2009'08.31.Mon
永久天使性結晶症なゼロスのお話。
長くなったので2つに分けました(苦笑
久しぶりに己の手の中に戻ってきた紅色のそれ。大層大事に保管してくれていたのだろう、目立った傷は一切無いその石を手のひらで遊ぶ。
ゆっくりと近付いてくるのは、聳え立つ塔への大きな門。それを開ける台座の前に立ち、胸元に手を当て、気付かれない程度の小さな溜め息を吐いた。
かちり、と音を立てて今まで要の紋の中心にあった石が外れる。手の中のそれをゆっくりとその穴にはめれば、ずきん、と一瞬身体に走った痛み。
それに気付かない振りをして、台座に手をかざせば、大きな音を立てて、門が開く。
喜ぶ皆の声を聞きながら、またずきん、と痛んだ身体を誤魔化す様に、笑った。
目の前で繰り広げられる彼との戦闘。ロイドが素早い剣技を繰り出して、それに続く様に皆も技を繋げていく。そんな状態で後衛に回れたのは運が良かった。皆に言えはしないけれど、こんな身体で前衛は正直無理があった。何より。
彼なら、俺の異常に気付くだろうと、そんな予感があったから。
輝石のお陰で威力を増した魔術が、彼へと向かって雷を落とす。それを素早く避けながら、彼は俺に向かって遠くから技を放った。
近付いてくる衝撃波。いつもならば避けられる程度のそれ。彼も詠唱を遮るくらいのつもりで放ったのだろう、直ぐ様視線は他に向いている。
詠唱後の硬直も解け、直ぐに避けようと身体を動かす。その瞬間。
ずぎん、と身体に走る激しい痛み。
一際酷いそれに一瞬身体の動きが止まり、衝撃波を諸に受けてしまう。比較的弱い技だったから、少し体力が削られる程度で、皆にばれない内にと直ぐに回復してしまったけれど。
彼の少し見開かれた瞳に、ああ、やっぱり。と思う事しか出来なかった。
「これでコレットの病気が治せるな!」
天使から渡されたマナのかけらを見ながら嬉しそうにロイドは言う。コレットもそれに同調する様に頷いていたが、顔色はあまり良くなかった。
「大事に扱いなさい、一つしか無いのだから、無くすなんて事の無い様に」
「分かってるよ、リフィル先生」
そう、今ロイド達が手にしているのは、コレットの病気を治す為の物。二人分なんて有りはしない。当たり前だ。皆は俺の異常には気付いていないのだから。
「それにしてもクラトスが助けてくれるなんてな」
「案外このつもりで連行させたのかも知れないね」
天使に見つかり再び捕らえられそうになった時、なんと彼が助けに入ったのだ。内心、結局息子が心配なんだろ、と思わずにはいられなかったけれど、何食わぬ顔で皆と同じ様に驚く振りをした。
彼が天使に命じたお陰で、捕らえられる所かマナのかけらも手に入れて、しかも街の中を自由に動ける様になってしまった。それに加えて、とりあえずこの機会に色々探索しようと、不用心にも別行動を始める始末。
そのあまりののん気さに呆れて、まぁ時間の問題だろうな、と冷めた思考で考えていれば、不意に背後に聞こえた声に、また呆れる羽目になった。
「………なんでこう、あんたら親子は変なとこばっか似てんだよ」
振り返った先に居たのはやはりかの天使様で、周りを気にしないその様子に苦笑するしかなかった。俺が一人だったから良かったものの、こんな目立つ場所で接触するなんて。
「……神子よ」
とにかく皆に見つかりません様に。そう唯願っていれば、仏頂面で低く呟かれた俺を呼ぶ声。それに渋々視線を向ければ、それから先に続かない言葉。無言で向けられる視線に苛立ちを隠せなかった。
「………、何か言いたい事があるならはっきり言えよ」
舌打ち混じりにそう言えば、じりじりと彼は距離を詰めてきた。内心焦るけれど、時既に遅し。
気が付けばがっしりと彼に腕を掴まれていて、只彼に引かれる儘に彼の部屋に連れて来られていた。
2へ続きます。
長くなったので2つに分けました(苦笑
久しぶりに己の手の中に戻ってきた紅色のそれ。大層大事に保管してくれていたのだろう、目立った傷は一切無いその石を手のひらで遊ぶ。
ゆっくりと近付いてくるのは、聳え立つ塔への大きな門。それを開ける台座の前に立ち、胸元に手を当て、気付かれない程度の小さな溜め息を吐いた。
かちり、と音を立てて今まで要の紋の中心にあった石が外れる。手の中のそれをゆっくりとその穴にはめれば、ずきん、と一瞬身体に走った痛み。
それに気付かない振りをして、台座に手をかざせば、大きな音を立てて、門が開く。
喜ぶ皆の声を聞きながら、またずきん、と痛んだ身体を誤魔化す様に、笑った。
目の前で繰り広げられる彼との戦闘。ロイドが素早い剣技を繰り出して、それに続く様に皆も技を繋げていく。そんな状態で後衛に回れたのは運が良かった。皆に言えはしないけれど、こんな身体で前衛は正直無理があった。何より。
彼なら、俺の異常に気付くだろうと、そんな予感があったから。
輝石のお陰で威力を増した魔術が、彼へと向かって雷を落とす。それを素早く避けながら、彼は俺に向かって遠くから技を放った。
近付いてくる衝撃波。いつもならば避けられる程度のそれ。彼も詠唱を遮るくらいのつもりで放ったのだろう、直ぐ様視線は他に向いている。
詠唱後の硬直も解け、直ぐに避けようと身体を動かす。その瞬間。
ずぎん、と身体に走る激しい痛み。
一際酷いそれに一瞬身体の動きが止まり、衝撃波を諸に受けてしまう。比較的弱い技だったから、少し体力が削られる程度で、皆にばれない内にと直ぐに回復してしまったけれど。
