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日記兼短文落書置場..........。

日記だったり短文や絵を載せたり等々何でも賄えなノリで。

2025'05.10.Sat
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2009'03.21.Sat
そう、それは最初から。
きらきらと輝く銀色を後ろから見下ろす度に、それに触れたいと思っていた。記憶の奥底に眠っていたその感情は既視感と共に呼び起こされ、目の前の銀色がまさにその本人、というか生まれ変わりだけれど、のものだと知れば余計にその思いは募るばかり。
今なら触れられるのだ、この手で、この指先で。
あの頃とは違い短くなって居るけれど、さらさらと流れるそれはとても手触りが良いことだろう。見上げる立場から見下ろす立場になってそれに触れられる機会は沢山あるというのに、何故か触れてはいけない気がして伸ばした腕は空を切る。もどかしい。腕が降りるのを見計らうかの様に振り返るものだから、また腕を持ち上げて何でもねぇよと振らなければならない。前を向き直すその時にふわりと銀色が揺れた。


「綺麗だよね、スパーダの髪」
細い指が俺の髪をゆっくり梳いて降りる。それは毎日大剣を振りかざしているとは思えないほど綺麗な指で、俺の髪は流れる様に滑り落ちる。息が掛かるのか肌で感じられるほど近い距離。ぎしりと音を立てながらベッドの上に乗り上げてくる銀色に息を飲む。普通なら見せない様な意地悪い表情を浮かべながらシーツに押し付けられた。自ずと見上げる姿勢になってしまい、仕方なく顔を上げれば触れてしまいそうな程近くに銀色の髪が揺れていて、その中で更に揺れる銀色の睫に見惚れてしまう。
「お、おい……ルカ、」
「あの刃もとても綺麗だと思ってたけど、こっちの方がもっと綺麗」
そう言って俺の髪に口付けるその仕草にざわざわと背筋が粟立つ。その際さらさらと銀色が頬を撫でて、その余りの気持ち良さに、思わず瞼を強く閉じた。
彼の髪は思っていた以上にさらさらで柔らかくて、その上彼独特の甘い匂いに興奮してしまった。けれど、足りない。もっと直に触れてみたい。ゆっくりと瞼を開けてシーツの上をさ迷っていた指先を目の前に伸ばす。さらさらと揺れていた前髪を一房、きゅっと摘んだ。
「……スパーダ、」
「へ、……あ、いや、何でも、ねぇ…」
すると目の前の顔が不思議そうにきょとんとしていて、瞬時に我に返って手を離す。空を切る腕が、何だか寂しかった。
「え、何で離しちゃうの……、可愛かったのにさっきのスパーダ」
「いやいやさっきのは気の迷いっつーかなんつーか……って、え…」
「可愛かったよ、物欲しそうにしてて、とっても」
ぐるぐる回る思考の合間に聞こえてきた可愛いという言葉。それを理解するのに時間を要していれば、にっこりと彼が笑いながら同じ言葉を繰り返す。そこに続けられた言葉に一気に顔が熱くなった。
「僕も欲しくなっちゃった」
その台詞とほぼ同時に聞こえてきた、ぴちゃりと言う音。それが彼の舌による音だと理解する前に、気が付けば咥内に舌が侵入していた。
「ん、ふ……、ぁ」
「……可愛い、スパーダ」
息苦しさに彼の胸を叩けば名残惜しそうに離れていく唇。そこは唾液に塗れていて。それをぺろりと舐める彼に、胸が煩い程高鳴った。
「な、な、何して」
「今はここまで、ね。今度は逃がさないから、覚悟してて」
そう言ってにっこりと笑う彼に、また胸が高鳴って。込み上げてくる恥ずかしさに紛れた、悲しみ。

何故だかとても泣きたい気分だった。




選択制お題より。
配布元:Abandon




久しぶりのルカスパです。マイソロ2をやってたら何だか二人を書きたくなりました。でも本編設定ですけど。
ただいちゃいちゃしてるようにしか見えない二人です(笑
つかスパーダが乙女過ぎるような。今更ですが、男前ルカ君が大好きです。でも可愛い連呼し過ぎだ(笑

