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日記兼短文落書置場..........。

日記だったり短文や絵を載せたり等々何でも賄えなノリで。

2025'05.10.Sat
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2010'10.13.Wed
拍手文ようやく更新したのでログ載せます。
甘ったるいロイゼロ目指してました!(笑


『覗き込んでしまえば終われる。』




舌先で転がすその砂糖の塊はころころとかからからとか軽快な音を立てていた。じわじわと咥内に広がる甘ったるい味が、何とも安っぽくてそれでいて何だか安心する。子供はこうやって甘味を覚えていくのだなあと、何気なく考えていた。
目の前には如何にも子供という彼がいた。無論、それは見た目だけの話で、人間としては俺よりもずっと出来ているのだけど、頭以外。そんな彼を眺めていたら、ふと、悪戯がしたくなった。

「ロイドくん」

一言、彼の名前だけを呼んで、彼の視線をこちらに向ける。剣の手入れをしていた手を止め、真っ直ぐに俺を見ていた。
「なんだよ、ゼロス」
怪訝な声を上げる彼を、ちょいちょいと指先で誘う。仕方無さ気に腰を上げて近付いてくる彼の手を掴んで、引き寄せた。
がちり、と可愛げの無い音を立てて、飴玉が歯にぶつかる。それを無理矢理舌で押し込めば、彼の咥内へと転がっていった。
少し離れれば、驚いた様に目を見開いている彼の顔が見える。その様子にしてやったり、と笑みを浮かべていれば、今度はがっちりと腕を掴まれた。

「え、ちょ……ロイド君?」

ぐらりと視界が揺れて、気が付けば押し倒されていて、下から彼を見上げるような体勢になっていた。
見上げた彼の顔は酷く悪戯に歪んでいて、嫌な予感に冷や汗が落ちる。身動きはやはり取れそうにない。見た目とは違って、彼の腕力は馬鹿にならないのだから。
がり、と先程の飴玉が彼の歯で割られる音が頭上から聞こえる。そのまま咀嚼するような音が続けて聞こえてきて、この押さえられた腕はどうするつもりなんだろうとぼんやりと考えていた。
不意に掴んでいた腕が離された。身動きが取れる様になったかと思えば、今度は頭を押さえられる。
そのまま咥内に流れ込んで来たのは、さっきまで彼が咀嚼していた飴玉だった液体。甘ったるく広がる味に驚きが隠せない。

「……さいってー」
「不意打ちしたお返しだぜ」

口を押さえながら彼を見上げてそう言えば、笑いながら意地悪く台詞を吐かれる。不意にその時の表情に、目が離せなくなった。顔が熱くなるのが分かる。

「どうしたんだよゼロス、いきなり黙って」
「………なんでも、ねえよ」

その表情があまりに格好良かった、なんて、そんな事言える筈が無かった。


選択制お題より。
配布元:Abandon



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2010'10.01.Fri
更新日は1日と15日で統一しようと思います。間に合えばね(苦笑




間髪入れずに走り出す背中を追い掛けて、あいつが敵に切り込んだ瞬間に足を止めて詠唱を始める。攻撃のリズムを見極めて一連の動作が終わる瞬間に、待機していた魔術を一気に敵に放った。
反撃しようと身を構えた魔物は不意の攻撃に為す術も無く切り裂かれる。一瞬の断末魔の叫びの後、辺りは静寂に包まれた。

それを打ち消すような溜め息が一つ。安堵を含んだそれは、一瞬にして緊迫していた空間を柔らかなものにする。それぞれが構えていた武器を下げ始めて、倣う様に俺も握っていた短剣を鞘へと戻した。

「さっきはサンキューな、ゼロス!」
「なーに、俺様に掛かればあれぐらい簡単だっての」
鞘と柄がカチンと音を立てるのとほぼ同時に、振り向いたロイドの口から嬉しそうな大きな声が響く。不自然にならない程度に笑みを浮かべながら、堂々としたその礼を軽く流した。

別に何て事は無い、これは只のお仲間ごっこだ。

元々が甘ちゃんの集まりなんだろう。気を許した素振りを見せれば警戒なんてすぐに解いてしまう。こいつらにはこのお仲間ごっこだけで充分なんだ。余計な気苦労など、必要無い。後は適当に情報を貰ってあちらさんに流すだけ。

