2009'06.18.Thu
水がざーざーと音を立てて流れ落ちる。夜も深い時間に個室の風呂場から聞こえてくるその音は不気味に響いていた。
不審に思ってその部屋への扉を叩くが、反応は無し。鍵はかかっていなかった。仕方無く様子を伺いながら中に入るが、誰かが居る気配は無い。電気の付いてない真っ暗な部屋の中で水音だけがただ響いている。
どうにか手探りで電気を付けて辺りを伺うが、やはり誰も居ない。未だ暗い風呂場から水音が止まる事は無く、意を決して風呂場の電気を付けた。
扉の曇りガラス越しに見えた人影。それは見知ったピンク色をしていた。ざーざーと流れる水がそれに当たっているのが見えて、嫌な予感に勢い良く扉を開ける。案の定今日この部屋を使っている筈の男が、服も着たままで水浸しのその中に居た。
「何やってるんだよ、ゼロスっ」
駆け寄って肩を思い切り掴めば、そこはとても冷え切っていた。そのあまりの冷たさに驚いて、直ぐ様彼をそこから引っ張り出す。流れ続けていた水を漸く止めるが、それは突き刺す様に冷たかった。
「……ロイド、なんで」
冷え切って血の気の無くなった白い顔で、それでも驚いた様に呟く。濡れて頬に張り付いた赤い髪からはまだ滴が落ちていた。震えの止まらない身体に、急いで近くからタオルを見つけ出して頭から被せた。
「それはこっちの台詞だ、……取り敢えず拭けよ、風邪引くだろ」
そう言いながら湿った髪をタオルの上から少し乱暴にかき回す。じわじわとタオルに吸い取られる水滴に安堵しながら、まだ少し冷えた身体を抱き締めた。
「ったく、驚かせるなよ」
タオル越しに少しでも温もりが移る様にしっかりと腕の中で彼を放さないで居れば、漸く動きを再開始めた彼が困った様に身じろいだ。それに気付いて腕の中から解放すれば、いつもの彼らしくない覇気のない声でぽつりぽつりと言葉を漏らし始めた。
「匂いが、消えないんだ」
どうにか聞き取れたのはその言葉だけで、けれどその意味は理解出来なかった。だって、水に濡れた彼から変な匂いなんて一切しない。それなのに彼は匂いが消えないと怯えている。何が何だかわからない。
「どうしたんだよゼロス、変な匂いなんて、」
「………、は、はは」
とりあえず落ち着かせようとそう言えば、一度きょとんと瞬きをしてから今度は声を上げて小さく笑い始める。その尋常じゃない様子に、寒気がした。
「お、おいゼロス……っ」
「そうだよな、ロイドには分かんないんだよな、俺には分かるのに」
そう呟く彼に何だか恐くなって、一層力を込めて再び抱き締めた。放したら彼がどこかに行ってしまうような、そんな気がした。
その俺の様子に、漸くいつもの調子が戻ってきたのか、さっきまでよりはいくらか明るい声で彼が苦笑いをしながら、囁く。
「なぁ、ロイド。俺様の髪の毛、血でべったりなの」
「……何を、」
「匂いが染み込んで取れないんだよ、なぁ、分かった?」
指先でその赤い髪を遊びながら可笑しそうにそう笑う。青白い顔で歪に笑う彼はまるで泣いているみたいだ。その様子に言葉が出ない。彼はこんなに弱かっただろうか。
「そんなこと、無い。そんなこと無いから、そんな悲しいこと言うなよ」
「………、」
力強くそう言って彼が貶す彼自身の髪に顔を埋める。やっぱりそこからは彼の匂いしかしなかった。血の匂いなんて、そんなものはしなかったんだ。
それに安心して、そのまま彼を抱き締める。
悲しげに歪んだその顔に気付くことは、無かった。
選択制お題より。
配布元:Abandon
10万打フリリクのロイゼロです。指定が無かったので好きな様に書かせてもらったらこんな話になってしまいました(苦笑
血の匂いって染み着いたら取れなそうですよね。赤いと特に分からなそう。
しのの様リクエストありがとうございました!