彼の少し見開かれた瞳に、ああ、やっぱり。と思う事しか出来なかった。
「これでコレットの病気が治せるな!」
天使から渡されたマナのかけらを見ながら嬉しそうにロイドは言う。コレットもそれに同調する様に頷いていたが、顔色はあまり良くなかった。
「大事に扱いなさい、一つしか無いのだから、無くすなんて事の無い様に」
「分かってるよ、リフィル先生」
そう、今ロイド達が手にしているのは、コレットの病気を治す為の物。二人分なんて有りはしない。当たり前だ。皆は俺の異常には気付いていないのだから。
「それにしてもクラトスが助けてくれるなんてな」
「案外このつもりで連行させたのかも知れないね」
天使に見つかり再び捕らえられそうになった時、なんと彼が助けに入ったのだ。内心、結局息子が心配なんだろ、と思わずにはいられなかったけれど、何食わぬ顔で皆と同じ様に驚く振りをした。
彼が天使に命じたお陰で、捕らえられる所かマナのかけらも手に入れて、しかも街の中を自由に動ける様になってしまった。それに加えて、とりあえずこの機会に色々探索しようと、不用心にも別行動を始める始末。
そのあまりののん気さに呆れて、まぁ時間の問題だろうな、と冷めた思考で考えていれば、不意に背後に聞こえた声に、また呆れる羽目になった。
「………なんでこう、あんたら親子は変なとこばっか似てんだよ」
振り返った先に居たのはやはりかの天使様で、周りを気にしないその様子に苦笑するしかなかった。俺が一人だったから良かったものの、こんな目立つ場所で接触するなんて。
「……神子よ」
とにかく皆に見つかりません様に。そう唯願っていれば、仏頂面で低く呟かれた俺を呼ぶ声。それに渋々視線を向ければ、それから先に続かない言葉。無言で向けられる視線に苛立ちを隠せなかった。
「………、何か言いたい事があるならはっきり言えよ」
舌打ち混じりにそう言えば、じりじりと彼は距離を詰めてきた。内心焦るけれど、時既に遅し。
気が付けばがっしりと彼に腕を掴まれていて、只彼に引かれる儘に彼の部屋に連れて来られていた。
2へ続きます。
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2009'08.17.Mon
マガログ第二弾6月ログでルクアシュ。
ぬるいえろ文。珍しい出来のお話。
いちゃいちゃしてるだけ。
暖かい日差しの中、遠くに小鳥の囀りを聞きながらふかふかとしたベッドの上で微睡む。時折瞼を刺激する日光に起床を促されるけれど、まだ頭はぼんやりとしていて、もう少しこうして横になっていたかった。
とりあえず眩しい日光から逃げるために体を反転させようと頭を捻る。すると目の前に紅い髪が広がっていた。結構な長さのそれに、あれ俺髪切ったはずだよなぁ、と考えていれば、その隙間から覗いた見慣れた白い顔に、一瞬にして昨日の事を思い出した。
(そう言えばアッシュと寝たんだっけ)
昨晩偶然にも同じ宿に泊まる事になった俺達は、部屋代を節約するために同じ部屋に泊まる事にした。元々俺達の方は男性陣の部屋は一人分開いていたし、アッシュも丁度良かったんだと思う。最初は嫌々って感じだったけど。
本当は何事も無く朝を迎えるつもりだった。俺達もアッシュも毎日忙しく動き回っている身だ。宿でゆっくり休める日は決して多くは無い。だから俺もそうだけど、アッシュも疲れてるだろうと思って我慢しようとした。
(あれはアッシュが綺麗なのがいけないんだよな)
そう決意して部屋の扉を開ければ、そこに居たのは珍しく前髪を下ろしたままのアッシュで。僅かに湿ったそれに風呂上がりだと分かる。紅くていつもはさらさらしてる髪が顔や首に軽く張り付いていて、何て言うか、えろかった。
少なからず何度かアッシュとそう言う事をしている身としては、その姿に色々と想像してしまう訳で。ドアの前で固まった俺を、らしくないきょとんとした顔で見つめられれば、我慢なんて出来るはずがなかった。
「あー……駄目じゃん、俺」
一通り思い返せばもう意識はしっかりしていて。寧ろ昨晩の事を思い出したせいで、朝っぱらだというのに自身が元気になっている。泣きたい気分だ。しょうがないからトイレ行くか、と情けなくベッドから身を起こせば。
「………ぅん、」
「……え、勘弁してよアッシュー…」
ぐい、と腕を引かれて再びベッドに沈んでしまう。一層アッシュの顔が近くになって、身体の熱もまた上がってしまった。
逃げようと身を捻ってもアッシュの腕は俺の背中に回っていて身動きが出来なかった。夢で俺の事とか見てるのかなぁ、なんて少し嬉しくも思ったりしながらも、上がる一方の熱に困り果ててしまう。
(正直、もう我慢出来そうに無いよ…)
そんな俺を知る由も無く、アッシュはすやすやと規則正しい寝息を立てている。薄く開いたその唇を見ていたら、何だか無性にキスしたくなって、起こさない様に恐る恐る顔を近付けた。触れれば柔らかいそこに、昨晩の事を思い出しながら何度も何度も啄む様に軽いキスをする。この感触をおかずに後で抜こうとぼんやり考えながら繰り返していれば、唐突に聞こえる呻き声。見ればアッシュが薄く瞼を開いて、未だ意識は夢の中なのかぼんやりとしたまま俺を見ていた。
とっさに顔を離して出来る限り距離を取る。腕はまだ背中に回ったままだから、あまり離れてはいないけれど。
「………るーく、?」
「あ、はは……おはよ、アッシュ」
俺の姿を確認して、寝起きの舌っ足らずな声で俺の名を呼ぶ。誤魔化す様に返事をすれば、アッシュは不思議そうに目を瞬きさせる。その様子に可愛いなぁ、と思っていれば、唐突に突き放された。