たったそれだけ。何て事は無い。



「ゼロスッ……!!」

それはほんの少しの不注意から来る大きな失態だった。
詠唱直後の硬直から抜け出す直前の隙に、構えていた短剣を魔物の腕に弾き飛ばされたのだ。
途端に無防備になる右腕。とっさに盾で庇うもこれでは攻撃が出来やしない。魔術を放とうにもTPは先程の魔術で底を着いてしまった。最後の一匹だからと甘く見ていたのが仇となった。
仕方無く距離を取って、飛ばされた短剣の姿を探す。ロイドに襲いかかる奴の足元に転がっているのが見えた。後退するロイドを追い掛けて奴がそこから離れた隙に、その短剣へと手を伸ばす。瞬間。

大きな叫び声と共に、背後から魔物が襲いかかってきた。

やばい、と思ったその時、更なる大きな叫び声を上げて魔物が崩れ落ちる。その先には剣を振り下ろしたロイドがいた。

「ったく、大丈夫か、ゼロス」
「……お、おう」

そう答えてから拾い上げた短剣の泥を払って、鞘へとしまう。安心した様なロイドの溜め息が聞こえたかと思えば、どさり、と音がして。

背中を真っ赤に染めたロイドが、そこに倒れていた。


「とりあえず、容態は落ち着いたわ。それにしても二人して居なくなったかと思えば、一体何をしていたのかしら?」
呆れと安堵が入り混じった溜め息を吐きながら、リフィルはそう呟いた。それを苦々しく聞いていれば、横になっていたロイドの口が開く。
「……ごめん、先生。俺がゼロスを手合わせに誘ったんだよ」
「あなたは安静にしていてよ、ロイド。……そうなの、ゼロス?」
「……まあ、な」
問い詰める視線に堪え切れずに、瞳を逸らしてそう答えた。その様子を見るや否や、リフィルは立ち上がって真っ直ぐに見つめてきた。
「……そう、それはロイドが悪い事をしたわね。彼の担任として謝らせてもらうわ、ごめんなさい」
「………、」

「なんであの時助けたんだ?あんな傷負っておいてよ」
リフィルが部屋を出て行けば、二人だけが残ったそこには静寂が訪れて、それを打ち消す様にそう問い掛けた。すると、きょとんとした顔をこっちに向けながら、ロイドは答える。
「なんで、って仲間なんだから、当たり前だろ?」
さも当然と言わんばかりのその言葉。さっきのリフィルとはあまりに対照的なそれに、思わず笑いが零れてしまった。
「な、なんだよっ」
「いーや、何でもねぇよ」

そうだ。こいつは甘ちゃんじゃねぇか。こんな俺も仲間だと思って、こうして体張って守ったりして。
馬鹿じゃねぇの。でも、悪くねぇな。

このお仲間ごっこも、もう少しだけ続けてやろうじゃないか。



選択制お題より。430番。
配布元:Abandon



ということでロイゼロ馴れ初めの様なもの(笑
制約初挑戦は1日より前にと、どうにか2週間弱で書けました。これが続けばいいんだけど。そしてこの制約使用のお題は番号も一応載せることにしました。

次のお題番号は下二桁「69」で行きます。


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2010'09.10.Fri

それは、唐突に、訪れた。


金属が肉を斬る音や魔術の爆音が響き合う中、大きく布が地面を擦る音が響く。誰かが倒れたその音に、戦っていた皆の視線が一瞬だけ音の出所に向かう。

「レイヴンッ!!」

誰かの悲痛な叫びが、そこに響いた。



「なーに、そんなに心配されるとおっさん照れるんだけど」
固いベッドの寝心地の悪さに目を覚ませば、神妙な顔をした皆が自分を取り囲む様に見つめていた。直前の記憶が戦闘中で終わっている事から、ああ、倒れたのか、と他人事の様に考える。
あまりに皆が真剣に自分を眺めているものだから、その空気を壊す様に、敢えてそんな軽口を叩いた。
「っ、いったー!リタっちいきなりは酷っ」
途端返ってきたのはばしん、という鈍い音と平手打ち。その相手を見上げる様に見れば、涙を目に溜めながら睨み付けている少女と目があった。いつも気丈に振る舞う彼女のその表情に、準備していた軽口の続きを失う。ゆっくりと周りを見渡せば、己の失態の大きさを改めて知る事になった。
「……見たのね、これ」
胸元に視線を向けながらそう言えば、誰かが息を飲む音がする。その様子に苦笑しながら、極力落ち着いた声で言葉を続けた。
「見た目はあれ、だけど、結構平気なのよ?」
「嘘付くんじゃ無いわよ」
それを遮る様に発せられたのは先程の彼女の声で、睨み付ける視線はそのままに、強い語気でそう言い切られる。
「魔導器との接続部が壊死しかけてるじゃないっ……こんな状態で動くなんて自殺行為よっ!!」