不審に思ってその部屋への扉を叩くが、反応は無し。鍵はかかっていなかった。仕方無く様子を伺いながら中に入るが、誰かが居る気配は無い。電気の付いてない真っ暗な部屋の中で水音だけがただ響いている。
どうにか手探りで電気を付けて辺りを伺うが、やはり誰も居ない。未だ暗い風呂場から水音が止まる事は無く、意を決して風呂場の電気を付けた。
扉の曇りガラス越しに見えた人影。それは見知ったピンク色をしていた。ざーざーと流れる水がそれに当たっているのが見えて、嫌な予感に勢い良く扉を開ける。案の定今日この部屋を使っている筈の男が、服も着たままで水浸しのその中に居た。
「何やってるんだよ、ゼロスっ」
駆け寄って肩を思い切り掴めば、そこはとても冷え切っていた。そのあまりの冷たさに驚いて、直ぐ様彼をそこから引っ張り出す。流れ続けていた水を漸く止めるが、それは突き刺す様に冷たかった。
「……ロイド、なんで」
冷え切って血の気の無くなった白い顔で、それでも驚いた様に呟く。濡れて頬に張り付いた赤い髪からはまだ滴が落ちていた。震えの止まらない身体に、急いで近くからタオルを見つけ出して頭から被せた。
「それはこっちの台詞だ、……取り敢えず拭けよ、風邪引くだろ」
そう言いながら湿った髪をタオルの上から少し乱暴にかき回す。じわじわとタオルに吸い取られる水滴に安堵しながら、まだ少し冷えた身体を抱き締めた。
「ったく、驚かせるなよ」
タオル越しに少しでも温もりが移る様にしっかりと腕の中で彼を放さないで居れば、漸く動きを再開始めた彼が困った様に身じろいだ。それに気付いて腕の中から解放すれば、いつもの彼らしくない覇気のない声でぽつりぽつりと言葉を漏らし始めた。
「匂いが、消えないんだ」
どうにか聞き取れたのはその言葉だけで、けれどその意味は理解出来なかった。だって、水に濡れた彼から変な匂いなんて一切しない。それなのに彼は匂いが消えないと怯えている。何が何だかわからない。
「どうしたんだよゼロス、変な匂いなんて、」
「………、は、はは」
とりあえず落ち着かせようとそう言えば、一度きょとんと瞬きをしてから今度は声を上げて小さく笑い始める。その尋常じゃない様子に、寒気がした。
「お、おいゼロス……っ」
「そうだよな、ロイドには分かんないんだよな、俺には分かるのに」
そう呟く彼に何だか恐くなって、一層力を込めて再び抱き締めた。放したら彼がどこかに行ってしまうような、そんな気がした。
その俺の様子に、漸くいつもの調子が戻ってきたのか、さっきまでよりはいくらか明るい声で彼が苦笑いをしながら、囁く。
「なぁ、ロイド。俺様の髪の毛、血でべったりなの」
「……何を、」
「匂いが染み込んで取れないんだよ、なぁ、分かった?」
指先でその赤い髪を遊びながら可笑しそうにそう笑う。青白い顔で歪に笑う彼はまるで泣いているみたいだ。その様子に言葉が出ない。彼はこんなに弱かっただろうか。
「そんなこと、無い。そんなこと無いから、そんな悲しいこと言うなよ」
「………、」
力強くそう言って彼が貶す彼自身の髪に顔を埋める。やっぱりそこからは彼の匂いしかしなかった。血の匂いなんて、そんなものはしなかったんだ。
それに安心して、そのまま彼を抱き締める。
悲しげに歪んだその顔に気付くことは、無かった。
選択制お題より。
配布元:Abandon
10万打フリリクのロイゼロです。指定が無かったので好きな様に書かせてもらったらこんな話になってしまいました(苦笑
血の匂いって染み着いたら取れなそうですよね。赤いと特に分からなそう。
しのの様リクエストありがとうございました!