「な…、何してやがるんだっ、この屑が!」
「何だよーアッシュ、寝ぼけて離さなかったのはお前だろ」
「……う、煩い」
「まぁいいや、離して貰えたし俺トイレに……」
目が覚めた瞬間、さっきまでの可愛い素振りは無くなって、いつものアッシュに戻ってしまった。それはそれで良いんだけど、何だか残念な気分だ。さっきの感触を忘れない内にトイレに逃げ込んでしまおう。
そう思ってアッシュに背を向ければ、再び引き寄せられた腕。振り向けばアッシュが済まなそうな顔をして腕を伸ばしていた。
「アッシュ?」
「……おい、それ」
そう言って見つめてるのは盛り上がっている俺のズボンの部分で、もう情けないというか恥ずかしいというか、居たたまれない気分で一杯だ。
「え、あ、気にしないでって…え?」
「動くなよ」
「え、ちょっと、アッシュ!?」
いつの間にかアッシュの腕は俺のズボンに掛かっていて、慌ててる俺を尻目にそのまま下着姿にされてしまう。その上から自身をその長い指で撫でられれば、息を飲まずには居られなかった。
「っ…、アッシュ何で、」
「……別に」
戸惑いながらそう問い掛ければ、素っ気ない返事が返ってくる。でも赤くなってる顔に照れているんだとすぐに分かった。だって、耳まで真っ赤に染まってるしな。その様子に微笑めば、アッシュは俯いて顔を隠す。紅い髪の隙間から見える顔は、更に真っ赤に染まっていた。
「……、もしかしてアッシュも」
「………っ、」
「やっぱ俺の事夢見てたんだ、アッシュって本当可愛いよな」
「いい加減な事を言っ…、ぅあっ」
「ほら、こんなに」
そう言ってアッシュの自身に腕を伸ばせば、そこは俺と同じ様に張り詰めていて、ゆっくりと布越しに扱いてやれば微かに湿り気が帯びてくる。堪える様に小さく声を漏らすアッシュをもっと見たいと思って、邪魔な布を取っ払って直接触れてみた。するとアッシュは嫌々と首を振りながら快感に堪える。その姿が一層可愛かった。
「気持ちいい?」
「そ、なわけな…いっ、」
「素直じゃないよなぁ。ならさ、ここの手止めるなよ。俺、アッシュに気持ち良くして貰いたいし」
いつの間にか止まっていたそこを指差せば、アッシュは思い出した様にゆるゆると指を動かす。その顔は何だか一生懸命で、その健気さに愛おしくなった。それに応える様に俺も一生懸命アッシュの自身を扱いてやる。
気が付けば二人とも朝っぱらから身体を晒して慰め合っていた。互いに交差させた腕の先で、指先で熱を高め合う。
「…っ、アッ、シュっ…一緒に…!」
「んっあ、あっ…るーく……っ!」
殆ど同時に白濁を吐き出して、力の抜ける身体を抱き合いながらベッドに倒れ込む。何だかとても幸せな気分だ。
「………朝からこんな事をするなど」
「先にアッシュがあんな事するからだろ、本当に素直じゃないよなぁ」
「黙れ」
「ま、俺はそんなアッシュを愛してるんだけど」
そう言えばアッシュはまた顔を真っ赤にさせて、そのままシーツに包まってしまった。その姿にまた可愛い、と呟いてシーツごと抱き締めれば、紅い髪は少し揺れたけれど、そのまま静かに腕の中に収まっていた。
選択制お題より。
配布元:Abandon
ぬるいえろ文。珍しい出来のお話。
いちゃいちゃしてるだけ。
暖かい日差しの中、遠くに小鳥の囀りを聞きながらふかふかとしたベッドの上で微睡む。時折瞼を刺激する日光に起床を促されるけれど、まだ頭はぼんやりとしていて、もう少しこうして横になっていたかった。
とりあえず眩しい日光から逃げるために体を反転させようと頭を捻る。すると目の前に紅い髪が広がっていた。結構な長さのそれに、あれ俺髪切ったはずだよなぁ、と考えていれば、その隙間から覗いた見慣れた白い顔に、一瞬にして昨日の事を思い出した。
(そう言えばアッシュと寝たんだっけ)
昨晩偶然にも同じ宿に泊まる事になった俺達は、部屋代を節約するために同じ部屋に泊まる事にした。元々俺達の方は男性陣の部屋は一人分開いていたし、アッシュも丁度良かったんだと思う。最初は嫌々って感じだったけど。
本当は何事も無く朝を迎えるつもりだった。俺達もアッシュも毎日忙しく動き回っている身だ。宿でゆっくり休める日は決して多くは無い。だから俺もそうだけど、アッシュも疲れてるだろうと思って我慢しようとした。
(あれはアッシュが綺麗なのがいけないんだよな)
そう決意して部屋の扉を開ければ、そこに居たのは珍しく前髪を下ろしたままのアッシュで。僅かに湿ったそれに風呂上がりだと分かる。紅くていつもはさらさらしてる髪が顔や首に軽く張り付いていて、何て言うか、えろかった。
少なからず何度かアッシュとそう言う事をしている身としては、その姿に色々と想像してしまう訳で。ドアの前で固まった俺を、らしくないきょとんとした顔で見つめられれば、我慢なんて出来るはずがなかった。
「あー……駄目じゃん、俺」
一通り思い返せばもう意識はしっかりしていて。寧ろ昨晩の事を思い出したせいで、朝っぱらだというのに自身が元気になっている。泣きたい気分だ。しょうがないからトイレ行くか、と情けなくベッドから身を起こせば。
「………ぅん、」
「……え、勘弁してよアッシュー…」
ぐい、と腕を引かれて再びベッドに沈んでしまう。一層アッシュの顔が近くになって、身体の熱もまた上がってしまった。