静まり返った夜の町のひんやりと冷えた空気は少し肌寒かった。今は包帯でぐるぐる巻きにされた左胸を見下ろしながら、それを落ち着ける様に深く息を吐く。反動で深く吸い込めば、肺を満たす空気の冷たさが何だか心地良かった。
死んでなお生き長らえた身体がここに来て限界を訴え始めた。前から望んでいた事の筈なのに、いざそれが訪れると、今度はまた死ぬのが怖くなった。今はまだ死にたくないと、純粋に思った。
それ以上に、皆を悲しませたく無いと、強く思って、いた。
「……もう、潮時かしらね」

「何が、かしら?おじさま」

背後から唐突に聞こえた声に振り返れば、微笑を浮かべた彼女がいつもと同じ様に静かに立っていた。
「酷い人ね、勝手に出ていくなんて。みんな心配しているわ」
変わらず微笑でそう少し寂しげに告げられる。表情は崩してはいないけれど、その声色は本気だった。
「……ジュディスちゃんは、どうしてここに?」
「嫌な想像をしたく無かったから」
そう言いながら真っ直ぐに見つめてくる瞳は微かに安堵の色を湛えていて、それの意図を掴めずにいる自分を小さく笑う。
「でも、杞憂だったみたい」
そう笑った彼女の顔は、酷く綺麗だった。


「ねぇ、おじさま」
宿へと戻る帰り道、まるで連れ添う様に二人並んで歩いていた。比較的治安の良い町だからと言っても、女性一人を夜の暗闇で歩かせるのは良心が痛んだのだ。無論、彼女が返り討ちにしてしまう様子も頭には浮かんでいたが、それはそれだ。
「何かなージュディスちゃん」
「私達って、何なのかしら?」
憂いを帯びた表情でそう問われれば、頭の隅で自分勝手な想像が浮かんでは消えた。彼女がそんな気を持っていてくれているとは、思っていない。
「……まー、若人達の言葉を借りるなら、仲間なのかしらね」
「あら、意外ね」
「俺様そんな薄情じゃないわよ!」
無難に応えようと言葉を返せば、少し驚いた表情とその台詞が返ってくる。それに大袈裟に肩を落としながら、心外だという様にそう応えた。
「そうかしら?私はてっきり一方通行かと思っていたわ。だって、」

「       」

そう悲しげに告げる彼女の瞳は酷く真っ直ぐで、沸々と湧き上がる罪悪感に、その瞳から目を逸らすことしか、今の自分には出来なかった。




『「だって、情を寄せてないのならば、最初から仲間でも何でもないでしょう?」』
結構長めの10のお題2より。
配布元:Abandon(http://haruka.saiin.net/~title/0/)




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2010'09.10.Fri


机、棚、ベッド。ただそれだけ。
片付いた質素な部屋はその性格からは考えられないほど、酷く寂しい部屋だった。
「なんか、思ってたのと違うな」
「ま、実際寝るだけの部屋だったみたいだしね」
横で苦笑した男は、まるで他人ごとの様にそう呟く。この部屋の主は、この男である筈なのに。
この男は、酷く過去を、嫌うのだ。
それ程の嫌悪を持った理由を俺は知らない。戦争というものがどれ程酷いものなのか、只の餓鬼であった俺には知る由も無かったのだ。
「本当に仕事が全てでそれ以外は何も無かったのよ、奴は」
何一つ、本当に何一つ乗っていないその机を軽く叩きながら、まるでそれを呆れるかの様な表情を浮かべていた。
「それであんたは、良かったのか」

「良いのよ、だって俺様は死んじゃってたんだもの」



本格的に騎士団からユニオンへと住まいを移す為、部屋の引っ越しと称した片付けを行う事になった。元々碌な物を置いては居なかったけれど、あの人の死後、それに関連する書類等を回収されて、あの部屋には本当に何も残らなかった。
青年は複雑な顔をしていたけれど、それを笑い飛ばせる程、自分には分かり切っている事なのだ。
正にあれは幽霊の様だった、と我ながら思う。元か存在しない者は、結局跡形も無く消えてしまうのだろうか。
そう考えて、今の自分を顧みる。一体今の自分は、何者なのだろう。
自分も無様な只の亡霊に過ぎないのでは無いだろうか。