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2009'06.15.Mon
19
約束していたというプレセアの解放を済ませ、あの閉ざされた研究室を後にする。宿に向かう足並みの中、彼だけは距離を取って歩いているのが目に入った。先程の会話の中で、彼が教皇と口にした際に微かに辛そうな顔をしたのを知っていたし、元々私はそれを咎める立場には無かった為、敢えて何も言いはしなかった。宿に着く頃には視界に彼の姿は無く、皆も特別気にしてはいないようで、ならばと深く考えもしていなかった。
朝になると、いつの間にか宿の食堂で皆と一緒に食事をしている彼の姿があった。
「朝帰りとは良い御身分なんですねぇ」
「んー、だって俺様本当に良いご身分だし」
含んだ様にそう言うも返されるのは軽口ばかりで、周りも呆れたように笑っていた。そう、これはいつもの光景なのだ。
彼の目に宿る影を周りは気付きもしないのだろう。
取り敢えずプレセアをオゼットに帰すということで、街の側に広がるガオラキアへと向かうことになった。それなりに準備をして何気なく街の出口に向かえば遠くに奴の姿が見えた。
「……、クラトスっ」
横目でロイドが声を荒げて叫んでいるのを眺めつつ、それでも仏頂面を変えない天使様を見る。何で今ここにいるんだ、彼からの話はもう済んでいるというのに。そんなにロイドが心配なのかよ。
そんな事を思いながら睨み付けるが、奴は一切それを無視してコレットに話しかけている。分かってはいるが、何だか虚しかった。
コレットとの問答の後、奴は何事もなかったかの様に立ち去る。ロイドがどこか寂しそうに奴を見ていて、俺はあんな風には成りたくないなと鼻で笑った。
あいつの訝しげな視線には気付きもしなかったけれど。
確かあの山の頂上で見たその天使は彼らの知り合いの様で、一通りの会話の後男は立ち去っていった。その時彼は珍しく寂しそうな表情を浮かべていたが、本人にその自覚があるのかは分からない。
しかしそれは、あの子が周りを見ながら浮かべていたあの表情に、似ていた。
久しぶりのゼロジェゼロです(苦笑
てかログだとジェゼロジェになってたんだ知らなかった(←
ジェイドのターン漸くです。でもやっぱりあまり進まないという。
この間遂に友人にいつゼロジェゼロになるんだと言われてしまいました(苦笑
私の中では十分絡んでると思うん…だ、よ?
拍手でこのシリーズを応援して下さった皆様方、本当にありがとうございます!
まだまだ時間は掛かりそうですが、呆れずお付き合い頂けたら幸いです。
2009'06.08.Mon
がんがんと叩かれる様な痛みに揺れる意識。地面を蹴る足元がふらつくのは必死で堪えるが、両手に構えた剣を振り上げる時には身体がぐらついてしまう。目の前の魔物がどこか遠くに感じられて、流石にやばいなと、熱にぼんやりと浮かされる意識で考えていた。
「虎牙連、斬……っ!」
みんなに感づかれる前に、早くこいつらを倒してしまおう。そう思って繰り出した技は更に頭をぐらぐらと揺らす羽目になってしまって、思わず着地点で膝を着いてしまう。早く立ち上がらないと。そう思っていても足は言う事を聞かず、そこから動く事が出来なかった。
魔物の雄叫びが随分と遠くに聞こえる。視界はぼやけていて何が何だか分からない。けれど危険だと言う事だけは分かっていた。どうにか顔だけでもそっちに向けようと頭を捻れば。
そこにはルカの顔が、あって。
「スパーダッ!!」
彼の動きが何だか今日はおかしいのには気付いていた。いつもなら素早い動きで技を連携していくのに、今日は何だか動作一つ一つに間があって、禄に連携も繋がっていなかった。どうしたんだろうと彼を見れば、辛そうに息を切らしていて、顔色がとても悪かった。更には技の後に膝を着いて動かなくなってしまう。