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2009'03.17.Tue
ちゅんちゅんと鳴く鳥の声が分厚い毛布越しに小さく聞こえる。それは朝の訪れを如実に伝えているけれど、ぬくぬくとしたここから抜け出る気力はまだ湧かない。
どうせどうにか這い出した所で自分の早い起床を喜ぶものなど居やしないのだ。ならば時間の余す限り惰眠を貪っても良いだろう。そう毎朝同じ様に繰り返される結論。また同じ様に毛布を引き寄せて瞼を閉じた。


「いい加減早く起きて下さいよー…遅刻しますってば」

うつらうつらとした意識の中、聞き慣れた声が小さく聞こえる。日課となったその声に、もうそんな時間かと毛布の中でそう思った。だがそれでもこのぬくぬくとした空間の誘惑には勝てないのだ。もう少し寝ていても、

「起きろって言ってんでしょーが」

勢い良く毛布が剥かれ、朝の冷たい空気が肌を刺す。隔てるものが無くなった声が、覚醒仕切ってない頭にがんがん響いた。重い瞼を少し上げて目の前の顔を見れば、可愛い顔を歪めて自分を睨んでいた。
「………寒いぞ、シュヴァーン」
「寒いぞ、じゃないですよ大将。今何時だと思ってるんですか。10時ですよ、朝とかそんな時間じゃないですから」
そう騒ぎながらも着々と準備を進めてくれる彼に笑みが浮かぶ。こんな事を言いながらもいつもいつも同じ様に訪れるのだから本当に愛しい。
「私は愛されているのだな」
そう言えばその顔を真っ赤にさせて焦った様に叫んで、

「……何馬鹿な事言ってるんですか、あなたが遅刻したら俺を含めた部下が被害を被るんです。そうじゃなければ、わざわざこんな部屋まで来ませんから」

照れる姿が見れることは無かった。
実際は冷たい目が自分を突き刺す様に見ているだけだった。あんまりな現実にがっくりと肩を落としながら、準備された服に腕を通していく。遠くから早く、と急かす視線がとても痛い。
「大体大将が俺にしか鍵を渡さないからいけないんですよ」

ぼそりと呟かれた言葉に彼の方を見れば先程と同じ視線のままで。思わず動きを止めてしまった自分に呆れた様に溜め息を吐いていた。自然と笑みが零れる。
「やはり、私は愛されているな」
「だから無駄な事言ってないで早く着替えて下さい。訓練は10時半からなの、分かってるでしょう」
「……ああ、分かっているよ」


漸く着替えを済ませ、律儀に扉の前に立っていた彼の元へと向かう。目の前に立てば、身長差から見上げてくる彼に一層笑みが浮かんだ。
「待たせたな」
「全くですよ。訓練の指揮者が寝坊で遅刻とか、本当に部下に示しが付きませんから」
「偶にはお前が指揮をしてみるのも良いと思うが」
「起きるのが億劫だからって押し付けるのは止めて下さい」
「そんなつもりは無いのだがな」
会話もほどほどに廊下を足早に進みながら訓練所に向かう。時計を見ればあと5分程で開始の時間。今日も時間ぴったりの登場になりそうだ。



「諸君、既に全員揃っているな。では訓練を開始する」





先程までの寝坊助な様子はどこに行ったのか、堂々とした様子で指揮を行う彼を背後から眺めていた。その的確な指揮は自分には到底真似は出来そうにもない。

(やっぱりあんたじゃなきゃ駄目なんだよ、アレクセイ)




ということで朝弱いアレクセイとそれを起こすおかんみたいなシュヴァでした。
何だか近頃私、なシュヴァを書いてない気がするけれど、実際本当のシュヴァはこんな感じだと思うの。
作品としては私、なシュヴァーンと俺、なレイヴンのギャップを楽しみたいんだけどね(苦笑