騎士団での部屋に比べ、まだ生活感があるこの部屋も、つい最近ユニオンと凛々の明星のメンバーからあてがわれたものだ。
こうやって腰を落ち着ける事が出来るなんて、一度死んだあの時以来、思っても見なかった。しかも、今の自分で、だ。
最初は実感が湧かなかったけれど、徐々に増えてくる雑貨類に、じわじわとそれは込み上げてくる。昔とはまた違う幸せを、実感した。

「でも本当に、それで良いのかね……、俺は」
幸せを感じれば感じるほど、背徳感もより増していく。所詮は虚像のこの身が、こんな幸福を味わっていいのか、と思わずには居られなかった。

「何がだよ、おっさん」

ぼそりと呟いた独り言に、唐突にぶっきらぼうな返事が返ってくる。部屋に向けていた視線をゆるゆると扉に向ければ、その先には笑う青年の顔があった。その目は決して笑っていなかったのだけれども。
「あら青年、早かったじゃない」
それに気付かない振りをして、何食わぬ顔で彼にへらりと笑いかける。無意識にやってしまうこの行為は、生来持ち合わせていた物だ。しかし彼はそういう事には敏感な様で、不機嫌な彼を更に不機嫌にしてしまったのは明白だった。

「街の奴らが手伝ってくれたんだよ」
「そりゃあ青年達、もう有名人だもの」
俺の引っ越しと同時に彼等のギルドの本部立ち上げも行っていた。本当は彼等が俺の引っ越しにばかり気を使っていた為に、そんな事よりも、と本部の立ち上げを強く推したからなのだけれど。結局はダングレストの端にあった古びた小屋を超格安で譲って貰ったらしい。
兎に角、ほっとけない病の集まりの彼等はそれ程に俺の事を気に掛けていた。それはとても嬉しい事には違い無かったのだけど。

「で、何が嫌なんだよ、おっさん」

その優しさが、少し辛かった。


「……、直球過ぎやしないかい、青年」
引きつる頬を無理矢理抑えながら、無様な笑みを浮かべれば、より冷えた瞳が無言で突き刺さってくる。その無言っていうのが余計に痛いのよ、なんて内心で軽口を叩いて見るけれど、冷や汗が背筋を流れるのは止められなかった。
「直球じゃねえとあんたは絶対誤魔化すだろ」
「やーだ青年、………分かってらっしゃる」
観念した様に背後のベッドに腰を下ろす。変にケチった安物のベッドはぎしりと音を立てて、軋んだ。
低くなった視線にそのまま彼を見上げれば、仁王立ちのまま微動だにせずに見下ろされる。見下ろされるのは、いつもと変わらないのだけれど。
「別に嫌な訳じゃないのよ?ただ何か身に余る、というか……」
「こんな安っぽい部屋のどこが身に余るんだよ」
言葉を濁しながらそう言えば、呆れた様に、しかしからかう様に嫌味が返ってくる。それはいつもの彼に違い無くて、その様に小さく苦笑しながら言葉を返した。
「……この部屋くれたの青年達でしょうよ。つーかそんな意味な訳無いでしょ、ただ俺様は」

「死人にこんな物必要無いってか」

静かに、しかし鋭く言い放たれたその台詞に、反射的にびくりと肩が震えてしまう。余りに直球なそれに、言葉が、出ない。
「……なぁ、いい加減その卑屈根性どうにかしろよ、おっさん」
「卑屈って……」
「そのままだろ、いつまでも自分を死人死人って言いやがって」
酷く怒りに滲んだ瞳が、ぎらぎらと見下ろしてくる。その迫力に息を飲むけれど、それ自体が俺を気に掛けての事だと分かっているからこそ、逃げる事は出来なかった。
ぎしり、とまたベッドが軋む。
いつの間にか縮んだ距離は、もう俺と青年を目と鼻の先にしていて、重く落とされた青年の拳が俺の横にあった。
「……何があんたをそうさせるんだよ」
俯いた先の表情は、その長い髪に隠されて覗く事は出来ない。けれど悲痛に零れたその呟きが、彼がどんな表情をしているのかを如実に示していた。
「青年、……ごめん」
「おっさん……」

「本当に、ごめんね」
その言葉が、その優しさを裏切る事になろうとも、俺は。

だって、あれはきっと、有害だから。






『その唇を閉ざさなければ、有害なモノを沢山撒き散らすから。』
結構長めの10のお題2より。
配布元:Abandon(http://haruka.saiin.net/~title/0/)