まさか、と思って彼の方に行こうとすれば、そのすぐ後ろで魔物が襲いかかろうとしていた。それでも彼が動く様子は無い。急いで近くまで駆け寄って勢い良くその魔物を斬り倒した。
倒れる魔物の横で彼は定まらない視線を泳がせていた。尋常じゃないその様子に名前を叫ぶけれど反応は無い。ゆっくりとこっちを向いたと思えば、そのまま身体が倒れ込んできて、とっさに剣を捨ててそれを支える。
抱き抱えた身体は、とても熱かった。
遠くで声が聞こえた。真っ暗な視界の中で聞こえたそれに促されるように瞼を上げれば、そこに見えたのは二つの人影。
銀色とピンクの頭が俺を見下ろしていた。
「スパーダ兄ちゃんッ」
「大丈夫、スパーダ?」
見つめてくる視線は心配そのもの。そう言えば俺は戦闘で体調が悪くて、それで。
「スパーダ、戦闘中に倒れたんだよ?覚えてない?」
そうだ。目の前の、このルカの顔を見てからの記憶は無い。言っている事と合わせて考えても、俺はみんなの前で倒れたんだろう。
「あー…わりぃな、迷惑かけてよ」
「そんな事思ってないよ、大事にならなかったし、良かった……」
「うち、みんなに起きたって知らせてくるでっ」
ばたばたと慌ただしく部屋を後にする足音を聞きながら、さっきから真っ直ぐ見つめてくる翡翠の瞳と目が合う。やけに鋭い視線が突き刺さってきて、そのらしくない様子に戸惑った。
「おい、ルカ……お前、もしかして」
「怒ってないよ。何も言ってくれなかった事を怒ってたりはしないから」
そう言う声色は変に優しくて、いや確実に怒ってるだろ、と心の中で呟く。口にはしない、と言うか出来ない。その分、心配してくれた事もよく分かっていたから。
「とにかく、今は安静にして熱を下げないとね、ただの風邪だって甘く見てると危険だよ」
そう冷静に症状を判断する様子はまさに医者の様で、そう言えばこいつは医者志望だっけかとぼんやり考える。なよなよしてるようで実はしっかりしてるんだよな。そんな風に思いながらルカの方を向けば。
目の前に、その翡翠の瞳があって。
こつん。
「熱は上がって無い、ね。なんかぼーっとしてたけど、大丈夫?辛いならまた横になった方が……スパーダ?」
「………、っ」
軽く音を立てて触れた額が、そう言って直ぐに離れていく。心配そうに見つめてくる瞳に、顔が熱くなった。
不意の出来事に、心臓の音がやけに煩く響く。それに更に戸惑って、動く事も出来なかった。
「みんな呼んできたでー……ってどないしたん?」
「ちょっと、顔赤いわよスパーダ。あんた大丈夫なの?」
出て行く時と同じ音で、けれど増えた足音が部屋の前まで響いてくる。扉が開くと同時に聞こえてきたのはその台詞。それを聞いた瞬間、固まっていた身体がびくっと震えて我に返る。そのまま隠れる様に毛布を被って背を向けた。
「だめよ二人共、病人の前では静かにしなきゃ。でもスパーダ君の目が覚めて、本当に良かったね」
「ベルフォルマもミルダに感謝するんだな」
背を向けた俺に聞かせる様に言われたその台詞に、何の事だと頭を捻る。毛布を被ったまま続きの言葉を待てば、淡々と続けられたその台詞に、また顔が熱くなった。
「お前が起きるまでミルダはずっと付きっきりだったのだからな」
「僕の事は良いんだ、僕に出来るのはこれくらいだし」
毛布越しに聞こえた照れた様な台詞に、尚更、毛布から出る事は出来なかった。
選択制お題より。
配布元:Abandon
10万打リクエストのルカスパです。定番の風邪ネタですが結構書いてて楽しかったです(笑
リクエスト反映出来てるか不安ですが、どうでしょう。
sawori様リクエストありがとうございました!