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2009'03.13.Fri
会話文多め。





それは一時の休息。
疲れた身体を癒やす為、一行は宿の部屋でそれぞれ好きな様に休んでいた。

久しぶりの柔らかいベッドに横になってぐっすり昼寝をしていたり、黙々と分厚い本を読んでいたり。
柔らかい日差しが差し込む窓際でお茶を楽しんでいたり、はたまた休みの筈なのに中庭で剣の鍛錬をしていたり。
昼間から備え付けの小さなバスタブにお湯を張り身体を癒していたり、宿の扉の前で他の者の為に静かに警戒を怠らなかったり。

そんな一時の休息。
明日からはまた旅の中だからこそ、やりたい事を好きな様に行っていた。何気なく流れていく時間。ゆっくり出来るのも少しだけ。
そんな、それぞれの時間の中に入り込んできた甘く香ばしい匂い。それはすぐに小さな宿に行き渡った。

それは眠りの淵から意識を呼び戻し、文字を追っていた視線を一瞬さ迷わせ。
それは口に添えていたカップを下ろさせ、汗だくになっていた額を拭わせ。
それは濡れて湿った髪を乾かさせ、地面に付いていた鼻を上げさせた。


かちゃりと食器の擦れる音の後、ゆっくりとした足音と共に現れた桃色の髪。ふわりと揺れるその中にある二つの目は興味津々と輝いていた。
「レイヴン、何作ってるんです」
「あら嬢ちゃん、覗き見かしら」
「そんなんじゃ無いです、甘い匂いがしたから気になって」
「これよ、一個食べてみるかい」
「あ、クッキー……、ぜひ頂きます」
手渡された小さなそれを口に運ぶ。さくり、と音を立てた。そのまま黙々と咀嚼して、手からそれが消えていく。
「……どうかな」
「美味しいです、やっぱりレイヴンはお菓子作りが上手ですね」
「そう、照れるわね」
「でもどうしてクッキー作りなんて」
「んー……何となくかね、クレープは飽きたし、これならみんな好きでしょ」
「確かに私クッキー好きです、あ、これもっともらって良いです、お茶菓子にしたくて」
「もちろん、こっから奥のは熱くないから、好きなの持っていって良いわよ」
「ありがとうございます、レイヴン」


「ねー……この匂い、あ、やっぱりクッキーだっ、エステルが作ったの」
がちゃりと音を立てて開けられた扉から入ってきたのは、寝癖が付いたままの髪に寝ぼけ眼の幼き首領。鼻をくんくんさせながらテーブルの上にあったクッキーを見るや目を輝かせて駆け寄る。
「違いますよ、レイヴンです」
「おやー少年も匂いにつられてきちゃったの」
「あ、ほんとだ、部屋にいないと思ったらこっちにいたんだね」
「ちょっと待ってね、まだ少年の分は焼けてないのよ」
「え、良いの」
「べーつにー…食べたくないならあげないわよ」
「食べたい、食べたいから僕の分も焼いてよ」
「カロル、良かったらこっちのどうです、あとお茶も」
「え、やったーありがとうエステル」
「どう致しまして」


「なんか楽しそうだな」
黒い髪を翻しながら身軽な格好をした甘い物好きが、にこにこと顔を緩ませながら食堂に入ってくる。和やかにお茶をしている二人を眺めてから台所に向かった。
「やっぱりおっさんだったか」
「青年やっと来たのねぇ、甘党のおたくならもっと早く来るかと思ったんだけど」
「一汗かいてきたからな、これでも早く来たつもりだぜ」
「……ほんと若い子は元気ね、はい、これ少年の分、持っていってあげて」
「……俺の分はねぇのかよ」
「あるから拗ねないでよ、はいこれ青年の、特に甘めにしておいたわ」
「分かってるな、おっさん、サンキュ」
「はいはい、ほら邪魔だからあっち行っててよ」
「……追い出されちまった、ほらカロル、お前の分だとよ」
「ありがと、ユーリ」
「ユーリ、そっちの大盛のは……」
「ああ、俺のだってさ」
「愛されてますね」
「まあな」