逃げようと身を捻ってもアッシュの腕は俺の背中に回っていて身動きが出来なかった。夢で俺の事とか見てるのかなぁ、なんて少し嬉しくも思ったりしながらも、上がる一方の熱に困り果ててしまう。
(正直、もう我慢出来そうに無いよ…)
そんな俺を知る由も無く、アッシュはすやすやと規則正しい寝息を立てている。薄く開いたその唇を見ていたら、何だか無性にキスしたくなって、起こさない様に恐る恐る顔を近付けた。触れれば柔らかいそこに、昨晩の事を思い出しながら何度も何度も啄む様に軽いキスをする。この感触をおかずに後で抜こうとぼんやり考えながら繰り返していれば、唐突に聞こえる呻き声。見ればアッシュが薄く瞼を開いて、未だ意識は夢の中なのかぼんやりとしたまま俺を見ていた。
とっさに顔を離して出来る限り距離を取る。腕はまだ背中に回ったままだから、あまり離れてはいないけれど。
「………るーく、?」
「あ、はは……おはよ、アッシュ」
俺の姿を確認して、寝起きの舌っ足らずな声で俺の名を呼ぶ。誤魔化す様に返事をすれば、アッシュは不思議そうに目を瞬きさせる。その様子に可愛いなぁ、と思っていれば、唐突に突き放された。
「な…、何してやがるんだっ、この屑が!」
「何だよーアッシュ、寝ぼけて離さなかったのはお前だろ」
「……う、煩い」
「まぁいいや、離して貰えたし俺トイレに……」
目が覚めた瞬間、さっきまでの可愛い素振りは無くなって、いつものアッシュに戻ってしまった。それはそれで良いんだけど、何だか残念な気分だ。さっきの感触を忘れない内にトイレに逃げ込んでしまおう。
そう思ってアッシュに背を向ければ、再び引き寄せられた腕。振り向けばアッシュが済まなそうな顔をして腕を伸ばしていた。
「アッシュ?」
「……おい、それ」
そう言って見つめてるのは盛り上がっている俺のズボンの部分で、もう情けないというか恥ずかしいというか、居たたまれない気分で一杯だ。
「え、あ、気にしないでって…え?」
「動くなよ」
「え、ちょっと、アッシュ!?」
いつの間にかアッシュの腕は俺のズボンに掛かっていて、慌ててる俺を尻目にそのまま下着姿にされてしまう。その上から自身をその長い指で撫でられれば、息を飲まずには居られなかった。
「っ…、アッシュ何で、」
「……別に」
戸惑いながらそう問い掛ければ、素っ気ない返事が返ってくる。でも赤くなってる顔に照れているんだとすぐに分かった。だって、耳まで真っ赤に染まってるしな。その様子に微笑めば、アッシュは俯いて顔を隠す。紅い髪の隙間から見える顔は、更に真っ赤に染まっていた。
「……、もしかしてアッシュも」
「………っ、」
「やっぱ俺の事夢見てたんだ、アッシュって本当可愛いよな」
「いい加減な事を言っ…、ぅあっ」
「ほら、こんなに」
そう言ってアッシュの自身に腕を伸ばせば、そこは俺と同じ様に張り詰めていて、ゆっくりと布越しに扱いてやれば微かに湿り気が帯びてくる。堪える様に小さく声を漏らすアッシュをもっと見たいと思って、邪魔な布を取っ払って直接触れてみた。するとアッシュは嫌々と首を振りながら快感に堪える。その姿が一層可愛かった。
「気持ちいい?」
「そ、なわけな…いっ、」
「素直じゃないよなぁ。ならさ、ここの手止めるなよ。俺、アッシュに気持ち良くして貰いたいし」
いつの間にか止まっていたそこを指差せば、アッシュは思い出した様にゆるゆると指を動かす。その顔は何だか一生懸命で、その健気さに愛おしくなった。それに応える様に俺も一生懸命アッシュの自身を扱いてやる。
気が付けば二人とも朝っぱらから身体を晒して慰め合っていた。互いに交差させた腕の先で、指先で熱を高め合う。
「…っ、アッ、シュっ…一緒に…!」
「んっあ、あっ…るーく……っ!」
殆ど同時に白濁を吐き出して、力の抜ける身体を抱き合いながらベッドに倒れ込む。何だかとても幸せな気分だ。
「………朝からこんな事をするなど」
「先にアッシュがあんな事するからだろ、本当に素直じゃないよなぁ」
「黙れ」
「ま、俺はそんなアッシュを愛してるんだけど」
そう言えばアッシュはまた顔を真っ赤にさせて、そのままシーツに包まってしまった。その姿にまた可愛い、と呟いてシーツごと抱き締めれば、紅い髪は少し揺れたけれど、そのまま静かに腕の中に収まっていた。
選択制お題より。
配布元:Abandon
2009'08.17.Mon
余りに文載せてなかったから、マガログを載せてしまう事にした。
更新すれば良いだけ、とかは言わないで。
とりあえず5月のログでピオジェ。
秘預言ネタ。
刻々と迫り来る期限。それは決して目に見えるものでは無かったけれど、しかし確実に近付いていた。
嘗て青々と繁っていた木々達は、今は無惨に枯れ果て茶色に変色している。街全体を包んでいる空気も淀んでいて、人の気配など有りはしない。
死んだ様なその街は、正しく人々に捨てられてしまったのだ。嘗ては綺麗だった建造物も今は崩れ果て、その隙間から見えるのは腐敗した死体ばかり。人の物ばかりではない、小動物や魔物でさえも息絶えていた。
その様を二つの赤い目が、布の隙間から見つめていた。
かつりかつりとブーツの音を響かせて進む先は嘗ての宮殿。他と同じ様に崩壊したそこには、やはり生きているものなど他に存在していなかった。
奥に進めば進むほど酷くなる腐敗臭。それに比例する様に増えていく死体。青い装飾で彩られた広間には、それを覆い隠す様に飛び散った多くの血が、最早黒く変色してこびり付いていた。
その広間の中央。唯一殆ど血に染まる事無く存在している立派な椅子。