2009'05.28.Thu
かつかつ、と響く音は聞き慣れた、けれど久しい音だった。その重さは動くには億劫なものだったけれど、今はそれが酷く心地よかった。それはまるで自分をこの地に縛り付けているかの様で。
「シュヴァーン」
貴方の望む私で、再び最期を迎える事が出来るのだから。
薄暗い祭壇の前に立つ赤い影。横には力無くうなだれた姫を添えて、祀られた像を見つめていた。
「ご苦労だったな」
私の足音に気付いたのか、ゆっくりと振り返りそう言う。それに促される様に姫の視線も私に向けられる。驚いた様に顔を歪めて、小さく俺の名を呼んだ。
「勿体無いお言葉です、アレクセイ様」
つきり、と胸に痛みが走る。それに気付かない振りをして、真っ赤な瞳を見つめたまま、彼の前に跪いた。
彼は冷たい薄笑いを浮かべて、私を見下ろす。その突き刺す様な視線に身震いした。
「姫のお陰で漸く鍵も完成したのだ」
そんな私の様子に気付いている筈なのに、何事も無い様に彼は言葉を続ける。いつもよりも饒舌な彼に、あぁ本気で喜んでいるんだな、と分かった。珍しく口元も歪んでいるのがその証拠。
「おめでとうございます」
それを形式ばった言葉で祝福すれば、彼はその歪んだ口元のまま、立て、と一言。近くなる赤い眼に呑まれそうだ。
「そう思うなら態度で示せ、シュヴァーン。使える道具として私の役に立って見せろ」
耳に触れるかという距離まで唇を近付けて、彼は言う。想像していた、いや覚悟していたその言葉に、私が応えたのはたった一言。御意、と、そう応えれば、彼は楽しそうに顔を歪めた。
しかしそれも一瞬。直ぐに興味を無くした様に背を向けて、先程まで眺めていた祭壇に視線を注ぐ。方陣の中の姫はいつの間にか気絶していた。無理もない、極度の恐怖と絶望に晒されたのだ。優しい姫には絶えられなかったのだろう。
そんな彼女を彼は気にすることも無く、祭壇の階段をゆっくりと登っていく。その先に居るのは先程捕らえたばかりの始祖の隷属。睨み付けてくるそれを鼻で笑いながら一瞥する。高らかに笑いながら身を翻した彼と目が合った。
「まだ居たのか、シュヴァーン」
その一言は驚きよりも呆れを含んでいて、何だか泣きたくなった。何で、泣きたいのだろう。彼からの言葉で悲しくなる、なんて。死ぬのが怖い訳では、ないのだ。だって元より死んだ身。今更死に恐怖など。ならば何故、私は。
「お前らしくないな、早く行動に移したまえ」
赤い目が冷たく見つめてくる。そうだ、私は彼に、最期に言いたい事があって。
「アレクセイ様、先逝く事を心よりお詫び申し上げます。貴方を置いて逝く私を、許して下さい」
アレクセイ、と消える様に呟いて、そこを後にした。最期に見た赤い目は、ここ10年間見ていたものと変わりなかった。
じわじわと熱くなる目の奥に、誤魔化す様に何度も瞬いた。最期の最期に、暖かい彼の視線を期待していた自分が惨めで仕方なかった。そんなもの、ある筈無いのに。
結局、死ぬ時はいつも独りだ。
それでも、私が居なくなったらあの人が正気に戻るのでは無いかと、淡い期待を未だ抱いて、剣を握った。
選択制お題より。
配布元:Abandon
10万打フリリクのアレシュヴァです。
あの台詞を言わせたくて試行錯誤したらなんかあんまり纏まらない話になってしまいました(苦笑
桐君主様、リクエストありがとうごさいました!