「あら、随分と楽しそうね」
それから少し後に入ってきたのは、珍しく下ろされた青い髪。お似合いの浴衣を纏って微笑んでいる。
「お、ジュディ、なんか珍しいな」
「お風呂入ってたんです」
「えぇ、気持ち良かったわよ、明るい内のお風呂も」
そう笑いながら沢山のクッキーが置かれたテーブルの椅子に腰掛ける。タイミングを見計らったかの様に奥から登場する新たなクッキーと、その作者。
「あらージュディスちゃん、そうしてるとまたイメージ違うわね、かわいいわよ」
「あらおじさま、ありがとう、でもクッキー作ってるおじさまの方がかわいいわ」
「確かにな」
「そうですね」
「……それは流石に嬉しくないわ」
「でもなんか似合ってるよね、レイヴン」
「そうですね、パティシエみたいです」
「パティ…なんだそれ」
「お菓子専門の料理人だよね、確かそういう人達のギルドもあった気がするよ」
「あら、美味しいわね、このクッキー」
「……マイペースだな、ジュディ」


とす、と狭くなったテーブルの隙間に置かれた一枚の皿。上には例の如くクッキーが置かれている。
「さ、これで最後よ」
「これ、レイヴンの分です」
「違うわよ、これはリタっちの、おっさんは少しつまんだし、もう十分」
「ま、おっさん甘いの苦手だもんな」
「そう言えば、リタ来ないね」
「そうですね、気付いてないんでしょうか」
「あの子の事だもの、気付いていても来ないんじゃないかしら」
「そんな事で本を読む手が止められるわけ無いじゃない、とか言ってそうだよね」
「ま、俺様も予想してたし、後で残り部屋に持って行くから食べたいなら食べちゃって良いわよ」
「え、やった…」
「ちょっと勝手なこと言ってんじゃないわよ」
バン、と勢い良く扉が開いたかと思えばずかずかとテーブルに近付いて来たのは先程まで話の中心になっていた人物。不機嫌に顔を顰めながら唯一空いていた椅子に腰掛ける。目の前にはまだ焼き上がって間もないクッキー。それに手を伸ばして、口にする。
「……悪くないんじゃない」
「ま、リタっちならそう言うと思ったわよ」
「リタらしいわね」
「十分美味しいと思うんですけど……」
「エステル…そうじゃないから」
「満更じゃないんだろ」
「う、うるさいわね、あんなに匂いがプンプンしてるから、本に集中出来なかったのよ」
「それは理由になってないって……あだっ」
「いちいち、うるさいのよ」



日も落ちて肌寒くなった頃、扉がゆっくり開いて部屋の光が外に漏れる。そこに映る影が近付いてきて目の前で止まった。漸く伏せていた視線を上げる。
「今日もありがとね、わんこ」
「……ワフ」
「はいこれ、残り物でごめんねぇ」
「ワンッ」
「ふふ、これからも宜しく頼むわよ、わんこ」





一時の休息は終わりを告げて、また慌ただしい日々が始まる。だからこそ。
(たまには、こんな日も良いわよね)





選択制お題より。
配布元:Abandon






ホワイトデーということで、ほのぼのでユリレイ風味でラピレイ落ちという。
ほのぼの感を出したくて会話文を多くしたから無駄に長い(苦笑
誰が誰だかは推測でお願いします。

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2009'03.10.Tue
がしゃん、と音を立てて倒れた花瓶からは水が溢れ、そこに生けられていた筈の花達は無惨にも床に散らばっている。
それをそうさせた張本人は、痛みを訴える右手を反対の手で抑えながら、興奮からか頬を赤く染めて茫然としていた。
焦ったお付きの女性達が素早い動きで彼女の身体を気遣っていたが、その言葉が彼女の耳に届いている様子は無い。
ただ茫然と自分を眺める二つの目からじわじわと涙が溢れてくる。ついには声を上げて泣き出した幼子を前に、内心で溜め息を吐く事しか出来なかった。