男は周りに一切目を向けず、真っ直ぐその椅子の前に向かった。
誰も座っていないその椅子の前に男は恭しく跪き、大事に仕舞っていた青い髪飾りを一つ、その上に置いた。
「すみません、遅くなってしまいました、ピオニー」
布の隙間から蜂蜜色の髪を揺らして、男は静かに笑った。
息を切らしながら走り続けて、奴らから、首都から遠ざかる。しかし流れ続ける血に、傷が余りにも深い事は見て取れた。それでも足を止めさせる訳には行かなかった。彼が死んでしまったらこの国はどうなるというんだ。そして、私は。
「……もう、良い」
とうとう歩く事も出来なくなったのか、力無く地面に崩れ落ちる彼を両腕で支える。耳元から聞こえたのは掠れきったそんな小さな一言。それはいつもは強気の彼が漏らした、諦めの言葉だった。
腹部からじわじわと染み込んでくる血は尚も止まる事は無い。無駄だと分かっていたけれど、それでもそれを隠す様に強く抱き締めた。
「何を言っているんですか、エンゲーブまでもう直ぐですから」
「……お前らしく無いぞ、もう足掻いても無駄だと、解っているだろう」
血の気の引いた顔で無理に笑いながら弱々しく突き放される。再び露わになる赤く染まった腹部に、息が詰まった。
「……それでも、私は貴方に死んで欲しくは無い」
そこから目を背けながら小さく呟く。最後の方は聞き取ることなど出来なかっただろう。それでも彼は薄く笑いながら、それを聴いていた。
「お前が変わったのはあの子供の、お陰なんだろうな……」
そう言いながら力の籠もらない腕で頭を軽く撫でられる。嘗てとは違って弱々しいそれは、それでも、前と変わらず優しかった。
その腕が離れていったかと思うと彼は自らの髪を引っ張った。ぶちぶちという音と共に彼の綺麗な金髪が束になって切れる。何をするんだと咎めようとすれば、その手のひらから見えたのはあの青い髪飾り。彼がどんな事があろうと外しはしなかった物だ。
それを彼は己の髪ごと取り外したのだ。
「……なぁジェイド、いつか、この国が平和になったら、これを、この国のどこかに、置いてやってくれ」
そう言って手渡された髪飾りは、微かに傷が付いていたけれど、それでも綺麗な青色をしていた。それを大事に握り締めて再び彼を見れば、彼は満足そうな顔をしていた。
何故こんな時にそんな顔をしていられるのか。
「はは……、最期に看取られる時、は、美女にと、決めて、たんだがな…」
「……っ、止めて、下さい」
「まさか、お前とは、な……美人、に、は、違いない、な……」
「止めろ、ピオニー……もう、喋らないで、っ…」
「……、なくなよ、ジェイ、ド…」
そう言われて初めて自分が泣いていると気付く。力を失って下がり切った腕には涙を拭うことは出来ず、彼は只悲しそうに眺めているだけ。その姿に更に涙は溢れてくる。駄目だ、彼を見なくては。彼の最期を。
「……ジェ…ド、俺、は……」
そこで途切れた言葉が、彼の最期の言葉になった。
静まり返った宮殿の広間の、その中央に跪いていた男はゆっくりと立ち上がる。未だ椅子の上に置かれたままの髪飾りを愛おしく見つめてから、ゆっくりと背を向けた。
「……必ず、この国を元に戻して見せますから、ピオニー」
貴方に相応しいのはやはりその場所でしょう。だから貴方はそこで見ていて下さい。
荒廃した嘗ての帝国の首都を男はゆっくりと後にする。今は他に着る者はいない青い軍服を大きな布で隠しながら。そして彼は近くの街に立ち寄って。
そして、未来は。
選択制お題より。
配布元:Abandon
更新すれば良いだけ、とかは言わないで。
とりあえず5月のログでピオジェ。
秘預言ネタ。
刻々と迫り来る期限。それは決して目に見えるものでは無かったけれど、しかし確実に近付いていた。
嘗て青々と繁っていた木々達は、今は無惨に枯れ果て茶色に変色している。街全体を包んでいる空気も淀んでいて、人の気配など有りはしない。
死んだ様なその街は、正しく人々に捨てられてしまったのだ。嘗ては綺麗だった建造物も今は崩れ果て、その隙間から見えるのは腐敗した死体ばかり。人の物ばかりではない、小動物や魔物でさえも息絶えていた。
その様を二つの赤い目が、布の隙間から見つめていた。
かつりかつりとブーツの音を響かせて進む先は嘗ての宮殿。他と同じ様に崩壊したそこには、やはり生きているものなど他に存在していなかった。
奥に進めば進むほど酷くなる腐敗臭。それに比例する様に増えていく死体。青い装飾で彩られた広間には、それを覆い隠す様に飛び散った多くの血が、最早黒く変色してこびり付いていた。
その広間の中央。唯一殆ど血に染まる事無く存在している立派な椅子。
男は周りに一切目を向けず、真っ直ぐその椅子の前に向かった。
誰も座っていないその椅子の前に男は恭しく跪き、大事に仕舞っていた青い髪飾りを一つ、その上に置いた。
「すみません、遅くなってしまいました、ピオニー」
布の隙間から蜂蜜色の髪を揺らして、男は静かに笑った。
息を切らしながら走り続けて、奴らから、首都から遠ざかる。しかし流れ続ける血に、傷が余りにも深い事は見て取れた。それでも足を止めさせる訳には行かなかった。彼が死んでしまったらこの国はどうなるというんだ。そして、私は。
「……もう、良い」
とうとう歩く事も出来なくなったのか、力無く地面に崩れ落ちる彼を両腕で支える。耳元から聞こえたのは掠れきったそんな小さな一言。それはいつもは強気の彼が漏らした、諦めの言葉だった。