2009'05.13.Wed
きらきらと光を反射して輝く水面、止まることなく流れる水は街全体に行き渡り、人々の生活を潤している。それは街の中心である宮殿も同じ事。青く染まる宮殿に流れ落ちる滝は、その空間を一層華やかでありながら威厳の満ちた空間に変えていた。
それなのに、その宮殿の主と来たら。
「陛下、いい加減にして下さい」
「入ってきたと思えば、いきなり何だ、ジェイド」
「……何だ、ではありませんよ、全く」
扉を開けた瞬間臭ってくる家畜臭。最早慣れた筈のそれは、目の前のこの男がペットだとする生き物の臭いだ。いつもならばどうにか我慢出来る程度のそれが、何故か今日は酷く鼻に付いた。見れば、前回見た時よりも確実に頭数が増えている。
その中に埋もれる様に座っていた彼は全く悪びれる様子も無く、その家畜達とじゃれ合っていた。
「これ以上増やしてどうするんですか、ここは家畜小屋では無いんですよ」
「俺の可愛いこいつらを家畜呼ばわりするな、それにペットを増やして何が悪い」
「悪い、ですよ。こんなに散らかした部屋では他に示しが付かないでしょう」
「ここに入ってくる奴など限られているだろう?その中で口煩く言ってくるのはお前ぐらいだ」
呆れながら咎めるもまるで効果は無く、彼は軽く笑いながら流していく。いや、分かっていたのだ。彼が簡単に自分の言葉を聞きはしないと。しかし彼に直接小言を言う人間も、彼が言った様に、自分位しか居ない訳で。
「そーですね、他の者は恐れ多くて進言出来ないのではないかと。マルクト九世へ・い・か」
そう嫌みを込めて言い放てば、彼は顔を嫌そうに顰めてから再度家畜達を見る。そこで何かを思い付いたのか、ふと笑みを浮かべて一匹のブウサギを抱きかかえた。
「お前の瞳は無垢で可愛いのに、何で可愛くない方のジェイドはあんなに怖いんだろうなぁ」
抱きかかえられたブウサギは訳が分からないといった様にされるが儘、その目を更にくりくりとさせて彼と見つめ合う。
それに彼は笑い返して、俺の可愛いジェイド、と機嫌良く言った。
「悪かったですねぇ、怖くて」
「何だ可愛くない方のジェイド。可愛いジェイドに嫉妬か」
「馬鹿な事言わないで下さい」
振り向き際に見せた顔は悪戯の成功した子供の様に満足げに笑っていて、その見慣れた顔に溜め息が零れた。
何度繰り返したか分からないこのやり取りに、よく飽きないものだと半ば感嘆にも似た感想まで浮かんでしまう始末。
「何だ、つまらんな」
「面白くするつもりなんて有りませんから」
そう言い返せば、つまらなさそうに抱きかかえていたブウサギを下ろして床に放す。いきなり自由になったそれは、少し彼を見つめてから、またゆっくりと動き出し仲間の中へと帰っていった。
「それにしても今更何だ、あいつらの事はお前も認めていただろう」
「渋々です。それにいくら何でも臭いが酷いですよ。全く、私が居ない間に一体何頭増やしたんですか」
「何頭って……この間生まれた子供一匹だけだが?」
「は…?冗談も程ほどに、」
「お前こそ何を言っているんだ?この部屋のブウサギ達を見れば数位わかるだろう」
首を傾げながら答える彼の姿に、一瞬訳が分からなくなる。直後思考を巡らせると己の誤りに嫌でも気付いた。自分としたことが何という早とちりをしたものだ。
「………半年振り、でしたね。そう言えば」
溜め息混じりにそう呟けば彼も気付いたようで、一転して馬鹿にした様な笑みを浮かべる。その姿に頭が痛くなる様な気さえした。
「何だジェイド、まさか半年離れている間に俺の部屋の匂いを忘れたのか?」
「煩いですよ」
「図星だな。しかしまぁそれであいつらが増えたと怒るとは、お前も可愛い奴だよな」
そう言いながらにやにやと浮かべられる笑みに、居た堪れ無くなり彼に背を向ける。扉に差し掛かる所で呼び止められ、渋々顔を向けた。
「何だったら今日の夜辺りにまた来て、匂いを覚えて帰っても良いぞ?」
「遠慮、させて頂きますよ。折角抜けた臭いがまた服に付くのは勘弁したいので」
「そうか?そりゃ残念だ」
そう笑う彼の声を背にしながら、足早にそのまま部屋を後にする。微かに熱くなっている顔には気付かない振りをした。
「全く、本当に可愛い奴だよ、お前は。なぁ、そうだよなぁジェイド」
プギ、と返ってきた小さな返事に、その部屋の主は同じ様に小さく笑った。
選択制お題より。
配布元:Abandon
リクエストのほのぼのピオジェです。
定番のブウサギネタでした。途中までなんかジェピっぽくなってしまいましたが、ほのぼのピオジェになっていますかね(苦笑
匿名様リクエストありがとうございました!
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