「皇族の護衛……の任務ですか」
自分が訪れるのはとても稀な親衛隊の執務室。そこで目の前に突きつけられた書類にはそんな旨が書かれていた。それをまじまじと眺めて最初に思ったのは、何故自分が、という事だけだった。これがもし親衛隊の人間ならば当然の任務であっただろうし、貴族の者ならばさぞや名が売れると喜んだ事だろう(これは偏見かもしれないが)。しかし自分はつい最近小隊長の任を頂いたばかりの身、ましてや平民なのだ。自分を卑下するつもりは無いが、事実この世界は未だ平民に冷たい。
「貴殿くらいしか適任者が居ないのだよ」
自分の思うところが伝わっていたのだろう。上官は面倒くさそうに顔を顰めながらそう言って書類の一部分をとんとんと叩いた。そこに目を向けると書かれていたのはある人名。
エステリーゼ・シデス・ヒュラッセイン。
現皇帝の遠縁に当たるという少女の名だ。この名は自分でも知っている程、騎士団内では有名だった。
遠縁でありながら議会に次期候補として目を付けられているまだ5歳になるかという幼子。現皇帝が病に伏せっているのは騎士団議会共に周知の事実であった為、次期候補推挙に異論を言う者は居なかったが、何故こんな少女を、と疑問視する声が騎士団には多かった。噂では慣例を無視して別の候補を挙げようとしているとまで言われている。
つまりは騎士団からは腫れ物の様に避けられている人物なのだ。親衛隊も貴族の者もどう動けば良いか分からず、かといって皇族である以上護衛を付けない訳にもいかない為、困り果てて居たのだろう。
(厄介事は平民に、とでも思ったのだろうな、きっと)
平民で上位階級職の者はそう多くはない、ましてや自分は新参者。動かしやすかったというのが本音だろう。思わず零れてしまいそうになる溜め息をどうにか抑え込み、極力感情を出さない様に努めた。
「了解致しました、アレクセイ隊小隊長シュヴァーン・オルトレイン。エステリーゼ姫の護衛の任、全力で全う致します」
堅い挨拶と共に深々と礼をして執務室を後にした。去り際に汚い物を見る様な視線が突き刺さる。騎士団の平民差別にはいい加減辟易してくるが、これ位は我慢しなければ。折角のあの方の御厚意を無駄する訳にはいかない。
そう頭を切り換えて渡された書類を改めて読み直した。



「わたしはごえいなんていりませんっ」
部屋に入って挨拶を済ませた後の第一声は、そんな台詞だった。舌っ足らずな声でそう叫んで、目の前に伸ばした自分の手をぱしんと弾く。わかっていたけれど、これは面倒くさそうだ。そっぽを向いてしまった彼女をまじまじと眺めれば、それは確かに只の少女の顔でしかない。けれどそれだけでは済まないのが大人の世界だ。巻き込まれてしまっただけの彼女には申し訳ないが、こっちも任務なのだ。
「そういう訳には参りません、私は姫をお護りするよう言い遣っているのです」
そう言って彼女の視界に入り込めば怯えた様な目をして自分を見つめてくる。心なしかそれは潤んでいるようにさえ見える。泣きたいのはこっちなんだけど。そう心の中で呟いて、けれど極力優しい顔をして再び彼女の前に手を差し出す。
また弾き返されれば、本意ではないけれど無理にでも護衛してしまおう。そう考えていれば、案の定、今度はより強い力でばしんと弾かれてしまう。しかもその衝撃でテーブルに置かれていた花瓶が音を立てて倒れる。遂には泣き出してしまった少女を冷めた思考で眺めていれば、彼女は涙混じりの弱々しい声で呟いた。
「きしさまはみんなうそつきです」
誰も外の世界を見せてくれない、とそう言う少女の姿は痛々しいもので、それまでの冷めた思考はどこに行ったのか、その時沸々と浮かんできたのは怒りだった。こんな少女がこんな理由で泣かなければならない帝国に対しての、純粋な怒りだった。やはりあの方の言う様に、この国は変えていかなければならない。少なくとも、この少女の姿は正しいとは思えなかった。
そう思うのと体を動かしたのはほぼ同時だった。それまで畏まった姿勢のままだったのに、まるで地元の子供を宥める時のように膝立ちで視線を合わせる。自然と浮かんだ表情のまま彼女に語り掛けた。
「俺が貴女に、外の世界を教えてあげますから」
そう言えば彼女はきょとんと大きな目を更に大きくさせて、一瞬動かなくなる。流石に馴れ馴れし過ぎたか、と不安になるが、少しして小さな笑い声が聞こえてきた。その年相応の声に安堵していれば、小さな手が自分に向かって伸びてくる。きゅっと弱い力で握られる自分の手のひら。少し高めの体温が暖かく感じて心地良かった。
「たくさんおしえてくれますか」
「勿論です、姫」
「では、よろしくおねがいします、シュヴァーン」
にっこり笑う彼女の顔はその辺に居る少女達と何ら変わらない、普通の少女のものだった。