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2010'09.10.Fri

「おい、レイヴン」
不意に名を呼ばれて部屋唯一の扉に目を向ければ、がちゃりと音を立ててそれが開いた。何処と無く不機嫌な顔をした彼が、ゆっくりと部屋に入ってくる。
いつもならばこっちの様子をそれなりに伺うのに、珍しいなと思いながら生返事で応えた。
「……また、あっちに戻るのか」
荷が纏められて片付いた部屋の様子を眺めながら、確かめる様にそう呟く。予想していたとばかりのその様子に、なんだか申し訳なさで苦笑いが零れた。
「あらハリー……そうだねぇ、おっさんはゆっくりしたいんだけど、あちらさんがどうしてもって」
爽やかな顔に似合わず、あの人と同じ位人使いの荒い金髪の青年を思い浮かべながら苦々しくそう言えば、つまらなそうな返事が返って来た。
まぁ当然の反応だよな、と内心で納得しながら、扉の前で立ちっぱなしの彼を部屋の中へと手招きする。すると無言でそれに従って、部屋の備え付けの簡素な椅子に腰掛けた。
その素直な様子に小さく笑みが浮かぶ。それを誤魔化す様に、何気なく言葉を続けた。
「ハリーこそ、こんなとこ来て仕事は片付いたのかい?」
「まあな」
返されたのは素っ気ない一言だけ。前ならもう少し誇らしげにしていた筈なのに、とその変化に彼の成長を感じて、嬉しい反面少し寂しかった。子供の成長を見ている親の様な気分はこんな感じなのかもしれない。
「ふーん」
何だか少し悔しくて、対抗するように素っ気ない返事を返してみる。大人気ない、のは分かっている。
すると彼はそんな俺の様子を気にする事もなく、ただ静かに部屋を眺めていた。流石に少しは反応してくれないと、おっさん本気で悲しいんだけど。
「………やっぱり、お前はあっちの方が、騎士団の方が良いのか?」
俺の心情は露知らず、彼は彼で色々考えていたらしい。悔しそうな寂しそうな、けれど少し諦めた様な顔をして、そんな事を聞いてきた。
「え、何よいきなり」
そのあまりの真剣な様子に面食らって、そんな返事しか返せないでいると、彼も俺の様子に戸惑ったのか、語気が一気に弱まっていく。
「ごたついてるユニオンよりも帝国の方が、安心じゃないのか?……その、胸のやつとか」
顔色を確認しながら探り探り聞いてくるその様子に苦笑しながら、言葉が示すその場所を指差せば、彼が息を飲むのが分かった。
「……あぁ、これのこと聞いたのね、……別にそんなことは無いわよ、どっちもおんなじ」
そう言えば彼には何も告げていなかった筈。いつか言わなくてはと思っていたけれど、いつか、に縋って今に至っていた。きっと噂は耳に入っていたんだろう。良い意味でも悪い意味でも俺は有名に成り過ぎている。
結局、何処に行った所で安心出来る所なんて禄に無い。それだけは今も変わる事が無いのだと、半ば諦めている。
「……そうなのか」
そんな意図を汲んだのか、彼は少し驚いた様にそう呟いて、また黙り込んでしまう。俺では掛ける言葉が無い、と思い込んでいるのだろう。彼は昔から変わらずに優しいままだ。
「何、ハリー?もしかして心配してくれるの?」
「別に、そんなんじゃねえよ」
茶化す様に笑いながらそう言えば、彼は照れた様に顔を少し赤く染めて、けれど先程と同じ様に素っ気なく応えた。その様子にまた笑みが浮かんでしまう。
「またまた」
するとあからさまに不機嫌な顔をしてから、一息溜め息を吐いて、今度は自信有り気に言葉を続けた。
「どっちも変わんねえならどうせ戻ってくんだろ」
「んー保証は出来ないけど、きっとね」
きっと前と変わらずに根無し草になるんだろうなあ、と遠い所を見ながらそう呟く。その俺の様子を彼は眺めてから、本当に変わんねぇな、と笑っていた。
「なら前と同じだ、気にする必要もないんだろ」
「……それはそれでおっさん傷付くんだけど」
有無を言わせずにそう言われると、流石にちょっと悲しかった。業とらしく落ち込んだ様にそう言えば、まるで誰かを彷彿とさせる様に、豪快に笑う。
「ならプラマイ0だな、黙ってたことも含め」
「……、やっぱり気にしてたのね」
だから始終様子がおかしかったんだなと、いつも通りに戻った彼を見ながら思う。
俺の視線に気付いたのか、また照れた様に顔を背けた。
「とにかく、早く行って早く帰って来いよ」
「……あんがとね、ハリー」
その彼の一言に、なんだかとっても安心した。





『プラスマイナス0』
選択制お題より。
配布元:Abandon(http://haruka.saiin.net/~title/0/)





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