腹部からじわじわと染み込んでくる血は尚も止まる事は無い。無駄だと分かっていたけれど、それでもそれを隠す様に強く抱き締めた。
「何を言っているんですか、エンゲーブまでもう直ぐですから」
「……お前らしく無いぞ、もう足掻いても無駄だと、解っているだろう」
血の気の引いた顔で無理に笑いながら弱々しく突き放される。再び露わになる赤く染まった腹部に、息が詰まった。
「……それでも、私は貴方に死んで欲しくは無い」
そこから目を背けながら小さく呟く。最後の方は聞き取ることなど出来なかっただろう。それでも彼は薄く笑いながら、それを聴いていた。
「お前が変わったのはあの子供の、お陰なんだろうな……」
そう言いながら力の籠もらない腕で頭を軽く撫でられる。嘗てとは違って弱々しいそれは、それでも、前と変わらず優しかった。
その腕が離れていったかと思うと彼は自らの髪を引っ張った。ぶちぶちという音と共に彼の綺麗な金髪が束になって切れる。何をするんだと咎めようとすれば、その手のひらから見えたのはあの青い髪飾り。彼がどんな事があろうと外しはしなかった物だ。
それを彼は己の髪ごと取り外したのだ。
「……なぁジェイド、いつか、この国が平和になったら、これを、この国のどこかに、置いてやってくれ」
そう言って手渡された髪飾りは、微かに傷が付いていたけれど、それでも綺麗な青色をしていた。それを大事に握り締めて再び彼を見れば、彼は満足そうな顔をしていた。
何故こんな時にそんな顔をしていられるのか。
「はは……、最期に看取られる時、は、美女にと、決めて、たんだがな…」
「……っ、止めて、下さい」
「まさか、お前とは、な……美人、に、は、違いない、な……」
「止めろ、ピオニー……もう、喋らないで、っ…」
「……、なくなよ、ジェイ、ド…」
そう言われて初めて自分が泣いていると気付く。力を失って下がり切った腕には涙を拭うことは出来ず、彼は只悲しそうに眺めているだけ。その姿に更に涙は溢れてくる。駄目だ、彼を見なくては。彼の最期を。
「……ジェ…ド、俺、は……」
そこで途切れた言葉が、彼の最期の言葉になった。
静まり返った宮殿の広間の、その中央に跪いていた男はゆっくりと立ち上がる。未だ椅子の上に置かれたままの髪飾りを愛おしく見つめてから、ゆっくりと背を向けた。
「……必ず、この国を元に戻して見せますから、ピオニー」
貴方に相応しいのはやはりその場所でしょう。だから貴方はそこで見ていて下さい。
荒廃した嘗ての帝国の首都を男はゆっくりと後にする。今は他に着る者はいない青い軍服を大きな布で隠しながら。そして彼は近くの街に立ち寄って。
そして、未来は。
選択制お題より。
配布元:Abandon
2009'07.21.Tue
後半ゼロスがいつもに増して、女々しいです(苦笑
白い部屋。無機質な壁に無機質な光が這っているその部屋。潔癖な主が望むようにただ囲まれた空間だけが、その中にあった。
その白い空間に唯一散る赤い髪。微動だにしないその赤は、まるで死んでいるかの様に、床に横たわっていた。微かに上下する胸だけが、その赤がまだ息絶えていない事を示している。
「いい加減に起きたらどうだ」
白い空間に低く響く声。静かな足音をその閉鎖的な空間に響かせながら、部屋の主はその赤に向かっていく。上から降り注ぐ主の声に、赤いそれはゆっくりと首を動かした。
「……、…」
開かれた唇からは音は零れない。ただその動きは何かを紡ぐ様に震えていた。その姿に主はつまらなそうに冷たい視線を送る。転がる赤を蹴り上げれば、骨が軋む音が響く。また一層赤がじわりと広がった。
「あれはお前を助けになど来ない、分かっているだろう?」
嘲笑うかの様なその声色は酷く冷たく、しかし言い聞かせるかの様に部屋に静かに反響する。それに合わせてびくりと震えた赤に薄く笑って、乱れた赤を掴み上げた。
「っい、た……」
「ねぇ、ゼロス。僕はお前を買っていたのに、お前は僕の期待を裏切るつもりなのかな?」
無理矢理に引っ張られる髪はぶちぶちと音を立てて切れた。その痛みに声を上げれば、主は更に笑いながらまるで子供を諭す様に言葉を続ける。ゆっくりと頬を撫でる指は酷く優しく、それは今の状況には不釣り合いだった。
「ミ、トス…様…」
「お前は、もう要らないよ」
「っ……ぁ、……」
途端掴んでいた髪を離され、そのまま床に落下する。突然の衝撃に茫然としながらも、急いで主の方を見れば、来た時と同じ静かな足音で去っていく後ろ姿しか見えなかった。
かつり、と小さく部屋に響いた足音。それは同じリズムを刻みながら自分へと近付いてくる。それは倒れる自分の手前でゆっくりと止まった。
「………ファーストエイド」
低い声で呟かれたそれはじくじくと痛んでいた腹部の傷を静かに癒やす。随分と楽になった身体を起こしてその声の主を見れば、とても心配そうな顔をしていた。
「……、クラトス」
その顔は今までに見たことの無い顔で、無意識にその名を呟いてしまう。すると即座にはぁ、と一息安堵の溜め息を吐いて、くしゃくしゃと頭を掻き撫でられた。まるで子供扱いのそれに、一気に恥ずかしくなって彼の手をぱしり、と弾いてしまう。
気まずい空気がその場に流れた。
「……その元気があれば、もう十分だな」
「あ、……悪い…」
「構わない、動ける様になったのならばな」
そう言って背を向けてかつりかつりと部屋の扉へと歩き出す。咄嗟に去り行くその腕を掴めば、振り向いた怪訝な目が自分を見ていた。
「…なぁ、なんでわざわざ、こんなとこまで…」