選択制お題より。
配布元:Abandon



護衛ネタでシュヴァとエステルの出会い。
攻略本片手に調べつつ書きました。護衛させる為に無理矢理理由つけた感じですが(苦笑
シュヴァがアレクセイ隊所属なのは他に当てはまるような隊が無かったからだったりします。なんとか隊小隊長ってどうしても言わせたかった。

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2009'02.23.Mon

ユーリの鋭い一撃に倒れる奴の心臓には見慣れた魔導器が蠢いていて、それを見た瞬間、足元が崩れていく様な気がした。彼が生き返らせたのは俺だけでは無かったのだ、と浮かんだのは場違いなそんな感情だった。また、ざわざわと胸の魔導器が嫌な音を立てる。それを誤魔化す様に、無理に立ち上がる奴に向かって矢を放ち続けた。
「何で、だよ」
奴は、あの戦争を生き残り、それでいてあのギルドという道を選んだのだと思っていた。俺とは違う道を、選んだのだと思っていたのに。
「ミーもユーとセイムと言うことですヨ」
手元の矢を全て使い果たし、仕方なく持ち変えた変形弓で奴の元へと走る。振り下ろした剣が奴の大鎌長銃に当たり、嫌な金属音が大きく響いた。その音に紛れる様に呟かれたその台詞に、驚きを隠せなかった。
「何、を」
「おっさんっ」
青年の叫ぶ声に我に返れば、奴の構えた長銃の先が俺に向いていて、目の前で閃光が弾けた。体に衝撃が走る。けれど思いの外痛みは感じずに済んだようで、咄嗟に閉じてしまった眼を開く。
目の前では黒い塊がうずくまっていた。

「……ッ、ユーリっ」

名を呼んでも反応は無い。その様に血の気が引く様な気さえしたが、無情にも奴の腕の動きは止まる事は無く、駆け寄る事など出来はしない。嬢ちゃんの回復術の詠唱が聞こえて、意識を目の前の奴に集中する。後悔は今するべきでは、無い。
「余所見するからですヨ」
軽口と共に振り降ろされた大鎌を寸での所で避けて、強く握り締めた短剣を振り上げる。それは顔に一筋の傷を付けるに過ぎなかったが、その時出来た隙を逃しはしない。
左手の変形弓で手薄となった脇腹目掛けて斬り付けた。
「……、ぐッ……」
瞬間浮かぶ苦悶の表情。鈍った動きに更に大きく斬り付ければ、血を噴き出して膝を着いた。
裂けた服の隙間から魔導器が妖しく輝いている。
「………終わりだぜ、イエガー。ドンの仇を取らせて貰うわ」
その輝きを睨み付けながら言い放てば、奴は薄く笑う。それはまるでこの結果を見越して居た様な、顔で。
「……、まさか」
「…………言ったでしょう、ユーと同じ、だと」
ごぽり、と嫌な音を立てて血が吐き出される。立てていた膝を支える力さえも残っていないのか、そのまま血溜まりの中に倒れ込んだ。
留めを刺そうと構えていた短剣は奴の頭上で止まったままだ。こんな物を使わなくても、この男は、もう直ぐ終わる。俺が留めを刺さなくとも。
「……は、相変わらず、甘い、な…シュヴァーン、」
そう最期に呟いて、奴は眼を閉じる。
胸の魔導器の輝きは、静かに消えていった。





