向けてから、静かに笑った。その大人な顔に、また少し胸が痛む。
「それにしてもバラン、よく覚えてたな」
それを誤魔化すように、さっきと同じ笑みを浮かべている彼に問いかけてみれば、その笑みを一層深めて。
「俺がアルフレドのこと、忘れるわけがないだろう」
何気なく、そう言った。
「………サンキュー、バラン…」
久し振りに口にしたピーチパイは、少し甘くて、懐かしい味がした。
選択制お題より。
配布元:Abandon
バラアルを書こうとしたのにジュード君が結構出張って来ちゃいました。
しかもやっぱり結構シリアスにもなってしまった(苦笑
多分リーゼ・マクシアの暦はエレンピオスとは全然別物だろうなと思って。
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