「計画を忘れた訳ではあるまい、……アイオニトスの為だ」
「っ……は、はは……そうだよな…」
震える唇で問い掛けた言葉は、冷たい声色で簡単に返された。分かっていた筈の答えに、笑いが止まらなかった。
「俺が倒れてたら、ロイドを助けらんないもんな……」
俺様馬鹿みてぇ。
目の奥が熱くなるのに気付かない振りをしながら、くつくつと誤魔化す様に笑い続ける。その様さえも静かに見ている彼に、堪えていたものが溢れ出した。
「あんたも、使えない俺は、要らないんだろ」
縋るように見つめた彼の姿は、視界が涙で滲んでよく見えない。あぁ無様だ。勝手に期待して、結局はいつもそうだ。俺が望むものはいつも。
「ゼロス」
強く言い放たれた自分の名前に、反射的にびくり、と身体が震えた。延びてくる腕は自分を叩くのだろうか、それとも突き放すのだろうか。ぎゅっと瞳を閉じてこれからの事に構えていれば、考えていた衝撃はいつまで経ってもやってこない。恐る恐る閉じていた瞳を開ければ、目の前にその長い指先があって。
「すまない……こんなつもりでは無かったのだがな」
いつの間にか頬は涙で濡れていて、それを長い指先が静かに拭っていく。優しいその動きに、涙は止まる所か益々溢れていくばかりだ。何が何だか訳が分からずに、涙でぐしょぐしょの不細工な顔のまま彼を見つめれば、彼は困った様な顔をしていた。
「確かにここに来たのはアイオニトスの為だが……、お前を助けたのはそんな理由ではない」
そう言って呆けたままの俺を抱き締める。力強い筈のそれは労る様に優しくて、されるがままにその暖かさに身を預けた。
「……なら、なんで」
胸に顔を埋めたまま、涙混じりの声でそう短く問い掛ける。返事の代わりに頭を優しく撫でられて、やはり照れくさかったけれど、今度はその手を振り払いはしない。
「お前に生きていて欲しい、ただ、それだけだ」
頭上から降ってきた、低く静かな、でも優しいその声色。漸く乾いた筈の頬が、また温かく濡れていた。
選択制お題より。
配布元:Abandon
10万打フリリクユグゼロ→←クラでした。頭にも書きましたがゼロス君が女々しくなってしまいました(苦笑
前半のユグ様(もといほぼミトスですが)が特に楽しかったですが、後半のクラゼロも久しぶりの甘さで書いててなんか新鮮でした。
るん様こんなもので宜しかったでしょうか?
リクエストありがとうございました!
白い部屋。無機質な壁に無機質な光が這っているその部屋。潔癖な主が望むようにただ囲まれた空間だけが、その中にあった。
その白い空間に唯一散る赤い髪。微動だにしないその赤は、まるで死んでいるかの様に、床に横たわっていた。微かに上下する胸だけが、その赤がまだ息絶えていない事を示している。
「いい加減に起きたらどうだ」
白い空間に低く響く声。静かな足音をその閉鎖的な空間に響かせながら、部屋の主はその赤に向かっていく。上から降り注ぐ主の声に、赤いそれはゆっくりと首を動かした。
「……、…」
開かれた唇からは音は零れない。ただその動きは何かを紡ぐ様に震えていた。その姿に主はつまらなそうに冷たい視線を送る。転がる赤を蹴り上げれば、骨が軋む音が響く。また一層赤がじわりと広がった。
「あれはお前を助けになど来ない、分かっているだろう?」
嘲笑うかの様なその声色は酷く冷たく、しかし言い聞かせるかの様に部屋に静かに反響する。それに合わせてびくりと震えた赤に薄く笑って、乱れた赤を掴み上げた。
「っい、た……」
「ねぇ、ゼロス。僕はお前を買っていたのに、お前は僕の期待を裏切るつもりなのかな?」
無理矢理に引っ張られる髪はぶちぶちと音を立てて切れた。その痛みに声を上げれば、主は更に笑いながらまるで子供を諭す様に言葉を続ける。ゆっくりと頬を撫でる指は酷く優しく、それは今の状況には不釣り合いだった。
「ミ、トス…様…」
「お前は、もう要らないよ」
「っ……ぁ、……」
途端掴んでいた髪を離され、そのまま床に落下する。突然の衝撃に茫然としながらも、急いで主の方を見れば、来た時と同じ静かな足音で去っていく後ろ姿しか見えなかった。
かつり、と小さく部屋に響いた足音。それは同じリズムを刻みながら自分へと近付いてくる。それは倒れる自分の手前でゆっくりと止まった。
「………ファーストエイド」
低い声で呟かれたそれはじくじくと痛んでいた腹部の傷を静かに癒やす。随分と楽になった身体を起こしてその声の主を見れば、とても心配そうな顔をしていた。
「……、クラトス」
その顔は今までに見たことの無い顔で、無意識にその名を呟いてしまう。すると即座にはぁ、と一息安堵の溜め息を吐いて、くしゃくしゃと頭を掻き撫でられた。まるで子供扱いのそれに、一気に恥ずかしくなって彼の手をぱしり、と弾いてしまう。
気まずい空気がその場に流れた。
「……その元気があれば、もう十分だな」
「あ、……悪い…」
「構わない、動ける様になったのならばな」
そう言って背を向けてかつりかつりと部屋の扉へと歩き出す。咄嗟に去り行くその腕を掴めば、振り向いた怪訝な目が自分を見ていた。
「…なぁ、なんでわざわざ、こんなとこまで…」
「計画を忘れた訳ではあるまい、……アイオニトスの為だ」
「っ……は、はは……そうだよな…」
震える唇で問い掛けた言葉は、冷たい声色で簡単に返された。分かっていた筈の答えに、笑いが止まらなかった。
「俺が倒れてたら、ロイドを助けらんないもんな……」
俺様馬鹿みてぇ。