「……、おっさん」
奴の命が消えていく様を只眺めていれば、後ろから掠れては居るけれど聞き慣れた声が聞こえた。振り向けば青年が嬢ちゃんに咎められながらも起き上がっている。腹に手を当て、苦悶の表情を浮かべながら、だけれど。
「青年、……ごめんね、おっさんのせいで」
「いいって、それより、良かったのか」
そう言う青年の目線は奴に向いている。未だ握られたままの短剣はあまり汚れてはいない。
「やっこさん、死にたがってたみたいだからねぇ、そこで留め刺したら逆効果でしょ」
それを鞘に仕舞い開いた手を振りながら言葉を返せば、明らかに納得していない顔を見せながらも敢えてそれ以上言いはしない。青年のその素振りには胸が痛む気がしたけれど、それが逆に嬉しかった。
「後は、あいつだけか」
「この状態で挑んでも勝たせてくれる様な人じゃないわよ。焦っても仕方無いし、取り敢えずここで体勢立て直そうや」
幸いにも此処には他の敵が来る気配はない。唯一の扉にさえ気を掛けていれば、ある意味隔離された空間だ。奴の事が気にならない訳では無いが、それを言っては居られないのが現状。
「………意外と結構、冷静なんだな」
俺の言葉に同調するように、皆は痛めた身体を床に休めて各々回復術やアイテムを使い始める。呆気に取られる青年にもグミを投げつけて、軽く笑いながら散らばった矢を拾い集める。
「何か、おっさんも自分で不思議なんだけどねぇ」
折れて無い物を大方拾い終えて、青年の横に腰を降ろす。未だ痛んでいるであろう腹に回復術を掛けてやりながら、そう苦笑した。

本当に不思議だった。此処に来るまでは冷静では居られないだろうと自分でも思っていた。いや、寧ろ奴と戦う前まで思っていたのだ。彼がまた自分を欲してくれたら、自分は本当に彼の元に戻ったりしないだろうかと。幾ら彼が歪んでしまっていても、それに今まで自分は付いて行っていたのだから、と。
彼らの前では決して言えないそんな事をずっと考えていたのに。
奴の最期を見たら、気付いてしまった。いや、思い知らされたという方が正しいか。分かっては居たけれど、改めて現実を突きつけられたのだ。

彼はやはり、もう道具を必要としていないのだと。

そう悟ればそれまでで、思考は急激に冷めていって今に至る。結局は道具としてまだ彼に縋りたかったのかと自分を笑いたくもなったけれど、それさえも馬鹿らしいと思ってしまった。

「………漸く、目が覚めたって所かね」
青年の傷が大方塞がるのを見て、掛けていた回復術を止める。軽く自身にも掛けてから周りを見れば、準備は出来ている様だった。ゆっくりと立ち上がり先に進むために扉に向かう。
遠くで眠る奴の顔を再度見ることは、無かった。



開いた扉の先には彼が背を向けて立っていて、演技掛かった仕草でゆっくりと振り返る。彼の視線は決して自分を見る事は無く、青年に鋭く突き刺さるばかりだ。
「その分ではイエガーは役には立たなかったようだな」
「……死んだよ」
「最後くらいはと思ったが、とんだ見込み違いだったか」
そう吐き捨てる彼の顔には微塵の感情も浮かんでいない。続けられる言葉は彼が求めていた望みを示したものだけ。何度聞いたか分からないそれは、今や只の音と化してしまった。
「なぁ大将、どうあってもやめる気はねぇの」
それでもそう発してしまったのは、最後の望みを捨てられずに居るからだろうか。彼が用無しの道具の言葉を聞く筈が無いのに。返ってくる言葉など、無いに等しいに決まっている。
「………お前までがそんなことを言うのか」
けれど返ってきたのはそんな寂しげな言葉だった。

何故、貴方はそんな顔でそんな台詞を自分に向かって言うのか。自分は用無しになったのでしょう。貴方の理想に自分は必要無くなったのでしょう。


貴方の本心は、一体何処にあると言うのか。





結構長めの10のお題2より
配布元:Abandon



取り敢えずこれで一つ目が終わりです。長い(苦笑
連作全部でどれだけになるのか考えると笑えてくるんですが。
終わるかなぁ、この連作。
取り敢えず忘れ去られる前には完成したいです(苦笑

次からは過去話に進みます。

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