目の奥が熱くなるのに気付かない振りをしながら、くつくつと誤魔化す様に笑い続ける。その様さえも静かに見ている彼に、堪えていたものが溢れ出した。
「あんたも、使えない俺は、要らないんだろ」
縋るように見つめた彼の姿は、視界が涙で滲んでよく見えない。あぁ無様だ。勝手に期待して、結局はいつもそうだ。俺が望むものはいつも。
「ゼロス」
強く言い放たれた自分の名前に、反射的にびくり、と身体が震えた。延びてくる腕は自分を叩くのだろうか、それとも突き放すのだろうか。ぎゅっと瞳を閉じてこれからの事に構えていれば、考えていた衝撃はいつまで経ってもやってこない。恐る恐る閉じていた瞳を開ければ、目の前にその長い指先があって。
「すまない……こんなつもりでは無かったのだがな」
いつの間にか頬は涙で濡れていて、それを長い指先が静かに拭っていく。優しいその動きに、涙は止まる所か益々溢れていくばかりだ。何が何だか訳が分からずに、涙でぐしょぐしょの不細工な顔のまま彼を見つめれば、彼は困った様な顔をしていた。
「確かにここに来たのはアイオニトスの為だが……、お前を助けたのはそんな理由ではない」
そう言って呆けたままの俺を抱き締める。力強い筈のそれは労る様に優しくて、されるがままにその暖かさに身を預けた。
「……なら、なんで」
胸に顔を埋めたまま、涙混じりの声でそう短く問い掛ける。返事の代わりに頭を優しく撫でられて、やはり照れくさかったけれど、今度はその手を振り払いはしない。
「お前に生きていて欲しい、ただ、それだけだ」
頭上から降ってきた、低く静かな、でも優しいその声色。漸く乾いた筈の頬が、また温かく濡れていた。
選択制お題より。
配布元:Abandon
10万打フリリクユグゼロ→←クラでした。頭にも書きましたがゼロス君が女々しくなってしまいました(苦笑
前半のユグ様(もといほぼミトスですが)が特に楽しかったですが、後半のクラゼロも久しぶりの甘さで書いててなんか新鮮でした。
るん様こんなもので宜しかったでしょうか?
リクエストありがとうございました!
2009'07.05.Sun
真っ暗に染まった視界。ぐちゃぐちゃに歪んだ思考の中で分かるのは堕ちていく感覚。唯それだけ。ああもう終わるんだなぁと他人事の様に思っていれば、突然それが真っ白に開かれる。浮き上がる思考。重い瞼が痙攣して覚醒を促す。
「あ、れ……?」
「起きたか、おっさん」
「………せーねん、?」
ぱちくりと開いた瞼の先には見慣れた黒い姿の彼が居て。意地悪そうな顔に笑みを浮かべながら俺を見ていた。そこは真っ暗でも真っ白でもない、普通の部屋だ。何だかそれに拍子抜けしてしまう。だって今さっきまで、もう終わるんだと思っていたのに。ほら今だって左胸から。
「……あー……俺生き返ったんだっけ」
「おい、おっさん、一体どんな物騒な夢見てたんだよ……」
「そうか、あれ夢だったのね、通りで」
何も聞こえなかった筈だ。あの情景に付いてくる筈の轟音や悲鳴が無い無音の世界だった。あの人の言葉も聞こえなかったもの。ああそうだ、考えれば考えるほどあれは不思議な世界だった。
「……うわぁ、嫌な夢見ちゃったわ」
「そりゃご愁傷様。いい加減その嫌な夢の世界から帰って来てくんねぇかな」
「へ……?」
頭を持ち上げる前にそこに伸びてきたのは彼の腕。何をされるのかと思いきや真っ直ぐに指を指されて意味が分からず戸惑う。俺何かしたかしらね。
「泣いてるぞ、おっさん」
「え、嘘……あらま、ほんとね」
言われて目元を拭えばじんわりと湿っていて、泣いていた事を示していた。無意識のそれに驚きが漏れる。悲しいとか嬉しいとか、そんな事を感じるような夢では無かったのに。
「……妬けるな」
「何がよ、青年」
「別に」
真っ暗な、いや真っ赤な?視界にあったのは虚無だけで。ただ与えられる情景を見続けるだけ。まるで演劇を見ている観客の様な。だって俺は、もうそこには居ないもの。
「多分だけど、青年が考えてるのとは違うわよ、きっと」
「俺は何も言ってねぇぞ」
「はいはいそーね。……あのね青年、きっと俺、悔しかったのよ」
そう言って笑った俺とは対照的な彼の顔。深く刻まれた眉間の皺に苦笑した。やっぱりほら、勘違いしてる。
「俺はまだ終われないみたいだからさ」
ね、そうなんでしょ、青年。
そう仏頂面した彼に笑いかければ、呆気に取られた間抜けな顔になって返ってくる。ああ何て彼らしくない顔。
「……ったく、心配して損したぜ」
「あら、おっさんの事心配してくれたの?嬉しいわね」
するといきなり剥がれた毛布。冷たい朝の空気が肌を刺した。何すんのよ青年。そう思って立ち上がった彼の顔に目を追えば。
「うわ、寒っ」
「そう思うんならいい加減起きるんだな、リタにど突かれても知らないぜ」
「酷いわよ、青年!」
さっきと変わらない意地悪い顔で、笑っていた。
だって視界は真っ白に開かれて、先に先にと自分を急かす。引っ張る腕は力強くてちょっと痛いけど、でもだからこそ頼もしい。もし俺が後ろを振り返っても、ちゃんと前を向かせてくれるんでしょ。
頼りにしてるからね、ユーリ。
選択制お題より。
配布元:Abandon
10万打フリリクのユリレイでした。どんなの書こうか悩んだ挙げ句、なんかおっさんの自己満足的なものになってしまいました(苦笑
匿名でリク下さった方、こんなもので宜しかったでしょうか。
リクエストありがとうございました!
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